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今回けっこう短い。改稿する機会があったら4とひっつけるかも。

「こおぅううたぁぁろぉぉう!」


デンデンデデロデン

『白石モンスターが現れた!』


 すっかり忘れていた。昨日、スタミナ切れで目を回した白石さんをすっかりさっぱり忘れてそのまま帰ってしまった。実は今のいままで忘れていた。


「ごめんなさい!」


 両手のひらを顔の前で合わせ、隙間からそろりと覗く。膨れた大福もちが今にも弾けそうだ。


「罰として今度、私の修行に付き合うこと。以上!」


 彼女はぷりぷりしたまま去っていった。それを見ていたぼくは、思わず出てしまいそうになる笑顔を必死に抑えた。忘れていたことはもちろん反省している。だがあれだけ嫌がっていたのに、本人から「修行」という言葉が聞けるとは、随分嬉しい罰である。


「なにニヤニヤしてるんだい?」


 どうやら全然隠せていなかったようで、遠藤くんに指摘されてしまった。仕方がないので指で口の両端を押し下げながら答える。


「白石さんが一緒に修行しようって!」


「修行?」


「うん。スタミナさえなんとかなればレベル上げしやすいし、上位職だって夢じゃないと思うんだ。」


「…レベル上げ?…上位職?」


 話を続けようとしたけれど、先生が来てしまった。遠藤くんはもう視線を本に落としている。お喋りはここまでなようだ。





 放課後、ぼくは体操服に着替えて中庭に来ていた。4つめのクエストはここでするらしい。準備がある、とかで田渕先生は白石さんを連れてどこかへ行ってしまった。それに汚れてもいい格好に着替えておいで、とも言われたのだが、いったい何をするつもりなのだろう。


「お待たせー!」


 ガラゴロとボールの入ったかごを引き摺りながら白石さんが現れた。声がはずんでいる。今日の朝はまだぷりぷりしていたけれど、もう機嫌は直ったのだろうか。田渕先生はそのあとをゆっくりと歩いてくる。


「準備はいいかい?」



『田渕先生のお使いクエスト(4/4)

 狂乱ドッヂボール を開始しますか? (YES/NO)』



 …えらく物騒なクエスト名だな。まあYESを選ぶけど。


「ドッヂボールをしよう。ただし、半径250メートル。それが君の動ける範囲だ。」


 白石さんが地面にチョークで線を引いている。250メートルって結構広いんだな…これならそんな難しくなさそうだけど。


「ああ、視界は塞がせてもらうよ。」


 どこから出したのかぼくの視界はタオルで塞がれてしまった。全く前が見えない。


「じゃあ白石さん、手加減は湯峯くんのためにならないからね。しっかり頼むよ。」


「はい!全力でやらせていただきます!いくわよー。」


 ボクッと重い音とともに腰に鈍い痛み。テンッテンッテンッとボールが転がっていく音。…なるほど、機嫌がよさそうに見えたのは勘違いだったようだ。いや、ある意味ご機嫌なのは間違いない。


「こたろ!ちゃんとやる気出しなさいよ!」


 そんなことを言われても前が見えないのだが。とりあえず耳を澄ましてみる…正面右方向からザリザリと靴が砂をする音が聞こえる。


「っし。」


「あぁっ惜しい~!」


 顔の横をボールが横切ったのが空気の流れで分かった。顔面狙いなのかい、白石さんよ。右斜め前方から、ぎしぎしとかごの軋む音が聞こえる。新しいボールを取り出そうとしているのか。居場所が分かればどこからボールが飛んでくるのか分かる。ふふふ。さぁこいっ!


「いたっ!ちょっ!うわっ!」


 後ろからお尻にヒット1。背中にヒット2。太ももにヒット3。きっと田渕先生だ。(無言で淡々と狙ってくるあたりやっぱりこの先生の性格はなかなかアレなんじゃないかと思う。)


 ぼくの耳はいくつもの音を聞き分けられるほど優れたものじゃない。視界を塞がれ、耳も頼りにならず、鼻?花くさい。緑くさい。鼻も頼りにならず。あと残るは……勘。第六感。目覚めよ、秘められし第三の瞳!


「いたいったいっあうっ!」


「湯峯くん、集中して。ちゃんと自分の位置を認識し、ボールの存在を把握しなさい。昨日学んだことをもう忘れたのかい?」


 昨日はそうだ。何度も迷って、何度も方向を変えさせられて、もう地図を回さなくても学校の位置は把握できるようになった。ぼくは今、校舎に背を向けている。正面右には白石さん、後には田渕先生がいる。


 その後は、鳥の眼。空を飛べる鳥は空から全てを見ることができる。鳥の視点になったかのように、見えないところは脳内で補足して立体に起こす。ぼくは円の中心にいる。そういえばほとんど動いていない。半径250メートルをもっと有効に使わないともったいないな。そろりと、記憶を頼りに白石さんが引いた円の縁まで足を運ぶ。



ブーッ

『警告 白線の内側まで下がってください。』


 そこから一周ぐるりと、円の内側ぎりぎりを綺麗に辿っていく。目隠しをしているけれど分かる。一歩ずらしてみるとほら。


ブーッ

『警告 白線の内側まで下がってください。』



 よし。自分のフィールドは把握した。円の中心へ戻り、白石さんがいる方へニヤリと微笑んでから、田渕先生へと告げる。


「先生、もう一回お願いします。今度は全部避けてみせます。」


「ふむ。では僕も、少し本気を出すことにするよ。」





 テンションの上がった田渕先生はそれは恐ろしかった。最初は白石さんとボールの回し合いをしていたが、それを避け続けるぼくに業を煮やしたのかボールを入れたかごに近づくと、連続で剛速球を放ってきた。


 だが、ステップ&ステップを日々鍛えてきたぼくにその程度、なんてことはない。すると今度は白石さんとタイミングを合わせ二方向、田渕先生は両手を使っているのか偶に三方向から狙ってくるようになった。

 初めは幾つか避けそこなっていたが、これがドッヂボールであったことを思い出したぼくは、避けられないものはキャッチすればいいことに気付いた。


 避けて、避けて、キャッチ。避けて、避けて、避ける。



「そこまで!うむうむ。もう、いいんじゃないかな。何か、掴めたかな?」


 何か。ぼくの存在、大地の存在を確かに感じる。ぼくを中心に大地が回るんじゃない。大地の上でぼくが回っているにすぎない。だからどんな方角を向いたって校舎の位置は変わらないし、白線は動かない。


「はい!これが、空間把握能力ってやつですね!」


 目隠ししていたタオルを取り、田渕先生の方に目をやると満足そうに頷いていた。


「そうだね。地図を書くには自分の位置を正確に把握しなければ始まらない。地図上にいる君はもちろん動くだろうからしっかりした方向感覚も必要だ。そして、それらを正確に認識するための客観的な視点が俯瞰図だ。こうして方向感覚を、次に俯瞰図を、最後に空間把握能力を実感してもらったわけだ。」


 はじめのクエスト「はがきを出そう」で方向感覚を磨き、次の「おいし~い水を買ってこよう」でそれを確かめ、第三の「鳥の目線を知ろう」で鳥瞰図・俯瞰図を学び、今「狂乱ドッヂボール」で空間把握能力を会得した。地図作成スキルにはどれも不可欠なものだ。


 徐にポケットに手を突っ込んだ田渕先生は、小さな丸い物を取りだした。


「おめでとう、見事やり遂げたね。僕の昔使っていた方位磁針をあげよう。」



『スキル 地図作成 を習得した』


『古い羅針盤 を手に入れた』



「おおおお。ありがとうございます!」


 スキルゲットだぜい!ダンジョン行きまくるぜい!マップ作りまくるぜい!手の中でコンパスの針がくるくると回っている。…この方位磁針ちゃんと使えるのだろうか。


「ああでも今の君の水準じゃ、まだまだ森の奥や洞窟なんかは危ないから行っちゃいけないよ。これから精進したまえ。」


 ひゅるりらら。熟練度上げですね。もうちょっと冒険はおあずけなようです。





「スキル獲得おめでと!なんかー古臭い方位磁石ね。針ぐるぐるまわってるよー!」


 ぼくから勝手に奪ったくせに好き放題ほざいている。昨日の次点で白石さんはリタイアしたので、地図作成スキルを取れたのはぼくだけだった。少し反撃してやろう。


「とりあえずマップはいいでしょ、次は白石さんだね。一緒に走り込みでもする?」


 忘れていたのか。両手で自身を抱きしめ震えている。表情がとてもぶさいくだ。そんな顔をしてもやめてあげないよ!さっそく明日の朝から始めよう。スタミナはあればあるほどいいし、どうせならぼくは地図作成スキルを発動しながら、白石さんは…ただ走ることに集中してもらおう。


「ううぅ勝手にスタミナが増えるスキルとかないかな。」


 随分と都合のいいことを呟いているので、今日は白石さんを家まで送っていくことにする。もちろんさっそく地図作成スキルを発動させた。ばっちり記録して明日の朝から迎えに行くつもりだ。


「朝6時に行くね。」


「ひえええぇぇ!」





『ビギナーズクエスト(2/4) スキルを習得しよう クリア!』



田渕輝元 好感度50%


白石ゆき Lv1   友好度58(+6)

クラス  ビギナー

HP/MP   10/5

SP      5

白石さんの友好度がアップしたのは家まで送ってあげたからです。

先生は幸太郎のことを勉強熱心な生徒だと思っています。好感度は割と簡単に上がります。好感度が上がると内申がよくなったり、たまにアドバイスがもらえるのでスキルの成長率微上昇効果があります。

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