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あの日私は人を殺した

「今日からこの学校に通うことになった東雲月葉(しののめつくは)さんです。皆さん仲良くしてくださいね。」


『よろしくお願いします。』


一言だけ端的に述べ席に着く。


転校生が来ると誰もが物珍しそうに興味を抱く。

それは僕も例外ではない。

朝のホームルームが終わると僕の前に知らない男女が集まってくる。


「どこから来たの?」「彼氏とかいる?」と意味のない質問をしてくる。


あぁ……彼らからしてもこの質問にはそこまで意味のあるものでは無いようだ。

彼らの興味は私という存在についてではなく転校生という話題の作れる者に興味があるのだ。


だから私は彼らの興味を損なうためにあえて冷徹に応対する。


それから数日は話しかけに来る人もいたが、この対応を続けているとすぐに私に対する興味失い話しかけなくなった。


あぁ…これで少しはマシになった───


私は傍から見たら酷い人間なのかもしれない。

話しかけてくれた相手に冷徹な対応をする人間だ。

嫌われても文句は言えない。


私も昔はこんな性格ではなかった。


昔は笑顔を作ることができたし、悲しいって感覚も理解できていた。

今の私に無いものが昔の私にはあった。


私の性格に明確な変化があったのは7歳の頃、今から8年前のことだ。



私は生まれつき人の心が読めた。


人の心が読めると聞くとみんなが羨ましいと感じると思うがそんなに万能なものではない。


私の持つ心の読める力というのは第六感のようなもので意図せず発動してしまう。

視覚や味覚、嗅覚のように勝手に感じてしまうのだ。


小さい頃は友達にこの力を自慢したり親に話したりした。

だがその話を話す度に友達は馬鹿にし、親には殴られた。


そんな生活に耐えきれなかったから私は自分の生まれつきの力について話さなくなった。

しかし話さなくなったからと言ってその関係がリセットされるわけではない。


友達には馬鹿にされ、玩具ように扱われた、親には殴られるしご飯も貰えない日が出るようになった。


それだけならまだ雲外蒼天だと思って耐えられた。

しかし僕の生まれつきの力、第六感が邪魔をした。


知ってる人だけでなく知らない人の心が読めてしまう、それは心の休まる場所がないということだ。


誰しも一日中走り回って休むことが出来ければ体が壊れてしまう。

それは心も同じで僕の休まることを知らない心はいつの間にか疲弊して壊れてしまった。


壊れた心は治ることがなく、ただひたすらに憎悪と虚無感に苛まれた。


その憎悪をは今まで虐待をしてきた両親に向かった。

そして壊れた心には歯止めがなかった。


両親が寝たのを確認し、足音を消して台所を向かう。

そこでろくに使われた形跡のない包丁を手に取った。

包丁を持ち、忍び足で寝室へ向かう。


寝室に入ると父と母がくっつくように寝ていた。

少しの迷いの後、僕は父の首に包丁を当て一気に切り裂いた。

切り裂かれた父から呻き声のようなものがでる。


切り裂かれた父を見ていると血腥さのせいなのか母が目を覚ました。


母はしばらくの沈黙の後大声で叫び出した。

うるさかったから腹を指し母に言った。


『うるさい。』


たった一言だったけど母を黙らすには十分な言葉だった。


そこからしばらく沈黙が続いた。

私と母はお互いに見つめあったまま動かなかった。


何故沈黙をしたのかは分からない。

ただ沈黙を続けたのは、心が安らいだからだ。


第六感で人の心が勝手に読めてしまっていた私に初めて訪れた静寂。

人は恐怖に襲われた時、こんなにも心が凪ぐのかと思った。


その初めての体験に気分が高揚した。

人を殺す罪悪感など微塵も感じることなく、自分の中に生まれたこの高揚感を心に噛み締めていた。


しばらくして母に向き直り、少し落ち着いた憎悪を抑え、母に話しかけた……がいつまでも返答が帰ってくることはなかった。


今考えると出血多量で死んだのだろうと理解できる。

ただその時の私は母が死んだフリをして生き残ろうとしている考えた。


そうだと決めつけた私の心に次に現れたのは憤りだった。

私は憤りと抑えていた憎悪を解き放ち母を刺し続けた。


臓器が見え、血が枯れて出てこなくなっても尚刺し続けた。

何時間経ったのか分からない、それでもただ夢中で刺し続けた。


気づくと僕は精神病棟にいた。


気がついてから現場にいた警官がやってきて話をしてくれた。


どうやら私は通報を聞いて駆けつけた警官が止めようとしても母に包丁を刺し続けていたみたいだ。

その姿を見てどう見ても精神がおかしいと判断した警官が僕を精神病棟に送ったということらしい。


そこからだ、私の心は溢れ出ていた憎悪がめっきりとなくなり、虚無感だけが肥大化していった。


虚無感は私の心に巣食い期待することを辞めさせた。


人に期待せず、人は負の感情が当たり前だと認識するようにした。

そして極力人と関わらないようにして生きることを決めた。


精神病棟はいい所だった。

心の声が聞こえるのは医者と看護師くらい、あとは何も考えていないのか声が聞こえることはなかった。


心に負担がかからない場所は心の器を修復するにはうってつけの場所だ。

だが無くなった液体を戻すことは出来なかった。


自分の中で消え失せた期待、喜び、悲しみは以前まで心の器に流れていた。

だが今私の心の器に流れているのは虚無感、諦念そして少しの憎悪だ。


この心の器の容量は無限ではない。

いつか溢れ出してしまう。


その器が溢れ出した時私がどうなるかは分からない。

考えてもしょうがないことだ。


いつか理解したその時に考えよう。

そう思い考えることをやめ心を休めることに専念した。


そうして精神病棟から出る日が来た。

普通なら少年院や、保健所に送られるはずだったが、僕の事情を知って同情してくれたのか親戚の叔父と叔母が僕を引き取ることにした。


それから叔父と叔母は私に人一倍優しくしてくれた。

私に気を配り、何不自由ない生活をさせてくれた。

中学も高校も行かせてくれた。


自分の兄弟を殺した姪に対して何故ここまで優しくするのか理解はできなかった。


私を罵って殴って気持ちを紛らわせてもバチは当たらないだろう。

人殺しを養子にして我が子のように育てる彼らの気持ちを私は推量ることが出来なかった。


彼らはあまり私の父と母の話をしたがらなかった。

だから私もあまりその話を聞かなかった。


気持ちを推量ることは出来なかったが聞かれたくないことを聞いてしまうほど理解の及ばない人間では無い自負がある。


彼らが聞かれたくないならば聞かなくていいと思ってほうっておいた。


そして地元の人には人殺しと噂されていることを知って転校もさせてくれた。


転校させてくれた学校でも友達を作ろうとしない私は親不孝に親不孝を重ねているダメなやつだと思う。


けどダメなやつだとしても人と関わることは嫌だ。

うるさい場所にはいたくない。

相手の心を勝手に覗いてしまうこの力を持っているうちは人とは関わりたくない。


その望み通り僕は今孤立している。

たまに話しかけてくる男子はいるが、下心丸出しのやつがほとんどだ。


人と関わりたくないなら無視すればいいと自分でも思う。


だが心の中だとしても自分があられもない想像をされていることがたまらなく気持ち悪く我慢ならなかった。


人は心の中で自制することはしない。

心が読めることなど普通ないからだ。


だから彼らが悪いのではない。

彼らは心でだけで実際に行動にはしない。

真摯にこちらに向き合っている。


でもやっぱり気持ち悪いと感じてしまう。

これが私と他の人の違い、自分が普通の人間では無いと嫌でも理解させられる。


気分は魔女狩りから隠れている魔女だ。

しかもその魔女は人を殺してるときた。

見つかれば糾弾され排斥されるだろう。


本来なら罰せられなければならないことをした。

したはずなのに、私は罰を受けないといけないのに

事実を知るものは皆私に同情する。


それに私も甘え、罰からのらりくらりと逃げ回っている。


いつかその事実が明るみに出て罰されることになったとしても私は受け入れなければならない。


でも自分から死ぬ勇気がない。


だからこれから始まるのは私が死ぬため(死なないため)の物語だ。




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