表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/16

第12話 辺境防衛戦

 北の森を抜け、黒い波のように兵が迫ってきた。

 松明の列、鎧の鈍い音、そして空を切り裂く魔導師団の詠唱。王都が本気で潰しに来ているのは誰の目にも明らかだった。


「数は百……いや、二百はいるな」

 見張り塔から戻ったセリナが短く報告する。

「正規兵に混じって傭兵、魔導師団。村ひとつを潰すには過剰だ」


「……過剰で当然です」

 エリシアの瞳は静かに燃えていた。

「彼らは“恐怖”で従わせたい。だから圧倒的な力を見せつけに来た」


 カイルは深く息を吸い、両手を広げた。

「なら、俺たちは“暮らすために守る”。それだけだ」


 掌に光が灯る。

「〈鼓舞〉――!」


 村人たちの目が一斉に輝いた。恐怖で固まっていた足が動き出す。農具を槍に持ち替え、木の盾を掲げる。子どもたちは避難所へ駆け、老人たちは窯の火を守る。


 村がひとつの“隊”になった瞬間だった。


     ◇


 戦端は、森際で開かれた。

 魔導師団の炎弾が一斉に放たれ、夜空を赤く染める。


「〈鉄壁〉!」

 カイルが叫ぶと、光の膜が畑の畝を覆った。炎は弾かれ、土に火が移ることはなかった。


 そこへセリナが飛び込む。

「はあああッ!」

 補助魔法で研ぎ澄まされた剣閃は鋼すら断ち、兵士たちをまとめて薙ぎ払う。


 背後から矢が飛ぶ。だが村人たちの作った盾壁が受け止めた。

「俺たちだって、畑を守るためなら戦える!」


 叫び声が広場に響く。


     ◇


 だが、真に恐ろしいのは魔導師団だった。

 十数名の術者が同時に詠唱を重ねる。空気が震え、巨大な雷槍が生まれる。


「カイル! あれは……!」

「分かってる!」


 雷が放たれた瞬間、カイルは両手を叩いた。

「〈調律・共鳴〉!」


 光が村人全員に流れ込み、盾を掲げた者、槍を構えた者、皆の動きが一つに揃う。

 雷槍は分厚い“集団防御”に叩きつけられ、土煙を上げて砕け散った。


「これが……支援魔法の力……!」

 エリシアが目を見張る。


     ◇


 その時、夜空を裂く轟音。

『下がれ、小さき者たち!』


 黒竜バルディアが翼を広げ、魔導師団へ突進した。

 その咆哮だけで詠唱が乱れ、炎と雷が霧散する。竜の爪が大地を抉り、兵の列が吹き飛ぶ。


「これで三方が揃ったな」

 カイルは息を荒げながら笑った。

「剣、祈り、竜……そして俺の支援。これが俺たちの――最強パーティだ!」


     ◇


 戦いは熾烈を極めた。

 剣を振るうセリナの周囲で光が踊り、癒しを紡ぐエリシアの祈りに補助の糸が重なる。村人たちも一歩も退かず、バルディアの影が空を覆う。


 夜明けとともに、王都の軍勢は退いた。

 倒れた仲間を抱え、混乱のまま森の向こうへ消えていく。


 村の広場に残ったのは、崩れた柵と焼けた畑、そして――生き残った皆の歓声だった。


「守りきったぞ!」

「俺たちの村は、俺たちのものだ!」


 カイルはその輪の中で、ようやく剣を下ろしたセリナと、光を収めたエリシアと、空から降り立った竜の巨体を見上げた。


(……これが、俺の居場所だ)


 胸の奥に、確かな炎が灯った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ