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「ね、ちょっと急いだ方がいいんじゃない?」

 急ぎ足で東大路通のバス停を目指す青いスクールシャツの一行の中で、先を行く塩谷邦弘の背に須藤亜希子が云った。

「わーってる」 邦弘はスマホで時間を確認すると、心持ちピッチを上げた。

 背後を見やり後続の5人を急かすべく声を上げた。「──みな急げー」


 修学旅行の2日目は、グループに分かれての自由行動だった。

 良樹と邦弘、融の男子3人と、亜希子ほか女子4人、計7人のグループは、朝自由行動の開始とともに、早朝の円山公園から東山周辺を巡りながら清水を詣で、いま次の目的地である東福寺に移動すべく、東大路通の最寄りのバス停を目指しているところだった。


 バス停に辿り着いた。

 さして広くない歩道は、何というか言葉もないくらいの人混みで、半分くらいは外国人観光客だ。

「次のバス、あとどのくらい?」

 追い付いた融が、少し息を弾ませて訊いてくる。

「すぐ来るだろ──」

 邦弘が応えたそばからバスが来た。市営207系統、九条車庫前行。

 予想はしてたが、フロントウィンドー越しの車中は、観光客でごった返している。

「乗るのか? あれ」

 これにはさすがにげんなりとして、良樹は訊いた。

「乗る。とりあえず……」

 邦弘は同じ顔で返しながら、それでも即答した。


 東京と違って車両の後部にある乗車口から、観光客に続いて女子4人を先に乗り込んでいく。車中の空スペースに不安があったが、何とか7人、滑り込めそうだ。

『──入口付近のお客様、もう少し中程に……』

 一行の一番最後に良樹がステップに足を掛けようかというタイミング。おばあさんが乗車口に一人で進み出てくるのを視界の端に捉えた良樹は、反射的に動きを止め、一歩引いていた。

 おばあさんと目が合うと、乗車口の方に手をやって乗車を促す。

「あ、どうぞ」

「おおきに」

 とても感じのいい感謝の表情のおばあさんが、覚束ない足取りでステップを上がると、車内はもう一杯の感じだった。

「宮──‼」 そんな良樹に気付いた亜希子が、慌てて邦弘にドアの方を指してみせる。「塩崎!」

 振り向いた邦弘は、すぐに状況を理解した。

「どうする、降りる?」

「ああ、降りよう」 サッと亜希子に視線を戻す。

 でも、ちょっと遅かった。

『──ドアが閉まります』


「すみません、降ります!」

『──入口付近のお客様、ステップの黄色い線から離れてください』

 亜希子の声はアナウンスに負けて、混雑で身動きが取れない邦弘ら6人は、それぞれバスの外に取り残された良樹を見ていた。

 そんな様子を外から見ていた良樹の方が、亜希子が声を大きくリフレインする前に、大袈裟なジェスチャを添えて先に行くよう促していた。「──先、行け、先! 後から追い付くから」

 そして後部ドアは閉まった。

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