婚約者が男色と噂されています
短めなお話です
(パッと思いつきで描いた作品なので、設定は甘々です。温かい目で読んでいただけると嬉しいです)
「婚約者が男色と言われているのをご存知なくて?ミュンター侯爵令嬢、シャーロット様」
今日は、婚約者の卒業パーティーで、目の前の見知らぬご令嬢に苦言を呈される。
「存じておりますよ」
シャーロットは表情を一切変えずに返答する。
「あら、その上で何も言わないなんて。婚約者を諌めるのもあなたの仕事の一つではなくて?」
「もうじきに分かることですから」
◆◇◆
学園にて
騎士科に通う、三代公爵、ニキト公爵家の長男であるキルーシュと彼の護衛であるチャーリーと呼ばれる人物が噂の渦中にあった。
「キルーシュ様、チャーリー様が同性の方と話すだけで嫉妬されるのね。チャーリー様が男性と話そうとしても絶対に話を割って入っていらっしゃったわ」
「私、キルーシュ様がチャーリー様に、あ、あーんってしてるのを見かけてしまいましたの」
「「「きゃあー」」」
「幼い誘拐されそうになったのをチャーリー様が助けたことでお二人の関係は始まったそうよ」
「幼い頃からの禁断の関係なのね…」
「チャーリー様はキルーシュ様の護衛のために必死に訓練を積んで、騎士科入学の同時に卒業試験を合格なさったはしいわよ」
「武道の天才と言われるミュンター侯爵の中でも歴代最強レベルと言われる現当主でも卒業試験合格まで1年はかかったらしいわよ」
「「「「愛よねぇ」」」」
「シャーロット様、可哀想…」
「お二人の愛の隠れ蓑ですわね」
「まぁ、お二人の関系は隠れてもないけどね」
「キルーシュ様の目が、チャーリー様を見るときだけ甘くなるから、バレバレですものね」
「卒業してしまったらお二人の姿は見にくくなってしまうかもしれないわ」
「後2日、目に焼き付けましょう」
令嬢四人はそんな話をしながらさっていった。
二人はたまたまその現場の近くにのベンチで座って話していた。
「ねぇ、ほんとにどうすんの?」
キルーシュが困ったように口を開く。
「ほんとだねぇ、困った、困った。流石にこんなことになると思ってなかったよ」
キルーシュはため息をつきながら目の前の楽観的な人物を眺める。
「まったく、君のせいで僕は『自分は2番手で構わないから、自分と婚約してくれ』って令嬢が尽きないんだけど…」
「キルの目線が違うからと、言われている部分もあるでしょ」
「それはさぁ」
キルーシュは拗ねたように相手を見る。
「ごめん、ごめん。明後日の卒業のときにどうにかできるように手配してあるから、あ、キルにも手伝って欲しいことがあるんだ」
「はいはい」
◆◇◆
卒業パーティ当日。
キルーシュの婚約者であるシャーロットは嘲笑の的である。
『男に婚約者を奪われた哀れな女』と。
そんな噂をまるで知らないかのようにシャーロットは平然としている。
ある男が甘い目をしながらシャーロットに近づいていく。
その光景に周囲がざわめく。
「チャーリー!!」
そう叫びながらキルーシュはシャーロットを抱きしめた。
えっ、と周囲から声が漏れる。
「夜会でそんなに走っちゃダメでしょ、まったく」
「え?どういうこと?」
ある令嬢が呟いた。
「どういうこと、とは?」
そのつぶやきをシャーロットが拾う。
「チャーリーって、だって、え?チャーリー様は優秀な護衛でしょ?シャーロット様がチャーリーって」
「えぇ、私が優秀な護衛のチャーリーよ」
「だって、髪の長さだって違うじゃない」
「あぁ、チャーリーのこれはつけ毛だよ」
キルーシュが代わりに答えた。
「「つけ毛?」」
幾人かの声がハモった。
「えぇ、留学中に髪を切ったんだけど、父上が髪が長い私がいいとうるさいから、キルに頼んで作ってもらったのよ。学校以外ではずっとつけてるのよ。髪の色も目の色も全く同じなのに、同一人物と気がつかれなかったのが不思議なくらいよ」
そう言ってシャーロットがつけ毛を外すと、生徒が見慣れたチャーリーの髪型だった。
「な、なんで、シャーロットがチャーリーだって言わなかったんですか?」
「「聞かれなかったから」」
「「「は?」」」
シャーロットとキルーシュの言葉に多くの人が怪訝な顔をしながら疑問の呟きを漏らす。
シャーロットとキルーシュは何が悪いのかわからないとでもいうように顔見合わせ首を傾げた。
そして、あ、と思い出したように
「みんな知っての通り僕が愛情を向けてるのはチャーリーだから。あと、ずっと我慢してたけど、チャーリーは僕とシャーロットの思い出の名前だから、もう金輪際シャーロットのことチャーリーって呼ばないでね」
◆◇◆
卒業式パーティーから1年後、シャーロットとキルーシュは結婚式を挙げた。
結婚式の日の夜、隣でぐっすりと眠るシャーロットの頭を撫でながら、キルーシュは呟いた。
「安心してね、君を守るから」
それは、幼い頃誘拐されそうになった自分を助けてくれた、自分のことをチャーリーと名乗る少年のような少女が、自分にかけてくれた言葉。一目惚れをした人がかけてくれた言葉。
次は僕が君を守る番だから。君はそんなこと必要としないほど強いけれどね。
キルーシュはふっ、と幸せそうに微笑むともう一度目を閉じた。
お読みいただきありがとうございました!
個人的にこう言った類の話は好きなのでいつかちゃんと書き直そうと思います!