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4 瑠美奈

「オーラに(かげ)りが見えます。首から背中にかけて痛いのではないですか?」

 客が何も言わないうちに、瑠美奈るみなは最初の一撃をかます。

「は・・・はい。そのとおりです・・・。この一週間くらい、重いような痛いような・・・」

 客は驚きと畏敬の表情で、薄紫(パープル)系のゆったりした衣装を着た瑠美奈を見る。


 はい、ここまでは成功。

 こういう格好は、瑠美奈の営業用の衣装である。

 キラキラと輝く宝石が並んだようなネックレスやミサンガといった小道具も、瑠美奈の神秘性を客に印象付ける演出である。

 もちろん、宝石なんかではなく、ただのプラスチックのおもちゃだ。

 しかし、こうした演出は客に信頼感を抱かせ、高額の相談料を取るためには役に立つ。

 だからといって、瑠美奈は別に詐欺商法をやっているわけではない。


 瑠美奈は人のオーラが見える。

 まあ、見える、というよりは、感じる、という程度だが、それでもそれはけっこう視覚的なイメージとして瑠美奈には見えるのだった。

 時おり、邪気のようなものも見える。

 黒い霧のようなもやが膝やら肩やらにまとわりついている、といったイメージだ。


 その特殊能力を利用して、瑠美奈は心霊相談の店を開いている。

 表向きは「占い」や「アロマテラピー」で、実際にカップルなどに簡単な占いをやってあげて小銭も稼いではいるが、身入りの大きい本業は霊媒師とうたっての心霊相談だった。


 このところ繁盛している。

 同業の仲間に聞いても同じだった。

「なんか、向こうとこっちの間に、隙間というか亀裂が入ったみたい。変なモノに取り憑かれる人が増えてるよ? こういう商売やってると、ちょっと怖くもあるね。瑠美奈も気をつけなよ。」

 仲のいい占い師はそんなことを言っていた。


 そこはこういう仕事をする以上、気をつけてはいる。

 瑠美奈は由緒ある寺の住職の一族で、一応の除霊技術や能力も持っており、小さな邪気などは護符で祓うこともできる。

 もっとも、相手にするのは名もしょうもないようなザコ霊だけだ。

 瑠美奈の手に負えないような大物は、さっさと本物の神社やお寺を紹介してそっちに行ってもらう。

 たまたま持っているわずかな才能を活かしているだけで、本格的に修行を積んだりしたわけではないのだ。


 だから、一応借りている部屋には見よう見まねの「結界」が張ってある。

 手に負えないような邪悪なものに入られないように、だ。

 ヤバい客が来たら(それくらいは見ただけでわかるのだ)入口から中に入れず、「私の手には負えませんから」と言って、それなりの神社などを紹介する。

 こういう霊的世界は迂闊に深入りしてはいけないのだ。


 今日きた女性客は、そんな()()()()()()()()()()()()()()・・・のはずだった。

 それが・・・!


 瑠美奈が最初の営業トークの続きを始めようとした途端、その女の肩にまとわりついていた黒いもやが巨大な蟲のようなものの形に実体化したのだ。

 赤い8つの眼を光らせ、ざわざわと無数の足を動かしながら、それは女の肩を下り、こちらに向かってこようとした。


「ひい!」

 瑠美奈が悲鳴をあげたのを見て、女性客が怪訝な表情をする。

 奇妙な角度に首を傾げる。

 そのオーラが真っ黒に変わった!


 な、なぜこんなモノが結界の中に入ってきた?


 巨大なその黒い蟲は女の足を下りて、瑠美奈の方へ向かってくる。

 瑠美奈は避けようとするが、足が動かない。

 懸命に破邪文を唱え、テーブルの上の護符ふだ入れに手を伸ばす。


 届かない!

 もう少しなのに・・・!


 足が床に縫い付けられてしまったかのようだ。

 蟲は瑠美奈の足を這い上り始めた。

 (おぞ)ましい感触に、総毛立つ。

 瑠美奈は転ぶことを覚悟の上で、体を大きく捻った。


 届いた!


「オン!」

 護符を鷲掴みにして大音声(だいおんじょう)で破邪文を唱え、腹まで這い上ってきた蟲に押し付ける!


 蟲は、すうっと消えた。


 全身に冷たい汗が噴き出した。

「か・・・!」

 瑠美奈が睨むような目で女の方を見ると、女のオーラは元に戻っていた。

 弱々しい青いオーラで、肩の部分が欠けている。

 瑠美奈が何をしているのかわからない・・・といった表情だ。

「帰ってください。あ・・・あなたに憑いているモノは私の手には余ります・・・。」

 瑠美奈は自分の声がダミ声になっていることに驚いた。


 女客は驚きと戸惑いの表情で、突っ立っている。

「か・・・帰っって・・・帰れえっ! ここから出ていけぇ———!!」

 女の青いオーラの背後から黒い何かが剥がれるようにして、入り口の外へと飛び出していった。

 それに引っ張られるようにして、女客も入り口から出ていった。

 室内は静かになった。


 なぜ、あんなモノが入ってきた?

 結界の効き目がなくなったのか?


 いや・・・それより・・・

 あれは、本当に消えたのか?

 私の腹の中に入り込んだのでは・・・?


 あちらの世界との間に亀裂だって・・・?


 まずい・・・。

 伯父さんのお寺に行こう。

 説教されるかもしれないけど・・・。それどころじゃない。

 伯父さんに祓ってもらわないと・・・。



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