第5話 聖女との邂逅
夕暮れ時の村に、ひときわ神々しい気配が漂った。
フードを外したその女性は、金糸のような髪と澄んだ青の瞳を持つ、気品ある美女だった。
「聖女エリシア様……!」
女騎士セリナが思わず膝を折り、敬礼する。
村人たちはざわめき、子どもたちでさえ息を呑んで立ち尽くしていた。
聖女――それは、神の加護を受け、人々を癒す存在として絶大な信仰を集める特別な存在だ。
「……どうしてこんな辺境に?」
セリナが問うと、エリシアは小さく微笑んだ。
「道中、毒に倒れた兵士がこの村で助けられたと聞きました。――それも、支援魔法によって」
その視線がカイルに注がれる。
彼は思わず肩をすくめた。
「俺はただ、できることをしただけで……」
「いいえ」
エリシアの声は柔らかく、しかし揺るぎなかった。
「治癒の奇跡を持つ私ですら、呪毒を完全に祓うことはできません。それを和らげ、人の命を繋ぎとめた。……あなたの魔法は、決して“地味”などではないのです」
カイルの胸に、熱いものが広がった。
王都で散々言われた「役立たず」という烙印。その反対の言葉を、またしても告げられる。
◇
その夜、村の広場。
エリシアは疲れた村人たちを集め、一人ひとりに祈りを捧げていた。傷や病が癒えるたびに、人々の目には涙が浮かぶ。
「すごい……本当に聖女様だ」
「こんな方が村に来るなんて……」
村全体が感動に包まれる中、ただ一人、エリシアはため息を漏らしていた。
「……癒せぬ者も、いる」
そこには長年の持病に苦しむ老婆がいた。祈りの光は温かかったが、病を根治させることはできない。
老婆は気丈に笑ったが、エリシアは悔しげに眉を寄せる。
「私の奇跡は、万能ではない……」
その瞬間、カイルは一歩前に出た。
「……なら、俺が補助する」
老婆に向かって手をかざし、光を放つ。
「〈調律〉!」
エリシアの癒しの光と、カイルの支援魔法が重なり合う。
すると老婆の顔に赤みが戻り、長年苦しんでいた咳が止まった。
「こ、これは……!? 息が、楽に……!」
その場にいた全員が息を呑む。
エリシア自身も驚愕の表情を浮かべ、やがて小さく笑った。
「……あなたの力は、私の奇跡を補う。カイル殿、どうか共に歩ませてください」
その言葉に、セリナも力強くうなずいた。
「これで二人目か……」
カイルは思わず苦笑した。
ただの辺境村でスローライフを送るつもりが、気づけば伝説級の仲間たちが集まり始めている。
――まるで、自分を中心に世界が動き出しているかのように。