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30歳になっても童○だと魔法使いになれる、っていうアレは正しくは「30歳まで童○を貫く」ことが大事なのです。制約を自身に課し、守り通すことによって強い精神力を鍛え、人は魔力を手にするのです。なので売れ残ってる童貞はただの童貞なのです。

 私は本を読むのが好きだ。恋愛もの、ミステリーもの、SFもの、そして特にファンタジーもの。

 一気に最後まで読んで、それからしばらくは物語の内容を何度も反芻して余韻にひたる。

 そして今度は空想をはじめる。

 もし私が主人公だったら…もしあの魔法が使えたら…もし物語に続きがあったなら…。


 いつも期待していた。何か特別なことが起こるんじゃないか、ある日突然非日常が始まるんじゃないかと。


(実は秘められし過去を持つ私には、そのあまりに強大な力ゆえ封印された能力があった。……りしないだろうか。)



 白石ゆきはいたって普通の少女である。それなりに友達もいるし、それなりに勉強もできる。運動は…まあまあで、たまに家事のお手伝いもする。

 だからもし、学校で病気・・が発生し、まわりに避けられるようなことになったら「それでも自分を貫いて生きていく」なんてことはできない。


 朝起きて、一番にすることは右腕や右眼の厳重な封印である。この空想(もとい妄想)を黙し続けるのはいまだ中学生になりたての彼女には辛く、封印はいつ解かれてもおかしくない状況だった。



 だが、もう我慢する必要はない。彼女は仲間(戦友)を見つけたのだから。





 昨日、彼女は初めての中学校に、人並みに胸を高鳴らせていた。思いのほか早くに目が覚めてしまい、その勢いのまま教室に一番乗りした。

 そうして、これからの学校生活での、自身のキャラ設定を考えたりだとかして時間を潰しながら、続々と登校してくるクラスメイトたちを観察していた。


(辛い過去を持つがゆえ孤独に生きる少女か、にも関わらず健気に笑顔を振りまく少女か、どっちがいいだろう。)


 魔法だの封印だのはさすがにまずい。学校で暴発しないためのぎりぎりの妥協点である。

 家からこのために持ってきた小道具(安部公房著「砂の女」)を使って、読書が生きがいの儚げな少女を演じながらこっそりまわりを熟視する。


(中学デビューですか。チャラチャラしやがってリア充ばっかかよ!)


 何を期待しているのか。イケメン金髪王子もクール系メガネ男子もなかなか現れないことに苛々し始めた頃、おしゃれっぽい髪形をした少年が現れる。


「おはよう!」


 …普通のリア充には返事したくない。


 普段ならこんな対応はしなかったであろう。だが期待が裏切られ続けていた彼女は幾分かやさぐれていた。


 しかし、運命の出会いはすぐそこに待っていた。


「君、魔術使える?」


 ……瞬間、感歎の声をあげそうになるのを辛うじて堪えた。

 

 いままじゅつってゆった?

 しかも!この!人が集まりだした教室で!一番重要な!第一印象の決まる学校生活一日目で!



 興奮と動揺でパニックになっている間に返事を仕損じてしまった。

 ぜひ仲良くなりたい。いきなり魔術設定でくるとは、なかなか肝が据わっている。


 しかしどこで私が同胞だと分かったのだろう。もしや封印してなお強いオーラが滲み出てしまったのか?


 それに彼はいったいどういう設定なのだろう。全然魔術師っぽくないし、こういう性質の者の放つ独特のダークサイドがない。


 …ほんとうに仲間(同類)なのだろうか。ここは慎重にならなければならない。

 返答は「マジュツ」に同音異義語があるか調べ、今日1日彼を監視してからでも遅くない。



 そう結論づけた彼女は、解散の合図とともに教室を抜け出し、いったん気配を断ち(という態で息を潜め)、得意の追跡スキル(という心持で)で幸太郎を追ったのだった。





 最初のうちは楽しんでいた尾行も、あまりに気付かれないのですぐに飽きてしまった。そして白石は、幸太郎との距離を徐々に、縮めていった。


(次、次に話しかけられたら返事しよう。ほら、気付けぇ~。私に話しかけていいのよ~。)


 実はかなり近くで観察していた。なので、もちろん幸太郎が立石と会話するところも、校庭の隅で延々反復横とびするところも、そのあとの独り言もばっちり聞いていた。





「それにしても、変な人だったなあ。ちょっと妄想を共感できればいいな、ぐらいに思ってたんだけど。」


 ちなみに彼女は、自身に自覚のある病気チュウニビョウシンドロームなので、ぎりぎりセーフだと考えている。


「ははっ筋金入りの真性だもんなあ。熟練度だとかクラスアップだとか言っちゃって、あれに比べたら私のが大分マシだよね。」


 五十歩百歩である。お前は人のことを笑える立場でないぞ。


「あとはなんだっけ~。確か、ステータスオープン!なんつって、ははっ。」





白石ゆき Lv1

クラス ビギナー


HP/MP   10/5

SP      5





「っなんだ……これ。」


 目の前に浮かび上がったのは薄らと青みを帯びた半透明のプレート。どこかで見たことがあるようなデザインである。


 思わず手を伸ばす。だが向こう側に通り抜けてしまう。指先に触れるものは何もなかった。


「なにこれなにこれなにこれ!あっ。」


 そういえば、昨日、自分はこれと似たものを見たではないか。






『湯峯幸太郎があなたをパーティーに招待しています。パーティーに参加しますか?』


『受諾されました。』






「湯峯幸太郎……ゆみねゆみねゆみねこうたろおおおおおううううううううう!」


 白石ゆきは学校に向けて、彼女の持てるあらん限りの体力、筋力、集中力をもって駆け出した。 




 夢ではなかったのか。


 湯峯幸太郎はこのことを知っていたのか。


 あいつは何者なんだ。


 今日はまだ右腕(笑)と右眼(笑)の封印をしていない。


 そういえば朝ごはん食べ損ねた。


 もしかして私、魔法とか使えちゃうのだろうか。


「……ファイア!」


 何も起こらなかった。火事にならなくてよかった。



◇◇◇


 湯峯幸太郎は、校庭の隅(昨日と同じ所)で一心不乱に反復横とびをしていた。別に、特別反復横とびを好んでいるわけではない。では何故か。正直なところ、他によい修行方法を知らないのである。


 前世の彼は、STRとDEFに秀でていた。打ち据え、横薙ぎにし、時にはかちあげ、叩き落とす。どれもいまはできない戦い方だ。剣を振り回すスキルも盾でいなすスキルも、もう彼の持つべきものではない。


「っ、ふぅっ、はっ、はぁっっ、っ。」


 そうして唯一役に立ちそうなのが「ステップ」だった。あるときは家のまわりの狭い空き地で、あるときは近所の公園で、なるべく邪魔にならないように、途切れずにステップをし続けようとした結果辿りついたのが「反復横とび」だったのだ。


「はっ、っ、ひっ、は、っはぁっ、っ。」


 それにDEXとAGIが良い幸太郎とは相性がいい。防御ができない幸太郎には回避するしかないのだ。


 ステップステップステップステップ…


「はひぃ、ゆっ、ね、ひぃっ、こっ、ゆっね、っは、こたっ、ろ!こたっろ!」



 まるでゾンビのように溶けかけている仲間がそこにいた。





 場所を移してここは中庭。周囲に人がいる様子はない。

 元気いっぱいに咲いた花々は美しいが、それに惹かれてたくさんの虫が集まるため、生徒にはあまり人気がない場所だ。


「ふっ、ふぅーう、ふっ、ふぅーう、気付、くの、遅すぎ。」


「集中してたんだよ。それで、なにをそんなに急いでたの?」

 

 何度も繰り返す深呼吸は、息を整えるためというより、焦る心を落ち着かせるためのようにみえる。


「あのね、ちょっと見てて欲しいんだけど…。」


 おもむろに立ち上がった彼女は、おそらく雨や砂埃で汚れたのであろう校舎の染みを鋭く睨み、右手を天高く掲げ言った。



 「   漆黒の闇を秘めたる白き炎よ

         怒りを鎮めたまえ

         予言されし終焉を抱く焔が

     十字背負いし暁の贖罪を呪縛す     」



 もちろん何も起こらない。彼女から何かを期待するような視線が向けられる。なんだろう。質問とかしたほうがいいのかな。


「炎が怒ってるの?十字背負いし暁の贖罪ってなに?」


 期待した答えではなかったようだ。白かった顔は青くなり、やがて真っ赤に染まった。


「かーーーっ!ぺっぺ。やっぱりあんたはそっち側の人間だったのね!騙されたー!」


 言っている意味が分からない。何を呪縛するのだろう。それより…


「さっきのやるために走ってきたの?」


「きぃぃー!…はぁ。」


 彼女は大きく息を吸い、吐き、もう一度吸い、一息に告げた。


「聞きたいことがいっぱいあるの!さっき反復横とびしてたけど、あんなの効果あるの?なんであればっかやってるの?他のスキルは上げないの?私もスキルほしい!このステータスウィンドウってなに?あんたは何者なの?あと幸太郎って呼んでいい?」


 ぼくも大きく息を吸い、一息に答える。


「熟練度をあげたらスキルはレベルアップするよ。スキルってたくさん取って同時に上げようとすると、それだけ回数もこなさなきゃいけなくなるんだ。必要なものだけに集中してあげたほうが効率がいいよ。取得するスキルは今悩んでるところ。白石さんはSPがすごく低いね。スキルより先にスタミナつけたほうがいいかも。ぼくはムタイの戦士だよ。もちろん好きに呼んでくれていいよ。家族にはこたろって呼ばれてる。」


「そうなの?じゃあ私もこたろって呼ぶ!私のことも呼び捨てでいいよ。」


「ゆ…いや~緊張するからしばらくは白石さんで。」


「そう?それにしても…スタミナかぁ~持久力ないんだよな~。って、ウィンドウ!なんで私のステータスが見れるの?なんなのこれ?」


仲間パーティーになったでしょ?同じ仲間同士はステータスが見れるんだよ。」


「いやそうじゃなくてさ……はぁ。まあいいや。そろそろ行こうか、授業はじまっちゃう。あ、あとムタイってなに?」


「戦士だよ!」


「はぁ。全然説明になってないよ。」


「ねえ、なんか昨日とだいぶイメージが違うね。」


「……だめなの?」


「元気があってよろしい。」


「あっそ。」


 睨まれた。けど剣呑な雰囲気ではない。照れているのだろうか?


 今日の様子だと思っていたよりもかなり激しい性格をしていそうだ。

 昨日はあまり変化のなかった表情がくるくるとせわしなく変わっていく。走ってきたせいもあるかもしれないが、上気した頬がピンク色になっている。昨日は雪のように白い肌、と表しといてなんだが、ぼくはこっちのうるさいくらい元気な彼女のが好きかもしれない。


「まだまだ質問いっぱいあるんだからね!休憩時間空けときなさいよ!」





 その宣言通り、授業が終わるたびに視線で呼び出され、質問責めを受けることとなった。あっという間に放課後である。みなクラブ見学の残りを消化しに行くのだろう。他に人がいなくなった教室でまだ、質問は続くようである。


「昼休憩は修行しようと思ってたのに。」


「そんなことより私のステータスみてよ。どうなの。これって良い方?」




白石ゆき Lv1

クラス  ビギナー

HP/MP   10/5

SP      5


STR   5

DEF   2

INT   2

AGI   5

DEX   4

LUC   2

CHA   2




「いいんじゃないかな?STR、AGI、DEXが高いから回避専門の近接戦闘系だね。」


「はぁ…やっぱり?魔法つかってみたかったのに…。MP5とか絶望的。INTって知力じゃないの?めっちゃ本読むのに!」


「INTはどっちかっていうと精神力の方だと思うよ。集中力鍛えるといいっていうよね。注意力散漫だったり、パニックに陥りやすい人には向いてないんじゃないかな。」


「きぃぃぃー!けど私、運動苦手だよ?体育いっつも成績悪いし。すぐへばっちゃうもん。」


 たしかに、今朝の彼女はひどかった。人は限界まで走ると溶けるんだね。知らなかったよ。


「それはスタミナがないからだと思う。短距離走とかは?」


「いや、途中で疲れて50mもたない…。ドッヂボールなら得意!最後まで逃げ切れるよ!」


「じゃ、今後の課題はスタミナアップだね。修行しよう。毎日ちょっとずつ距離をのばしていこう。」


 そう言った途端彼女の鼻に皺がより口がゆがむ。顔がくちゃくちゃだ。本気で嫌なのだろう…もうぼくに対して猫をかぶる気はないようだ。


「え~運動やだ~。なんかこう、ないの?もっと手っ取り早くぱっとアップする方法!」


 こいつ…!ぼくがあれだけ修行しているのを見ていながら。


「MP5あるんだよね。スタミナが上がれば覚えられる魔法がでてくるかもよ。」


「!!」




 結局、今日も文化系クラブを回ることはできなかった。でも白石さんとちょっとだけ仲良くなれた気がする。ちゃんと修行してくれるかな?





白石ゆき Lv1   友好度57(+7)

クラス  ビギナー

HP/MP   10/5

SP      5



主人公が疑問を持ってくれないからいろいろな説明ができない!やっぱヒロインはガンガン質問してくれる子の方が動かしやすいですね。より核心にせまるような質問はまだまださせるつもりはありませんw


ちなみに、安部公房先生の作品は儚げな少女を演出するのにあまり適した作品ではありませんwジャンルが純文学ってだけで選びました。ただ面白いのでよかったら読んでみてください。

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