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陽が落ちる前に三条通りの宿の前に辿り着くと、そこに学級委員長──須藤亜希子の姿があった。
旅館の玄関の先で、制服姿で真っ直ぐに立つ彼女の姿を見て、良樹は、携帯の電源をOFFにしっぱなしだったのを思い出す。
亜希子はそんな良樹にもう気付いていて、良樹が近寄ってくるのを待って、眉をつり上げるようにして声をあげた。
「宮! あんた、何の連絡もなしに、いったいぜんたいどーいうつもりよ⁉」
真っ直ぐに良樹を見て云う。
彼女のその剣幕に気後れした良樹が、どう応えようかと思案する。
さすがにここで本当のことなんて言えない。──が、本当のことを言わないと、須藤は決して納得しないような、そんな気はした。
でも結局、口から出たのは苦し紛れの小さな声音。
「悪い……その……羽目、外してた……」
はぁ? と亜希子の顔が呆れる。
「……羽目、って、ちょっ──」
爆発するほんの数歩手前、という感じの声の質感に、良樹は首をすくめた。
駅に近い往来の中、周囲には集合時間に遅れグループの姿もあって、バツが悪い……。
「ま、いいわ……」 ようやく、といった感じに大きく息を吐いて、亜希子は視線を外した。「──伊東先生のトコ、行くよっ」
肩を怒らすようにして玄関へと先導していく。
良樹は黙ってそれについていった。
良樹が副担任の黒江の指導──〝お小言〟から解放されたのは、夕食の時間も半ばを過ぎる頃だった。
担任の伊東は、最初に通り一編の説教をした後、グループのメンバー──とりわけ須藤亜希子にはちゃんと謝っておくよう云って、後はもう何も云わなかった。
須藤は、良樹が携帯の電源を切って音信不通を決め込んだ後も、学校側にいろいろ連絡をしてくれていて、予定の経路の途中途中では、良樹が合流しやすいよう計画通りの時間で進行するよう努めてくれてたらしい。
──こりゃ頭、上がらんなぁ……。
申し訳ないと思いつつ、夕食会場として提供されている宴会場へ入る。
学年はAからHの8クラス、生徒だけで350名以上の大所帯による夕食は、旅先というロケーションと修学旅行という非日常の一コマという興奮からの喧噪に満ちている。
良樹はさして目立つこともなく会場内へと入れた。自分の卓へと移動しな、広い会場内に目線をやって中里宏枝の姿を捜してみたが、彼女の姿は見つけられなかった。その代わりに須藤と一瞬目が合った。ついとその視線を外されてしまい、良樹はバツの悪い思いで卓についた。
「お?」 席に着くと、そのタイミングで隣から声が掛かった。「帰ってきたねー」
同じ班の五十嵐融だった。心持ち含み笑いな表情と、横目のジト目が気になる。
「な、なに?」
気持ち悪くなって訊いた。班行動をバックレたことくらいで融はこういう顔はしない。
「トボけんじゃないの」
融は静かに箸置きに箸を置くと、次の瞬間、がばっと良樹の頭を抱え込んで囁いた。
「ネタは上がってんのだよ! C組の栗原と岡村がみてるんさ──お前が女の子と一緒に嵐山を歩いてたのを」
「──‼」
卓上の料理に被害のないよう、されるがままの良樹だったが、はっとして、徹の顔の方に向き直った。
──そりゃそうだろ。修学旅行の自由行動だったんだぞ。他のクラスの連中に見られててもおかしくないだろーが!
自分で自分に毒づく。
正しく状況を認識したが、もう後の祭りだ。融のにやにや顔が迫ってきた。
「──結構かわいいコだったって? え? いい感じだったんだって? さー観念しろ! このぉ……」
──中里……すまん‼
心の中で彼女に謝っておいて、それでも何とかこの場を収めたい良樹は、ヨレヨレな声で云う。
「み、見間違いだろ……そもそもオレ、嵐山なんかに行ってないし──」
その絶望的なウソに基づく言い訳は、卓の反対側からの声に容赦なくぶった切られた。
「Hの今井も見てるとよ」 塩崎邦弘だった。メガネ越しの、秀才タイプの目線が冷たい。「──良樹、オマエあとでちゃんと話せよ」
めずらしく怒気をまとった邦弘ににらまれる。融の動きも止まり、良樹は開放された。
「……わかった」
良樹は首を竦めてそう云うと箸を割った。
その日の夕食はすき焼きだったが、こんな感じで落ち着かない。残り時間に追われるようにかき込んで終わりにした。
──中里、まだ帰ってないのか……担任に絞られてるのかな。
そんなふうに思いながら目立たぬように会場内をチラチラと窺ったが、彼女の姿は見つけられなかった。




