最初の一発
足と腹筋から力が抜けて、俺は立っていることができなくなった。膝からがくっと倒れそうになる。
っていうか、さっきまで自分の部屋の学習机の椅子に座ってたよね?
どういうこと?
目を開けた俺は、ホールのような場所に立っていた。
床には魔方陣みたいなのが青白く浮かび上がっていて、若干まぶしい。
俺がいる場所はホールの端っこみたいだ。
そういえば、姫は?
姫に謝らないといけないんだった。
ホールの中央を見て、何か違和感。
こういうところに居ちゃいけない生物がいる。
何ていうのかな?キマイラ?
それを取り囲んでいる人たち。手には盾と武器を持っている。槍、かな?
人の大きさに比べてキマイラはすごく大きい。軽く3倍はある気がする。
ヤバくない?これ。
ここにいたら、確実にあのキマイラに殺されちゃうよね?
ビリビリとした緊張感漂う空気が流れている。
「お父さま!お父さま!!」
遠くから小さな女の子の泣く声が聞こえてくる。
姿は見えないけど、キマイラと戦ってやられちゃったのかな?
まずい、まずいよ・・・
逃げなきゃって思うけど、なんだか体が硬直したみたいに動かない。
ここで死んだらどうなるのかな?
っていうか、どうやったら帰れるのかな?
鼻のコードを抜いたら?
鼻に手をやろうとしたら、俺の手はみっともないくらい震えていた。
ちょっと情けないかも。はは。
鼻のコードさえ抜けばきっと帰れるのに。
でも、俺の鼻からは何も出ていなかった。
マジで?え、もう帰れないってこと?
そう思った瞬間、心臓がどくんと鳴った。
呼吸もうまくできないみたい。
はっ、はっ、はっ・・・
どうしたらいい?
怖いのに、怖くてたまらないのに、キマイラから目を外すことができない。
はっ、はっ、はっ・・・
そのとき、キマイラがゆっくりとこっちを振り返った。
俺のほうを見ている、そんな気がする。
はっ、はっ、はっ・・・
目には涙が浮かぶ。
いや、泣いちゃダメだろう。男の子だし。
そう思って、ちょっと鼻をすする。
はっ、はっ、はっ、鼻が・・・
こんなとき、何だけど、すごくくしゃみがしたい。
そういえば、さっきもくしゃみがしたかったんだったっけ。
「はっ、はっ、はっっっくしょぉぉぉぉぉぉいぃぃぃ!」
あー、俺ってこんな緊迫した状況でくしゃみが出るって、どうよ?
しかも特大のやつ。
残念な自分に呆れたその瞬間、
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
すごい轟音を立てて、電撃が走った。