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月の方舟  作者: 藤龍
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第二話 月明かり照らす淡きブルーナイト

 月明かり照らす淡きブルーナイト


 これは、月菜の兄である陽実ひさねが失踪する7年前とある水族館で起きた“怪異”の話である。


 今は潰れてしまったが、月菜が幼い頃宿のある和風チックな空海(そらうみ)水族館という水族館があった。

 幸運な事に、月菜の家から2~3キロほどの距離だった。そのため、小さい頃から魚が大好きだった月菜は当時中学生だった兄とよくそこに出かけていた。一度来ると中々帰ろうとせず、巨大水槽の前に立ってシロワニ(サメ)やエイなどの大きな魚をいつも、ジュエルショップで高価なダイヤモンドネックレス見るように目を輝かせ、それまた少し悔しそうに眺めていた。

 2009年の夏休み、月菜家族はその水族館へ泊まりで行くことになった。月菜は子犬のように飛び跳ね、全身で喜びを表現した。

 車に乗って移動している最中にも月菜は見たい魚や、イルカショーの話をしていた。家の前に広がる野原から、奥にそびえる大きな山脈、暗く長いトンネル、海岸沿いと景色を淡々と変えていき、10分もしないうちに水族館に着いた。車を止めるなり、月菜は水族館入り口の方へ走り出し、早く早くと急かすようにぴょんぴょんとはねた。

 魚のことで頭がいっぱいで他のことを考えられなかった。入館してすぐ、巨大水槽の方に歩き出した。兄は月菜についていき親たちは、ゆっくり入り口付近の魚から見ていた。巨大水槽に着くと月菜はいつもの“あの顔”をして水槽を眺めていた。巨大水槽の前にいると何だか落ち着く。騒がしい学校とは違って、ここはいつも月菜の全てを受け入れてくれる。嫌なことも、辛いことも、ここに来ればどうでもよくなる。

 月菜は特にシロワニが大好きだった。

 いかつい顔でも温厚でゆったりと泳ぐ姿が

 月菜の目にはとても美しく映っていたから。今となっては古いデジタルカメラで一生懸命写真を撮っていたのを覚えている。あっという間に昼になり、イルカショーが始まった。月菜は一番前の席で兄の隣に座り、目をキラキラさせて見ていた。すると、一匹のイルカが水槽の一番下まで潜った。すぐに猛スピードで上昇し、水面に浮かんでいたお姉さんを突き上げ一緒に大ジャンプをした。月菜にはそれがとてもスローに見えた。大量の水しぶきとともに飛び上がったイルカは実に美しかった。強い日差しに照らされ、体はキラキラと光り、美しい流線型の体は空中で弧を描いていた。まるで三日月のように。見惚れていた次の瞬間、大量水しぶきが雨のように降り注ぎ、月菜の体をずぶ濡れにした。直後会場は大きな拍手に包まれ、月菜は満面の笑みを浮かべた。隣の兄も、ずぶ濡れになって笑みを浮かべていた。

 ショーが終わると、

「ポンチョ着てたのに二人ともずぶ濡れね」

 と母の声が聞こえ、トイレで着替えた。

 お昼ご飯は海鮮丼を兄と一緒に食べた。マグロやサーモンが口に含むたびトロトロととろけて、とても美味しかった。


 午後は、ふれあいコーナーでネコザメやヒトデ、エイを触った。

 ネコザメサメはとてもザラザラしていて、鎧を触っているような硬い体だった。

 ヒトデは手でつかんで裏を見ると、小さく無数な足が、うねうねと動いていた。面白くて兄に見せると、嫌そうな顔をしていた。それでも月菜はヒトデを兄に押し付けたので、兄は怒ってしまい口喧嘩になってしまった。あまりの気迫に押され、怖がる月菜の手からヒトデ床に滑り落ち、兄が意図せず蹴ってしまった。

 騒ぎを聞きつけ、駆けつけたスタッフの人に止められ、親が、迎えに来た。二人ともすごく怒っていた。けど、あまり覚えていない。ショックで忘れてしまったのかもしれない。ヒトデは何とか生きており、水槽に戻された。その日はすぐに館を出て、宿に泊まった。夕食は豪華だったが、あまり味がしなかった。お風呂は、露天風呂があって、海水の匂いがした。満月の月は大きくて、思わず手を伸ばした。もちろんつかめなかったけれど、諦めず何度も何度も手を伸ばした。周りを見ると星がたくさん光っていて、今日のヒトデを思い出した。でも嫌な気はしなかった。母は、小さい頃の話をしてくれた。母もこうして、月に手を伸ばし、つかもうとしていたらしい。そうか、みんなつかみたくなるんだな…そう思って、もう一度空を見上げる。明るく光る月、周りで便乗するように光る無数の星たち。まるでクラスみたいだ。中心人物が居て、それに便乗する取り巻きたち。少し目を逸らすと、暗闇にポツリと光る小さな星。あぁ…星でもクラスでも、うまく馴染めない者がいる。魚でも同じだろう。群れに馴染めず一人くらい海を彷徨う。どれだけ心細いか…食料にも恵まれず、弱っている時に限って捕食者に出くわし、食べられる。

 自然とはそうゆうものだ。悔しいが、月菜にはそうやって割り切ることしかできない。大きなクラゲのような月に別れを告げ、お風呂から出る。パジャマに着替えた後、無意識に自動販売機を見る。「コーヒー牛乳」その文字を見た途端、月菜は母の腕に抱きつき必死におねだりをした。

 優しい甘さが口の中に広がり、後から少しの苦味が来る。やはりコーヒー牛乳は最高である。

「プハ〜」

 という声が漏れた。気配を感じ、後ろを見ると父と陽実がいた。校庭のように広い宿のロビーには楽しそうな雰囲気の中、陽実と月菜の間には水の入ったバケツに絵の具を垂らした時のような、なんともいえず淡くてじんわりとした空気が漂っていた。


 時刻が19時半を回った頃、部屋の上部についている、学校にあるようなスピーカーから放送があった。

「20時から夜の水族館ツアーを開催いたします。ご参加を予定されているお客様は宿の正面玄関に集合してください。」

 夜の水族館。それは普段見ることのできない暗く美しい世界。父に誘われツアーに参加することになった。時間通りに集合すると、自分たちのほかにも何組かの家族や、カップルがいた。すると、挨拶とともに水族館の職員の人が何人か前に出てきた。

 みんな海のように青いキャップに、それと同じ色のシャツ、藍色のズボンを履いている。10分程度の説明を聞き、月菜たちは夜の水族館に足を運んだ。


 館内はとても暗かった。他の人は暗闇にまみれて見えず、見えるのは宇宙に広がる星のような水槽だけだった。月菜と陽実は驚いて顔を見合わせたが、すぐにどちらもそっぽを向いた。暗くてもお互いの位置が分かるなんて…流石兄妹である。しかし、そんな事も忘れてしまうぐらい美しい世界だった。薄暗く照らされた水槽の中でキラキラと繰り返し光る魚の鱗、夜でも元気に泳いでいるようだ。底で眠っている魚もいる。1人で見とれていると、目が慣れてきたのか他の人達がいもうずいぶん先までいってしまっていた。慌てて追いつこうと走った。みんなはもう巨大水槽の前に居て、月菜を待っていてくれたようだった。

「お魚見てて遅れちゃいました…」

 そう言ったらみんな笑ってくれた。ただ1人、陽実を除いては…

 職員さんから集合時間を聞き、自由時間になった。月菜は真っ先に巨大水槽に向かうと思いきや、後ろにあるクラゲコーナーに入っていった。中には月菜を照らしてくれる照明なんか無く、今日見た月のようなクラゲがフワフワと漂っていた。クラゲたちは羨ましい。考えるための脳、見るための目、そんなものがなくても気持ちよさそうに漂っている。ここは月菜のすべてを受け入れてくれる。海月に思いを馳せていると、奥から物音がした。

 シャン、シャン

 鈴?嫌な予感がする。

 シャン、シャン

 音がするたび心臓の音が速くなって来て、足がすくむ

 真っ暗な空間に赤い光が見え、月菜は人生で初めて“ヤツ”を目撃した。

 赤い和服に鈴の音、よく見えないがい面のようなものをつけている。

 直視した途端、一瞬視界にノイズが走り逃げ遅れてしまった。もうだめかも知れないそう思い目を瞑った。


 すぐに誰かに手を引かれた。

「おい!」

 聞き慣れた声に目を開けた。陽実だった。

「怪我はないな?逃げるぞ月菜!」

 そう言ってグイッと月菜の手を引いた。

 後ろから鳴り止まない鈴の音に恐怖を感じつつも、無我夢中で走った。


 気づけば館内から出ていて、両親が抱いてくれた。怪我はないか、何があったのかいろいろ聞かれた。野次馬に取り囲まれる有名人の気持ちが分かった気がした。放心状態の月菜は何も答えることができず、ボーッと海底に光る貝殻のような星空を眺めていた。周りに街灯がないせいか、星空がきれいだった。恐怖で硬直しきった心が少し癒やされ、右目から涙が流れた。

 疲れ切った月菜は、充電が切れたように両親の腕の中で眠ってしまった 。

 光り輝く朝日で目覚めた。

 月菜はまだ頭がボーッとしたが、帰りの支度をし車で帰路についた。

 昨日のあれは何だったのだろう。

 そんな事を考えていたら家に着いた。その日は頭が回らず、気がついたら夜になっていた。


 2年後


 朝、月菜は目を見開いた。

 ー空海水族館廃園ー

「嘘だ。なんで…」

 膝から崩れ落ちた。なんだって、空海水族館は月菜の思い出の場所で憩いの場所であったから。2年前のバケモノのせいだろう。あまりに急だった。大粒の涙が黒い床に滴って小さな水たまりができた小さなゴミが浮いている。さながら海のように…



「月菜殿、月菜殿!」

 びっくりして飛び起きた。

 声のした方を見ると、月ノが体にへばりついて目に涙を浮かべている。

「死んじゃったかと思ったよぉ!もう月菜殿のバカァ!」

 なんか怒られた。どうやら、体感数日眠っていたらしい。呼吸も心拍もゆっくりだったから心配だったらしい。そりゃそうだろ寝てんだから…若干あきれつつ重い体を起こす。月ノの方を見ると不思議そうな顔をして問いかけてきた。

「泣いてるの?」


 to be continued


 あとがき

 2話の投稿が遅れすみませんでした。

 メッチャハンセイシテマス

 主の私事が片付いたため3話はもう少し早く投稿できそうです。(言い訳)

 これからもどうか温かい目で見守ってください。

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