7月6日 3
「……け、……こ!」
雄介と裕子は、そんな声で目が覚めた。その声は、2人が会いたかった少年の声に聞こえる。
(俺……ついに幻聴でも聞こえるようになったか……。)
(私……もうダメね、幻聴まで……。)
2人は同じようなことを考えながら、自らの死を迎え入れようとした。
「雄介!裕子!」
今度ははっきりと声が聞こえる。自分が呼ばれているんだ、と思って、何とか目を開け、声の方向に向く。そこには、
親友、真琴の姿があった。
「「真琴!?」」
2人は跳ね起き、声を揃えて真琴を見る。目の前の少年は、腕は変わり果てた姿だが、どう見ても真琴だった。
「そうか……俺も死んだのか……裕子もいるか……お前らには死んでほしくなかったけどな……。」
「そうか……3人皆……死んじゃったんだね……。」
2人は、親友の姿を見て、自分の状況を結論付ける。
「冗談はさておき、真面目な話をしよう。事情はしっかり説明するから、質問は後にしてくれ。」
2人は本気だったが、真琴は冗談と受け取り、焦ったように話を進めようとした。2人は全然納得いってなかったが、久しぶりに会えた親友の言葉に耳を貸す。
「今、僕はあの女の子……尋美ちゃんと同じ方法で2人の夢に干渉している。2人は同じ夢を見ているんだ。2人は死んでいないけど、僕は死んだ。」
真琴は焦りながらも、冷静に説明する。いつもの2人なら到底信じられない言葉だが、今の状況ならば何でも信じてしまえる。
「それであの女の子、尋美ちゃんっていうんだけど―――」
真琴はその後、尋美の事情や両親や自分との関係を説明した。その話が進むにつれ、2人は驚いたり、悲しんだり、憤ったりと表情を変えていった。そして、自分が見たものと、尋美とのやり取りを―――
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「なあに?おにいちゃん?」
尋美はきょとんとした顔で真琴の顔を見ている。
「君は……通りゃんせがやってみたいから、こんなことをしているのかい?」
真琴は半ば確信を持ってそう問いかける。
「うん!そうなの!おともだちもほしいけど、まずはうでがほしいいの!」
あくまで無邪気な表情で尋美はそういった。
「そうか……分かった……君の願いを叶えてあげよう。」
「え!?ほんとう!?ありがとう!?」
真琴の言葉に、尋美は嬉しそうに跳ね上がる。
「でも、どうやってやるの?」
そのすぐ後、尋美は真琴を見上げて問いかけた。
「それはこれから考える。だから……もう他の人から腕を取っちゃダメだ。」
真琴は真剣な表情でそういった。
「うーん、おにいちゃんなら、かなえてくれそう!おほしさまみたい!」
尋美は嬉しそうにそういって、ちらりと部屋の端を見る。そこには、ぼろぼろになった短冊が置いてある。
真琴は、ひとまずこれで悪意無き凶行を止められる、と一息ついた。
「だけど……わたし、もうがまんできない!あしたまで!わたしのたんじょうびまでにできなかったら、またはじめる!」
ちょっとむくれたようにして尋美はそう言った。さすがに上手くは行かないか、と真琴は思った。
「うん、それでいいよ。」
しかし、これ以上の譲歩は無いだろうと考えて、真琴はそれで了承した。
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「なるほど、それでこんなことに……。」
「本人に悪気がないのが厄介ね……。」
「そう、あくまで無邪気なんだよね……。」
真琴の説明を受けて、2人はそう呟いた。
「とりあえず目下の問題は、接触方法とどう納得させるかだよね。」
「そうだな。接触方法は夢だと不確実すぎるぜ。」
「そうなると、霊との接触方法……降霊術をやることが思いつくわ。」
「降霊術……何があったかなぁ。」
「尋美ちゃんがやっていたこっくりさんなんかどう?」
「それなら手軽に行えるしいいわね。真琴の意見に賛成。」
「俺もだ。あの子はこっくりさんに縁があるから反応するだろう。」
「こっくりさんは子供の霊だしね。」
「それにこっくりさんで現れる霊は前にこっくりさんで遊んだ人っていうものね。」
『童謡研究会』の相談方法。意見を小出しにしてリズムよく結論に辿りついていく。以前は2人だったが、今は3人。全員そろっての相談となる。こんな時にどうかとも3人は思ったが、それ以上に楽しい、そう感じてしまっていた。
「じゃあ僕は尋美ちゃんと接触できるから、上手くそれに降りれるようにするね。」
「よし、任せたぞ。場所はどこがいい?」
「真琴の家の隠し部屋ね。あそこなら大分縁が深いわ。」
「尋美ちゃんや僕が死んだ場所だからいいんじゃないかな。」
「俺も賛成だ。」
「じゃあ次はどうやって納得させるかね。」
「そりゃあ通りゃんせをやるに決まってんだろ?」
「念には念を入れて、よ。」
「それなら、僕に案がある。」
真琴が真剣な表情で案を話す。
「それは……どうなの?」
「ああ、それだとお前が……。」
2人の心配そうな声に真琴は、
「もう僕死んでいるからね。遅いか早いかの違いさ。」
といって納得させた。
「じゃあ、次は隠し部屋で会おうね。」
「おう、首を長くして待ってろ。」
「それじゃ、また。」
3人はそういった会話を交わして、しばしの別れの挨拶をした。
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覚醒して、即座に雄介と裕子は連絡を取り合った。一瞬だけでも寝たのが幸いしてか、体には活力が戻っていた。なんだかんだで時間がかかり、今はもう11時半だ。動きやすい服とこっくりさんをやる道具を大急ぎで作り、警察にばれないように真琴の家の前に集合する。真琴の家の周りは、昼ごろこそ騒がしかったが、一転、今は人の気配が全くない。何人かの腕が変わり果てた死体が転がっていたが、今の2人には気に留めるものではない。
「やっぱり鍵がかかってるか。」
「しかたないわね。雄介、よろしく。」
「おう。」
雄介はそういって、真琴の部屋の窓の下に行くと、わずかな突起物を利用してするすると登る。
真琴から、家の中に入るときは、死ぬ前に開け放していた自分の部屋の窓から入ってくれ、と言われていた。雄介の運動神経は凄まじく、すぐに真琴の部屋に侵入できる。しばらくして、玄関の内鍵を雄介が開けて、2人は中へと入った。隠し部屋をめざし、2階に上がる途中、開きかけのドアからリビングが見え、変わり果てた姿で倒れている真琴の両親を見かけたが、それもスルーした。居留守を使っていたのではなく、すでに死んでいたのだ。
「なるほど、前に来たときはこんな場所に部屋は無かったな。」
「ええ。……真琴の死体も無いわね。」
2階に上がると、2人は前は無かったドアを見つけ、その中に踏み込んで中を見回した。真琴から、ここで死んだと伝え聞いているが、死体がない。恐らく、真琴の両親がどこかに隠したのだろう。
「さてと、急がねえとな。」
「そうね。もう10分ぐらいで明日よ。」
2人は顔を見合わせて頷いて、降霊の儀式の準備に取り掛かった。




