恋のビビビッ
とある晴れた日の午後。街中にて。
『いい天気だなぁ……あっ』
『いっ』
すれ違おうとした男女。その瞬間、手首に痛みが走り足を止めた。
手首を押さえながら辺りを見渡し、そして二人、目が合う。同じような行動をとっているのだから当然だ。
男が声をかける。
『あ、あの!』
『は、はい……!』
『今、あなたも、その、感じましたよね……?』
『……はいっ』
手首をさすりつつ顔に赤みが差していく男女。これは……そう
『運命……みたいですね』
『……はい!』
運命の恋。電流があなたにそれを気づかせる。
当社が運営するマッチングアプリをインストールした専用の腕時計型端末が、ベストな相手が近づいた瞬間に微弱な電気を流し、恋の始まりを告げる。
あらかじめ設定した、自分が求める水準に達している人としか反応がしない上に当然、相手もそうなのだから、出会った際はなんの不安もなくそして自信をもって会話ができる。
どこか運命の相手と出会ったようなそんなロマンチシズムに酔い、結婚まで一直線。少子化に待ったをかけた会心の一手。政府推奨。
「……と、いうのをわが社で開発したいのですが、いかがでしょうか」
とある会社の会議室。スクリーンの映像を背に、男がそう上司に訊ねた。
「……いいじゃないか。まだまだ焦る時期じゃないという人もとりあえずやってみようか、と食いつくだろう。もちろん、今現在、他のアプリや結婚相談所に通っている人もやらない理由はない。宝くじを買うようなものだ。まあ、電気ショックとは少し物騒だが」
「無論、微弱な電流となっております。まあ、静電気と同等それ以下ですね。これには狙いがありまして、恋した瞬間に体に電気が走る、といった言い回しに倣っているだけではなく、この電気ショックにより心拍数を速め――」
「吊り橋効果ってやつか」
「流石、その通りでございます」
「なるほどな。実にいい。製品名は……街で会ってグッと来るから、街んグッ! 待ちの姿勢と掛けてもいいな、マチマチ……いや、電気が流れるのも生かしたいところだ」
「あの、それは追い追いに……」
「ふふふっ。ま、そうだな。でも、本格始動する前にテスト。その成功例も欲しいところだが……」
「もちろんですとも。モニターを募集したところ応募が殺到しましてその結果が、おーい、入ってきて」
「おお、彼らが、ん? いや、え、どうして君も並ぶんだ? え、まさか」
「はい。我々、マッチングの結果、めでたく恋人同士となりました!」
「おー……じゃない! 全員男じゃないか! ……と、まあそれは一旦いい。このご時勢だしな。だがねぇ、君。先の映像を交えた説明で少子化対策、政府推奨を目指すと言っていたじゃないか。あれは嘘だったのか? 君、自分が出会いたいがために……」
「いえいえ! それは誤解です! ちゃんと女性にもモニターとなってもらいました!」
「え? じゃあなぜこの場に来なかったんだ? 予定が合わなかったのか?」
「いえ、カップリング成立に至らなかったのです。お互い理想が高いのか能力が低いのか、相手にそもそも出会えず、また出会い、ビビビッと来た人もいるようなんですが、どこか冷静と言いますか、どうもロマンチシズムに酔うのは男だけのようで……」