3
内容は非現実的なのに、文章の雰囲気が切迫している。まるで、もうすぐ邪神が復活するからなんとかして倒せと訴えられているみたいだ。
本当に邪神が復活したって、人間にはどうしようもないじゃない。本を閉じて床にほおりだす。身体を倒して仰向けになった。
同時に視界が真横にぶれる。
「え、はわ」
横に強く引っ張られたかと思うと今度は逆方向に引かれる。本棚から本が落ち、机ががたがたとゆれた。地震だ。しかもかなり激しい。
「ああ、もう」
ベッドにしがみつき揺れが収まるのを待つ。まったく、最近は良くないことばかりおこる。
市の中心地あたりにある十字路のど真ん中でシュリュズベリイは何をするでもなく空を見上げていた。先程の激しいゆれはもうおさまっており、何事もなかったかのように静かだ。そうまるで、繁華街であるこの場所が無人であるかのように。
実際、シュリュズベリイが見る範囲ないに人影はひとつしかない。しかし彼は市の住民ではなく、シュリュズベリイの助手、フェランである。
優男風だが、みかけより遥かに頑健だと経験上シュリュズベリイは知っていた。
「先生、避難は完了しました」
あちこち走り回ったからであろう、彼のグリーンアイには疲労が濃く表れていた。そして疲労だけでなく不安の色も濃い。
「今の地震は召喚の影響でしょうか」
シュリュズベリイは軽く肩を竦めた。本人に自覚はないが、彼は年の割にそういったフランクな仕草がよく似合う。
「おそらくはな。一歩出遅れたようだ」
フェランはしばし俯いて沈痛な表情を見せたがすぐに顔をあげた。フェランの瞳には微かに活力が戻っている。
「さて、出遅れはしたがまだ我々は負けていない。切り札をきるとしよう。彼女は今何処に?」
「自宅にいます。ここからなら全力で走って五分くらいです」
「なら走っていくぞ」
言い終わる前にシュリュズベリイは駆けだしていた。フェランも駆けだしたがすでにシュリュズベリイの姿は見えない。フェランは苦笑いしつつ一人ごちる。
「俺、まだ彼女の家が何処か言ってないんだけどな」
やっとおさまった。彩名はベッドの上で吐息をついた。部屋を見回すと本や置物が散乱している。幸い、割れ物はないが片付けるのは一苦労だ。
乾いた音が二度鳴った。誰かがドアをノックしたようだ。はい、と返事をしかけて口をつぐむ。一体誰がノックしたのか。家族が帰ってくるにはまだ早すぎる。