第6話 村が守るべき拠点に
辺境の村に、いつの間にか活気が戻っていた。
畑は豊かに実り、子どもたちはパンの香りに誘われて笑い声を響かせる。
村人たちが顔を上げるたび、その中央には――補助術師カイル、女騎士セリナ、そして聖女エリシアの姿があった。
「……なんか、俺が一番場違いじゃないか?」
カイルは畑仕事の手を止め、二人を横目で見ながら苦笑する。
「そんなことはない」
セリナは真顔で首を振った。
「私の剣も、エリシア様の奇跡も……あなたの魔法があって初めて本領を発揮できるのだ」
「ええ。私もそう思います」
エリシアが柔らかく微笑む。
「支援とは“縁を支える”こと。あなたは私たちの縁を繋ぐ人なのです」
「……そんな大層なもんじゃないと思うけど」
照れ隠しのように頭を掻くカイル。だがそのやり取りを見守る村人たちは、皆、確信めいた眼差しをしていた。
◇
その日の夜、村の長老からカイルに呼び出しがかかった。
囲炉裏の火を前に、長老は静かに口を開く。
「カイル殿……この村を守る“拠点”にしていただけぬか」
「拠点……ですか?」
「王都から遠く離れたこの地は、魔物の通り道。これまでは耐えるしかなかったが……あなた方が来てからは違う。村を守れる“力”がある」
長老の声は重く、しかし期待に満ちていた。
「カイル殿。どうか、村を……いや、この地を護る砦になってくだされ」
突然の言葉に、カイルは答えに詰まった。
彼はただ、のんびり暮らすためにここへ来ただけだ。
だが――横に立つセリナとエリシアの真剣な眼差しに、胸の奥が熱くなる。
「……分かりました。俺にできることなら」
その瞬間、二人の仲間がほっと笑みを浮かべ、村の空気がひとつにまとまるのを感じた。
◇
翌日。
村の入口に、巨大な影が降り立った。
翼を広げ、夜空を覆うほどの存在感。
漆黒の鱗に覆われた竜が、ゆっくりと村を見下ろしていた。
「な、なにぃっ!? 竜だと!?」
「避難しろ――!」
村人たちの悲鳴。
だがその竜は、低い声でこう告げた。
『……この村に、“支援の光”を持つ者がいると聞いた』
その眼差しが、真っ直ぐにカイルへと注がれる。
辺境の小さな村は、もはやただの村ではない。
――英雄と聖女、そして竜までもが集う“拠点”となりつつあった。