第3話 支援魔法の真価
「仲間を……救う?」
夜の静けさを破るように、女騎士の声が響いた。
彼女は銀鎧の肩を震わせながら、深く頭を下げる。
「私の部隊は森で魔物に襲われ、今も仲間が傷ついたまま……! 治癒の祈りをかけても、呪毒が抜けないのです」
真剣そのものの眼差し。
その迫力に、カイルは思わず息を呑んだ。
「……でも、俺は治癒魔法は使えない。ただの支援魔法しか」
「だからこそです!」
女騎士は顔を上げ、その瞳を真っ直ぐに向けてきた。
「人から人へと力を繋ぎ、絶望を希望に変える――〈万能補助術〉は、そういう力だと聞きました。あなたでなければ、仲間は助かりません!」
その言葉は、王都で浴びた嘲笑とは正反対だった。
“必要だ”と、真正面から告げられる。
カイルは拳を握りしめ、静かにうなずいた。
「……分かった。案内してくれ」
◇
村の外れ、森の中。
倒れ伏す数名の兵士の傍らで、黒紫の靄をまとった巨大なオオカミ型の魔物が、唸り声を上げていた。
「ぐ、う……毒が……」
「動けない……」
兵士たちは青ざめ、女騎士が必死に剣を構える。
だが魔物の威圧に、膝が震えているのが分かった。
「私が時間を稼ぎます! あなたは仲間を!」
女騎士が叫び、魔物へ突撃する。
カイルは息を整え、負傷兵たちへ手をかざした。
「〈解除〉――!」
温かな光が流れ込み、兵士たちの苦悶が少し和らぐ。毒は抜けない。だが、痛みを軽減し、意識をつなぎとめることはできた。
「……少しは、持ち直したか」
その瞬間、魔物が咆哮し、女騎士を弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
「危ない!」
カイルは反射的に叫び、彼女へと魔法を放つ。
「〈加護〉!」
銀の光が女騎士の全身を覆い、地面に叩きつけられる直前で衝撃が和らいだ。
女騎士は目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
「な、これは……体が、軽い……! 力が漲る!」
剣を握り直し、再び立ち上がった女騎士の斬撃は、先ほどとは比べものにならぬ鋭さで魔物を裂いた。
光の軌跡が森を照らし、オオカミは断末魔の咆哮を残して崩れ落ちる。
◇
「……助かった。あなたがいなければ、全員死んでいました」
戦いが終わり、女騎士は深く頭を下げた。
彼女の瞳には、今度こそ真の敬意が宿っていた。
「私の名はセリナ。王国騎士団に属する者です。――カイル、あなたの力は、決して地味なんかじゃない」
胸に熱いものが込み上げる。
王都で切り捨てられた力が、ここでは誰かを救える。
その事実は、カイルにとって何よりの報酬だった。
「……ありがとう、セリナさん」
夜空に月が輝き、二人を見守っていた。
そしてこの出会いが――後に“最強パーティ”と呼ばれる始まりになることを、まだカイルは知らなかった。