7月6日 1
(尋美ちゃん!尋美ちゃん!)
真琴は必死に尋美に呼びかける。しかし、尋美はそれに気づかず、1人、また1人と右腕を奪っていく。無邪気な笑顔で。
(今日は尋美ちゃんが死んだ日だ!力が強まっているはず!)
趣味の都合上、オカルトにも造詣が深い真琴はそう予測していた。そして、死人が急に増えたこと、尋美の発言から、ネズミ算的に犠牲者が増え、そしてついに『1回』で死んだ人もいることを推測した。
真琴は知る由もないが、初めの真琴は3回、その後が2回、そして今が1回と、段階を追って言っている。
(尋美ちゃんの目的は何なんだ?尋美ちゃんは腕が欲しいからこんなことをしている。子供は他人と自分を重ねたがることが多い。あの左腕にしちゃうのは、右腕が無くなった相手に自然に自分を重ねているからだろう。)
真琴は、必死になりながらも、その一方で冷静になって考えていた。
(この世への恨みつらみ?違う、それは何か違うんだ。尋美ちゃんは復讐や八つ当たりが目的じゃない。)
目の前の惨状を見ながら、真琴は必死に思考する。
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7月6日、土曜日。2人の努力によって死人は減った。だが、人間は眠気には勝てないようで、やはり翌朝には多数の死人が出た。その9割はやはり、死亡原因が不明で、右腕は肘から下が無くなっていて、左腕は醜く膨れ上がっていた。
そして何よりも嫌な情報がある。
今まで腕の不調を訴えなかった人が、その朝に変わり果てた姿で見つかったのだ。
雄介と裕子は背筋に悪寒が走った。ついに、『繋がってしまった』と思った。今までは1回寝ても大丈夫だったが、これからは寝ることが許されない。予兆も何もない。
さらに、7月5日で大分の人が死ぬか、不調を訴えた。つまり、このまま『広げていった』とすると、ネズミ算的に縁が繋がった人が大量に増えている可能性がある。
町内の混乱はピークに達していた。絶望から自殺をしたり罪を犯す者、栄養ドリンクやコーヒーの取り合いで負傷や気絶する者、ストレスで辺りにさらにストレスを撒き散らす者等が出たことから、状況の酷さが推し量れる。さらに、知り合いの死やストレスや疲労、店での取り合いで気絶してしまった者はそのまま変わり果てた姿で死んでいった。
そんな中、2人とその家族は、誰1人欠けることなく生き残っていた。予め2人が買ってきておいた栄養ドリンクや、1つの部屋に固まってお互いを監視し合ってたこと、そして何よりも2人が誰よりも強い危機感を持っていたことから、全員が生き残ったのだ。末原や2人の事を信頼している学校の生徒も、一生懸命寝ずに生き残ったと情報が入っている。しかし、それでも知り合いが死んでいき、その情報が入るたびに2人の心は蝕まれてゆく。
「そういやあ、明日は七夕だなぁ……。」
裕子と電話していた雄介は、ふと思い出したことを呟いた。毎年、ちょっと前からそこらの家には笹が飾られ、短冊の1つでも吊るされている。今年もその例に漏れず、商店街や、店や家の軒先にはところどころに笹が飾られていた。しかし、今のこの町にはそんな余裕などない。2人は気づいていないが、そこに吊るされている短冊には荒れた文字で『死にたくない』や『助けて』や『〇〇を蘇らせて』、さらには『今の絶望を止めて』、といった切羽詰った願い事が書かれている。
「織姫様と彦星様は願い事を叶えてくれるかしらね?」
若干気の抜けた声で裕子がそう返す。
「あいつら、明日には会えんのか……あいつらばかりいい思いするとなると、確かに願いの1つでも叶えてくんなきゃ気が済まねえな。」
雄介はそう冗談を言って気を紛らわせる。
気を紛らわせるためにテレビをつけると、どのチャンネルもこの町の異常を、表面上は厳かに、しかしどことなく嬉しそうに、何かのイベントのごとくこぞって取り上げている。原因不明の変死。夢と全く症例のない異常。まさにメディアの格好の的であり、関係がない他人事の国民にとってはちょっとした娯楽になりえる。コメンテーターや医者、犯罪心理学者や元警察官、果ては自称超能力者なんかがゲストとしてスタジオに招かれ、面白おかしくあることないことなんだかんだと勝手なことを自慢げに語っている。他人事ならば、娯楽になりえるが、当事者たるこの町や苦労を強いられている医療や警察関係者にとっては、これらの特番は不快感の対象にしかならない。ソーシャルネットワーキングサービスやインターネット掲示板でもあることないこと色々予測されている。だが、どう見てもお祭り騒ぎにしか見えない。
町の住人もそうだが、2人のストレスは最高潮に達していた。本人たちは気づいてないが、1番長く起きているのはこの2人であり、その徹夜は既に4日連続だ。ほぼ4日間寝ていないうえ、値をつめて考え続けていて、さらに様々なストレスが襲い掛かってくる。そんな状況なのだ。
夢の内容から、住人たちのストレスは真琴の家へと向いている。いたずら電話や家の前での騒ぎ、石を投げつけたり罵声を浴びせたりいたずら書きをしたりと、大騒ぎになっている。警官たちも必死に止めてはいるし、やっている者たちも意味のないことだとは実感しているが、こうでもしないとダメになってしまうのだ。入ってくる情報から、昨日から真琴の両親が家から出ていないことも分かっている。これが居留守や、しらばっくれていると捉えられ、さらに騒ぎが大きくなっていたりもする。幸い、家の中への不法侵入はまだないが、それも時間の問題だろう。また、この騒ぎで人の波に潰されて気絶してしまった者もいるが、例に漏れず変わり果てた姿になって死んでいる。
「この町は、この後どうなるんだろうな……?」
雄介は呆けたような声でそう裕子にそう問いかける。
「……ほとんどの人が死んじゃったし……この町自体ももうあまりいい印象を持たれないでしょうね。悪い思い出を忘れたい人はこの町を出ていくだろうし、ちょっと過疎にはなるかもね。」
裕子は、半ば反射的に学校で習ったことを参考にそう答えた。
「こんな時でも上位互換は変わらねえんだな。」
「もう……。」
雄介がふざけたようにそう言うと、裕子は拗ねたように声を漏らした。
「きゃああああ!」
外から悲鳴が聞こえる。多少びくっとするが、もう慣れてしまった。多分、また誰か死んだのだろう。
「はぁ……また悲鳴が聞こえたわ……これで今日は3回目よ。」
裕子は深いため息を吐きながらそう漏らす。
「俺は2回聞いた。……嫌なことに、もう慣れちまったよ。」
雄介はそういって、こちらも深いため息を漏らした。




