第4話 女騎士、村に残る
戦いの翌朝。
村の井戸端に立つ女騎士セリナは、甲冑を脱ぎ、村人たちに囲まれていた。
「おお、嬢ちゃんが昨夜の魔物を倒してくれたのか!」
「すごいな、まるで物語に出てくる英雄じゃねぇか」
「しかもカイルの支援付きだったって話だぞ」
口々に感謝を伝える村人たち。セリナは少し照れくさそうに頬を赤らめ、きっちりと姿勢を正した。
「いえ、私ひとりでは到底……。カイル殿の力があってこそです」
その言葉に、村人の視線が一斉にカイルに向く。
彼は気恥ずかしくて頭を掻いた。
「いやいや、俺はちょっと魔法を使っただけで……」
「その“ちょっと”で、うちの命が助かってんだぞ!」
昨夜救った兵士の一人が、まだ包帯姿のまま笑う。
村全体が和やかな空気に包まれる中、セリナが改まったように言った。
「カイル殿。私は、しばらくこの村に滞在させていただきたいと思います」
「え? 滞在?」
「はい。仲間の傷が癒えるまで護衛役を務めること、そして……あなたの力を、もっと間近で見たいのです」
真剣な眼差しで見つめられ、カイルは言葉を失った。
彼女のような騎士が、自分のような“追放者”に敬意を抱いている――。王都では考えられなかった光景だった。
「……好きにすればいいさ。ただ、俺は畑仕事とパン焼きが主だからな」
「それもぜひ学びたい!」
セリナは力強くうなずき、村人たちが「女騎士様が農作業!?」「パンを焼く姿、見てみたい!」と大騒ぎ。
こうして、彼女は自然と村の一員として受け入れられていった。
◇
数日後。
畑では鎧を脱いだセリナが鍬を振るい、カイルの隣で汗を流していた。
「ふ、ふんっ! これが……辺境の修練か……!」
「いや、修練っていうかただの農作業だけど」
慣れない動きで土を跳ね飛ばし、村人たちの笑いを誘う。
その光景は、かつて“英雄の剣”と呼ばれた騎士の姿からは想像できないほど素朴だった。
「でも……悪くないな」
セリナは額の汗をぬぐいながら、ふっと笑った。
「命を削る戦場より、土の匂いに囲まれる暮らしの方が……ずっと心が安らぐ」
その横顔を見て、カイルは思った。
(彼女もまた、この村を“居場所”と感じ始めているんだな)
辺境の小さな村。
そこに確かに、新しい絆が芽吹き始めていた。
◇
だがその夜。
村の入り口に一人の旅人が姿を現した。
フードをかぶった女性。手には光り輝く杖。
その背に漂う神聖な雰囲気に、村人たちは息を呑む。
「……聖女様?」
セリナが驚愕の声を漏らす。
次なる“伝説級の仲間”が、カイルの暮らす村を訪れようとしていた――。