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呼び声  作者: 一葉
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高校卒業まであと1ヶ月、久遠彩名は深くため息をついた。

登校日も今日を含めて後数回。はたしてあたしはどうなるのか。

去年ならそれなりに楽しかった朝の通学も、今は憂鬱だ。友人達はほとんど進学か就職を決めているのに、あたしはまだなにも決まっていない。

進学は早々にけつまずき。来年まで予備校にかよわせてくれと親に頼むも却下。それならば何とか就職をと走りまわるも総崩れ。

就活担当の先生から、どうしてもお金が必要ならと水商売系を紹介された時には泣きそうになってしまった。なんでも毎年お金がなくて不健全な仕事を始める学生もいるらしく、それならばと比較的安全な仕事を斡旋するらしい。

もう一度ため息。ほんとうにあたしはどうなってしまうのか。

ふと強い風が吹いた。反射てきにスカートを押さえる。なかなかの突風で一瞬目を閉じた。

風が収まり目を開けると奇妙なものが目にはいった。あたしの足下に本が落ちていたのだ。

漆黒といえばいいのだろうか。その本は奇妙な色合いをしていた。いや、黒には違いないのだが、なんというか、色がないから黒に見えているだけのような。

変な本だなと思いつつ、取り敢えず手にとってみる。

しげしげと眺めると背表紙にひどく崩れた字で何か書いてある。

『ルルイエ異本』

タイトルなのだろう、多分。しかし、ルルイエの異本? なにそれ。

「お嬢ちゃん、その本はどうしたのかな」

ふいに声をかけられ振り向くと変な人がたっていた。春先なのに厚手の黒いコートをきており、かなりあつそうだ。肌は褐色で髪は白髪を短く切りそろえていた。一見して外人だとしれる風貌であり、なかなか厳つい顔をしている。すでに五十はこえていそうだが、妙な若々しさがあった。

「え、いやこれは、ブックオフで」

咄嗟に嘘をつく。

「そうなのかい。その本は私の蔵書にあったものなんだ。どうも家の者が勝手に売ってしまったらしくてね。よければ譲ってもらえないだろうか」

言葉は礼儀ただしく、表情も穏やかだ、なのに。

「ああ、いえ、まだ読んでないので」

なんだか妖しい。

「じゃあ仕方ないね。でも気が変わったら連絡を貰えるかな」

いいながら彼は名刺をさしだしてきた。名刺をとりだす動作なんてしていなかったのに、いつのまにとりだしたのか。

名刺は案の定英語で書かれていたが、偏差値の低い私でもなんとか理解できる単語だ。


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