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7月6日 4

「「こっくりさん、こっくりさん、お出で下さい。」」

 2人は、鳥居の絵が描かれた上に10円玉を置き、そこに指を乗せて声を揃えてこういった。

「今降りてきたのは真琴か?」

 雄介が質問すると、10円玉は動き、はい、と書かれた場所で止まる。

「よし、じゃあ離すぞ。」

「うん、分かった。」

 2人は10円玉から指を離した。

 こっくりさんをやる場合、「こっくりさん、ありがとうございました。お離れ下さい」と言ってから指を離さないと、霊がその場に残ると言われている。真琴の提案で、2人はそれを実行した。

 2人は、瞬きもせず10円玉を見つめていたが、何も起こらなかった。しかし、一度瞬きをして目を開けると、2人の傍らには、同じような腕をした少女と真琴がいた。少女の左手には短冊が握られている。

「……来たか。」

「数分ぶりね。」

「そうだね。数分ぶり。」

 3人の間に、多くの言葉は不要だった。

「このおにいちゃんとおねえちゃんがいっしょにあそんでくれるの?」

 赤い服を着た少女……尋美が今にも笑い出しそうな声で真琴に問いかけた。

「うん、そうだよ。」

「うふふ、やったあ!じゃ、あそぼ!」

 待ちきれ無いようで、尋美は早速3人にそう強請ねだった。

「じゃあ、まずは雄介と裕子が関所役だね。」

「うん!わたしとおにいちゃんがとおるやくだね!」

 真琴がうまく誘導した。雄介と裕子は動揺が表情に出かけたが、それでも何とか抑えた。いくら仕方のないこととはいえ、いたいけな少女を騙す。そのことが、2人には蟠りになっていた。

「よし!やるか!」

「そうね!」

 迷いを吹き飛ばすように2人は声を上げて立ち上がると、早速向かい合い、両手を繋いで上にあげる。

「じゃあ、行こうか。『姉さん』。」

「うん、『まこと』。」

 このやり取りの自然さで、雄介と裕子はやっと、真琴と尋美は『姉弟きょうだい』なのだと実感した。2人は、雄介と裕子から見て、尋美が右側、真琴が左側に立っている。尋美の右腕と雄介の左腕が内側に来る感じだ。立ち位置からして、真琴と尋美が2人が作る門をくぐると、ちょうど部屋の出口に向かう形だ。

「「通りゃんせ 通りゃんせ」」

 雄介と裕子が声を合わせて歌うと、その2人が作る門の下を、真琴と尋美がくぐった。その瞬間、


 さっきまで普通の部屋の出口だった場所は、先が見えないほどの闇に覆われていた。


「「ここはどこの 細道じゃ 天神様の 細道じゃ ちっと通して くだしゃんせ」」

 2人は声を上げて驚きそうになったが、何とか歌を続ける。

 通りゃんせ。裕子が読んだように、『関所が舞台説』だったり、『生贄説』があったりするが、他にも説がある。

 それは、『葬送説』だ。

 関所はこの世とあの世の狭間。どんな死に方をしようとも、ここは通らなければいけない。故の『通りゃんせ(通りなさい)』だ。死者でないなら通ってはいけないから『ご用のない者 通しゃせぬ』。死ぬのは簡単だが、蘇ることは出来ないから『いきはよいよい 帰りは怖い』。あの世というのは天国、つまり神達が住まうところとされた。よって『天神様の細道』は転じて『あの世への道』となる。子供の霊は無邪気であるが故に、成仏することが少なかった。それでもどうしても送り出さねばならない。よって、ちょうど物心がつきはじめる『7つ』になるころに、送り出す。7つのお祝いに、天神様にお札を納めに行く、といって子どもを騙し、つれそってあの世へと送り出すのだ。

 つまり、『通りゃんせ』は、成仏しなかった子供の霊を送り出す『葬送の儀式』なのだ。

 そして、これにはもう1つの死者が出る。それは、『連れ添った者』だ。死んではいないが、一緒にあの世に行く以上、ここで一緒に死ぬ。『ご用のない者 通しゃせぬ』とは、逆に言えば用があれば通すのだ。

 真琴はこの考え方に気付き、実行に移した。

 成仏しなかった子供の霊は尋美、連れ添う者は真琴。

 雄介と裕子は、この案を聞いた時、真琴が犠牲になるのは嫌だ、と思った。しかし、真琴の説得により、結局2人は納得した。

 そして真琴は、2人が来る間に尋美にこういった。

「その短冊を天神様まで持って行って、願い事を叶えて貰いに行こうか。」

 と。尋美は大喜びし、真琴に無邪気な笑顔でお礼を言ったが、それは真琴の心を痛めた。

 しかし、実行に移すしかない。この儀式を行う時、子供の霊を騙す大人のような心境で、真琴はそれにあたった。

「「ご用のない者 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに お札を納めに まいります」」

 2人の歌声が響く中、真琴と尋美は進んでいく。2人は、通したくなかった。それでも、『ご用がある』なら通さなければならない。

「姉さん、もう少しで天神様のところだよ。」

「うん!」

 2人は笑顔でそんな会話をした。その瞬間、


 尋美の右手が、真琴の左手と『繋がった』。


 手を繋ぐのは、転じて『心を繋ぐこと』だ。今まで、尋美の腕に誰の腕だろうと繋がらなかったのは、『一方的に』繋ごうとしたからだ。今、真琴と尋美は『姉弟』として繋がった。両親の名前を分かち合った名前を持ち、2人で1人となる。

「「いきはよいよい 帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ」」

 2人の声は、それを見てすでに涙声になっていた。それでも懸命に、親友とその姉を送り出す。『葬送』すべく、歌を紡ぐ。真琴と尋美は、すでに大分遠くまで進んでいる。

「「通りゃんせ」」

 2人は、名残惜しそうに両手を下ろした。その瞬間、先が見えないほどの闇が消え、普通の部屋に戻った。

「あいつ、最後に……。」

「そうね……真琴らしいわ……。」

 2人は目から涙を流しながら、お互いに確認し合った。

 消える間際、真琴は最後の振り向いて、2人に向けてこう言った気がしたのだ。


『ありがとう。それと、さようなら。』


 その笑顔は清々しく、子供のように『無邪気』であった。


 そして、2人の知らないところで、もう1つ変わったものがある。現在時刻は0時1分。


 今日は、『七夕』である。

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