第1章:亀裂の起源(キレツ ノ キゲン)
すべては月のない夜に始まった。
名もなき稲妻が空を引き裂き、風は忘れ去られた魂の叫びのように唸りを上げていた。かつて光が千年前に消えた地――エルヴァルは、理を超えた何かの存在に震えていた。
ひとつの鼓動。ひとつの呼吸。そして、現実に刻み直される名。
アゼル。
彼は目を覚ました。それはこの世界ではなく、腐り落ちた層の現実の狭間だった。誰も彼が何者かを知らない。神か?人か?それとも宇宙に見捨てられた概念そのものか?
彼自身にも、もうわからない。
唯一残っていたのは――痛み。
それは肉体的な痛みではなく、精神的な苦しみでもない。因果律の最深層に囚われた者だけが知る、存在そのものが宇宙から拒絶されるような痛みだった。
> 「お前は存在してはならぬ。」
それは神でも人間でもない声だった。現実そのものの声。怒りではなく、ただ法を執行しているだけだった。
だが、アゼルはもはや法に縛られる存在ではなかった。
彼が立ち上がると、大地は砕け、空間がうめき声を上げた。足元に漆黒の魔法陣が浮かび上がる。それは召喚ではなく、彼の本質から再構成されたものだった。彼の瞳には、いかなる言語にも属さない文字列が煌めいていた。
隣接する数キロ先、隕石が落ち、測定不能な地震を引き起こした。しかし、時間も光も失われた地・エルヴァルは動じない。それは滅びに慣れていた。
慣れていなかったのは、**再生**である。
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> 「アゼル、お前は異端だ。運命のグリッチ(欠陥)にすぎない。」
それが、“監視者”と呼ばれる者たちの言葉だった。彼らは生きても死んでもいない。ただ存在し、均衡を守るだけの存在。彼らにとってアゼルは、消去すべき“亀裂”にすぎなかった。
だが、彼らは知らなかった。アゼルの存在こそが、古の神々が忘れようとした時間すら超える呪いであることを。
アゼルが手を掲げると、空気が歪み、物理法則が紙のようにねじ曲げられる。彼の一歩ごとに、空間の層が波紋のように揺れる。
彼が求めているのは復讐でもなく、正義でもない。彼はただ――帰還を望んでいる。そのためには、自分を否定したすべてを壊さなければならない。
> 「俺は異端ではない。俺は応答だ。」
その声は第七次元に響き渡った――言葉がそのまま運命になる場所に。
この瞬間から、未来は予測不可能なものとなった。
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アゼルは帰還した。
そして今回、闇はもはや光では払えない。