7月7日 七夕
しばらくすると、2人はのそりと立ち上がり、神原家を出た。そこから、2人は記憶が曖昧だったが、気づけば自分の部屋のベッドの上で寝転がっていた。家族に聞いてみると、夜中の日付が過ぎた辺りでふらりと帰ってきたそうだ。2人とも、深夜徘徊したということで親に叱られたが、それも頭に入ってこなかった。
2人は連絡を取り合って、近くの公園で会うことにした。その途中でインターネットなどを探してみたが、新たな死者は出ていなかった。
「上手く……やれたんだな……。」
「そう……よね……。」
2人は人がいない公園のベンチに並んで座り、そう漏らした。
「結局、あれは何だったんだろうな……。」
雄介は、今日を含めたここ7日間の異常を振り返った。
「未だに……信じられないわよね。」
裕子も同じ気持ちの様で、雄介に賛同した。
「ただ1つ言えることは、俺たちは大切な親友を失っちまったということだな。」
「そうね。真琴がいないと、寂しくなるわね。」
2人はそんな会話を交わし、またしばらくの沈黙を共有する。涙は出なかった。あのときに出し尽くしてしまったのだ。
「さっき、来る途中で短冊に書いてあった願い事を見たよ。『この異常を止めてくれ』ってさ。」
雄介はふと、こんな言葉を裕子に漏らした。
「それで、真琴のお姉さんの願いは『とおりゃんせをやってみたい』、だったわね。」
裕子もそれに反応する。
「こうしてみると……見事、七夕の短冊に書いた願いは叶ったんだよなぁ……。」
雄介は、どことなく感慨深げにそう言った。
「叶えてくれたのは、織姫様と彦星様かしら。……違うわね。真琴だわ。」
裕子も感慨深げにそう返す。
「七夕は、離された人が唯一出会える日、だったな。」
「それも、見事に当たっていたわね。」
2人はそう会話を交わしてため息を吐いた。
雄介と裕子は、会えなかった『親友』と出会い、真琴と尋美は『姉弟』として出会い、繋がった。
「7月7日に7歳か……。」
「ラッキーセブン……そんなわけないか。」
雄介の呟きに、裕子は反応して、自分で撤回した。
結局、この地域の実に半数以上が死んだ。これがラッキーなんてことはない。
2人は、先ほどより長い沈黙を共有する。
「よっこらせっと。」
そして、雄介がいきなり立ち上がる。
「俺は帰る。もう、この件で話すことはないしな。」
「そうね。私も帰る。」
雄介の言葉に、裕子もそういって立ち上がった。
「「真琴……。」」
気づかず、2人の言葉が重なる。2人が思い出したのは、最期の真琴の笑顔と言葉。
枯れたはずの涙が、また目から零れてきた。
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「あいつら……やったか。」
末原は、自宅で目を覚ますと、パソコンで状況を確認した。死者は0人。そして、寝てしまっていた自分も死んでいないとなると、この事件は終わった、と結論付けた。
そして、末原は、何となく、あの3人……真琴、雄介、裕子が終わらせてくれたのではないか、とも考えていた。
「さてと……仕事の準備と行くか。」
末原はそう呟いて、パソコンの画面を切り替えてプリントを作る作業に移った。
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雄介と裕子は、それぞれの家に行く分かれ道に着くと、それぞれの進行方向を向きながら……お互いに背を向け合い、立ち止まって会話をしていた。
「俺は、今回起こったことを誰にも話すつもりはない。」
「私もよ。事の顛末は、話せるものではないわ。」
お互いの、涙にぬれた顔を見せないように、見ないようにして言葉を交わす。
「俺は、誰も信じてくれなくても、今回起こったことを信じる。」
「私は、誰も信じてくれなくても、今回起こったことを信じるわ。」
「裕子の記憶を、誰も信じなくても、俺は信じる。親友に誓って。」
「雄介の記憶を、誰も信じなくても、私は信じる。親友に誓って。」
2人は、再び、それぞれの向かう方向に歩き出す。
「ありがとう。それと、またな。」
「ありがとう。それと、またね。」
最後に、2人は親友の最期の言葉を変えて、声を揃えて交わした。
例え、親友をなくしても、もう1人の親友とは『また』会えるのだから。




