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勝負の行方

「必殺技の次は奥義か。いろいろ技を持ってんだな指子」

「あたりまえよ。私も乳狂の一族なのだから」

 また指子が太極拳のおばさんみたいなゆっくりした動きになった。俺は乳首必中の突きしか知らない。次は何が出て来るというんだ?

 指子は、半身になり、片方の腕を大きく前に伸ばして俺を指さした。

「何だよそれは?異議ありのポーズじゃないのか?」

「奥義、片指指殺かたゆびしさつ

 片指、指殺?聞いたことが無いが不気味な響きだな。中国の暗殺拳か何かか?

 すると指子が前に出した方の腕だけで素振りを始めた。

「なんて速い素振りだ。指子の腕の動きがよく見えない」

 乳首当てのレベルが俺とは全然違う。高校生なのに打撃を使い、技の切れはプロ並みだ。

「これは片方の人差し指だけで相手の両乳首を突く技なのよ中君。普通の乳首当ては自分の両指に意識を集中しなくてはならない。しかしこの技は片方の人差し指一点に集中する研ぎ澄まされた強力な突きなの」

 指子は片指指殺について説明してくれた。

「聞いたことないが流石だな乳狂指子。お前も乳がデカいだけの女子高生では無いという事だ」

「なによそれ?いくわよ。奥義、片指指殺」

「あれ?指子の指が見えない。消えた?」

 次の瞬間

 ドッ、ドムッ

「うぐおおああ」

俺は床に倒れ苦しむ。乳首が、というより息が出来ない。なんなんだこれは?

「凄い音だ。プロボクサーの強烈なワンツーのようだ」寸止次郎が冷静な口調で言った。

 ピンポン、ピンポン

「一本だわ。また次のターンのようね」

「部長大丈夫っすか?」

 磁場流が駆け寄ってくる。俺は手で磁場流を制し、ゆっくり立ち上がる。

「大丈夫だ。強烈な乳首ブローを喰らっただけだ」

 後輩の前で無様な姿を晒したくない。だが俺の足はふらついていた。

「私の奥義を喰らって直ぐ立つなんて、なかなかやるわね中君」

 指子は余裕の笑みを浮かべている。このままでは負けるのは俺の方だ。せっかく普通の部活っぽくなってきたのに廃部になるのは嫌だ。

「俺は、俺はどこかでお前を女として見て躊躇していた。だが今からは倒すべき相手として見る。俺は本気の本気をだす」

「今までは本気じゃなかったの?」呆れ顔で俺を見る指子。

「いや本気だった。だから本気の本気を出すと言ったんだ」

「じゃあ、あなたの本気の本気を見せてよ」

 指子は両手を広げる。かかって来いという事か。

 俺の乳首当て競技への憧れ、夢、好きだという気持ちを全部指子の乳首にぶつけてやる。そうだ、俺の小五はそんな感じだった。

「お前が見たいのはそれなんだろ指子?」

 俺は目を閉じ指子の前に行く。両指に思いを込める。乳首当てへの思いを。

 小刻みな呼吸音が聞こえる。目を開けた時、指子は泣いていた。

「そうよ。その顔よ中君。あなたは小五の時を思い出したんだわ」

 その時指子が勝利に導いてくれている女神のように見えた。

「お、おう。じゃあいくぞ指子」

 俺の体は力が抜け軽やかだった。幸福感に満たされていた。

 指が勝手に動く。絶対に乳首を外すことなど今の俺には考えられない。

 光ってる所を目掛けて思い切り突くんだ。

「いっけけけえええええ」

 俺の両人差し指が指子の胸に思い切りめり込む。

 ドゥムッ

 指子は先程とは違い、ピクリとも動かない。

 ピンポン、ピンポン

「これでまた俺の一本だな」

 すると指子の体がブルブル震えだした。足もブルブル震えている。指子が立ったまま痙攣している。

「おい、どうした?指子大丈夫か?」

 俺は驚いて指子の顔を見る。

「なんだこの顔は?昇天してやがる」

 指子はそのまま動かなくなり、持ち時間が無くなってくる。

「おい寸止、時間はどうなっている?」

 寸止次郎がカウントする。

「50秒・1・2・3」

 指子は時間切れで負けた。

 俺は少しゆすってみたが、指子は反応しない。

 これ以上女子に触れるのは宜しくないと俺達の意見が一致し、その場で解散となった。


 次の日の朝、学校の教室で指子に会うと、指子は怒っていた。

「なんで私だけ部室に置いてみんな帰っちゃうのよ。それで勝負はどうなったのよ?」

「お前は俺の突きを喰らって立ったまま気絶したんだよ。持ち時間切れでお前は負けたんだ。ゆすっても起きないから俺達は先に帰った」

「えーっ?私負けたの?ホントにー?」

 指子の大声が教室に響くと、皆こちらを見た。クラスの女子が何人か指子の前にやって来た。

「イカ子。そんなテンション高いとこ初めて見たよ。どうしたの?」

「え?い、いや私わ別に」

「いつから父首くんと仲良くなったのよイカ子?」

「えっ、いやいや私わー」

 そういえば指子はクラスでは上品な優等生タイプだったな。昨日の試合で化けの皮が剥がれたが。

「父首くん。イカ子と仲良くしてあげてね。彼女、内気でシャイだから」

「嘘つけ」

「え?」

「あ、いや。隣の席だから少し話してただけだよ。指、いやイカ子とは」

「へーそうなんだー」ゴシップ好きそうな女子達は去って行った。

 なんかホッとした感じの俺と指子。

「ねえ、本当に私はあなたに負けたの中君?」

「後輩達に聞いてみろ。お前は立ったまま気絶したから俺達心配したんだぞ」

「立ったまま気絶とか、そんなことが有り得るの?」

 全然納得いかないという顔で俺を見る指子。

「磁場流がお前の立ち気絶姿をスマホで撮ってたから後で見せてもらえ」

「あいつ。私に断りもなく」

 指子は悔しそうな顔をして少し爪を噛んだ。

「どうやって気絶してる奴に許可を取るんだよ?」

「あーあ。わかったわ。なんかスッキリしないけど、約束だから私も乳首当て部に入るわ」

「そうか。入ってくれるか」

 廃部の危機は逃れた。これで俺も一安心だ。

 こうして指子を部員に迎入れた俺達、県立的場高校乳首当て部は全国制覇にまた一歩近づいたのだった。

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