第4章:法則を超越した
天空が裂け、六つの影が現実に降り立つ。
異なる階層の観測者たち――
それぞれが異なる法則と制約を背負い、この瞬間、ただ一つの目的に集約されていた。
「異端存在:イリアス。排除、最優先。」
空間が軋む。
法則がぶつかり合い、宇宙そのものが悲鳴を上げる。
だが、アゼルは笑った。
「……お前らの“法”じゃ、俺を止められねぇよ。」
彼の身体から黒紫の輝きが奔流となって広がる。
それは魔力ではなく、“記憶”そのもの。
かつて存在し、そして拒絶された無数の可能性が、今この瞬間に具現化していく。
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「干渉開始。因果律修復モード:第七段階。」
最初に動いたのは、エラリオンだった。
その手が空に向かって伸びると、光なき閃光が走り、アゼルの周囲に“空白”が広がる。
色も音も失われ、彼の存在が塗りつぶされていく。
アゼルは構わず、前へと一歩踏み込む。
その瞬間、彼の足元に現れたのは、「拒絶式」。
「否定の概念、解除――“再定義式・原初接続”起動。」
爆発音すら存在できない、完全なる断絶が炸裂する。
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空間に穿たれた巨大な穴。
その穴から現れたのは、アゼルの“もう一つの可能性”。
左腕が変質し、まるで記憶の連結器官のようなものが浮かぶ。
「お前たちは現実の守護者かもしれないが……」
「俺は“虚無から生まれた可能性”だ。忘れんなよ。」
六体の監視者たちが一斉に詠唱を開始。
彼らの声は音ではなく、「宇宙の論理そのもの」だった。
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「法則変換開始:記憶→因果→存在。対象、再構成準備完了。」
空間が閉じる。
アゼルの存在が一度、“消える”。
だが――
「……そこが甘ぇよ。」
再び現れたアゼルは、概念の死角から姿を現した。
彼は右手を前にかざすと、
**“真名”**を告げる。
「我が名は、イリアス。拒絶されし始原。
ゆえに、全ての法に属さぬ者なり。」
そして、打ち放つ――
“無登録存在式・断界爆裂”
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天地が逆転した。
概念が崩壊し、存在論が反転する。
その場にいた三体の監視者が、“成立前の状態”へと還元された。
だが、残る三体とエラリオンは無傷。
むしろ、さらに深い段階へと適応し始める。
「解析完了。イリアス:階層外存在。次階層解放準備中……」
空の“目”がもう一段階、開く。
アゼルは片膝をつきながらも、微笑んだ。
「……来いよ。次は、お前らを“神話”ごと消してやる。」