素振りし過ぎ
俺は一週間ぶりに乳首当て部の部室に行くことにする。
部室の扉を開け中に入ると、練習していた二人の後輩達に土下座する。
「部活に来なくてすまなかった後輩達よ。俺は弱気になっていたんだ。どうか許してくれ」
すると新入部員の磁場流が「先輩は体調が悪いので暫く部活を休むと、赤眼鏡の先輩が言ってたっす」
「え?それはいつの話なんだ?」
「えっと、5日前っす」
そんなに前?指子は俺が部室に来なくなくなるのがわかっていたのか。
「全国制覇目指して頑張りましょう。俺も家族に自慢したいっす」
「そうか。お前は磁場流の一族だもんな」
「でも先輩、入部希望者はあれから誰も来てません。部員が4人いなければこの部は廃部になるんじゃないんですか?」
寸止次郎が言った。
「そうだ。そうなんだけど、実はもう一人部員が入りそうなんだ」
俺は明日の指子との勝負について後輩たちに話した。
「ええ?女子と乳首当てするんですか?凄いっすね先輩」
磁場流は俺を羨んでる感じで言う。
「ただの女子じゃないぞ。あの乳狂治の娘だ」
「ええー?マジですか?」
流石のリアクションだな。乳首当て競技をしている者が、乳狂の名を知らぬわけがない。
「でも女子の乳首当ては男子より全然難易度が高いと聞きますよ先輩。本当に勝てるんですか?」
「わからん。でもあいつは俺に煌めきが残っていれば勝てると言っていた」
「煌めき?」
「とにかく俺は練習しようと思う。悔しいがお前達の方が俺より実力が上だ。俺の駄目な所を指摘してくれ」
俺は後輩達の前で、乳首当ての素振りをしてみせた。じっと俺を見ていた寸止次郎が俺に向かって指摘し出した。
「先輩は素振りし過ぎなんです。型にはまり過ぎているんですよ。本来の乳首当てはもっと自由なはずです。もっと気楽にやってみたらどうですか?」
俺の素振りを見ただけでそこまでわかるのか?なんて優秀な後輩なんだ。
そうだった。小五の時の俺は、わけもわからず興奮して誰彼構わずに勝負を挑んだ。俺の好きなように乳首を当てた。そして英才教育を受けていた指子に勝ってしまっていた。
自由でいいんだろうか?
「お前は乳首当ての経験者なのか寸止?」
「いえ。俺は競技の大ファンですが、ほとんど経験がありません。家族ぐるみでお付き合いしている近所の人が乳首当て競技のプロ選手なんです。その人の所に遊びに行って教わっていた事は少しあります」
「なるほど、プロの手ほどきを受けた事があるんだな?それで磁場流はどうなんだ?」
「俺は兄弟と少し試合のようなことをしただけで、ほとんど素人みたいな感じです」
「俺と同じような感じなんだな。じゃあ対戦してくれないか磁場流?先攻はお前でいいぞ」
「わかりました。行きますよ先輩」
俺達は近い距離で向き合って立つ。
磁場流は両人差し指をメトロノームの様に左右に動かす。磁場の流れで俺の乳首を探っているのだろう。流石は磁場流一族だ。指をダウジング棒のように動かして俺の乳首の所で止まる。
「先輩の乳首はここー」磁場流の突いた両人差し指が俺の乳首に当たる。
「惜しいな。今のは技ありだ。片方の指が乳首の中心から少しだけずれていた」
「悔しいっす。俺もまだまだっす」
「じゃあ俺の後攻だな。行くぞ磁場流」
「はい」
俺は目をつむり頭の中を空っぽにして、乳首の事だけを考える。
体の力を抜いて、手をブルブルと振る。
そうだ自由こそ乳首当てなんだ。
「先輩、この前とは何か感じが違いますね」
俺は磁場流の乳首をイメージする。乳狂治は試合の時、相手の服が透けて乳首が見えると言っていた。俺もその域に達したい。
磁場流の乳首が微かに光った様な気がした。
俺は眼を見開く。
「ここだあああああ!」
指で両乳首を突く。
「うわっ。先輩ど真ん中っす。一本で間違いないっす」
掌を俺の方に軽く揚げ、かわいい驚き方をする磁場流。
「今の先輩の突きはまるでブレが無かったですよ」
寸止は俺の突きをしっかり見てくれている。
感動してちょっと目が潤む俺。ここに帰って来て良かった。ありがとう後輩達。
何か希望が見えてきた。俺たちの全国制覇が近づいた気がする。
しかし直ぐに集中力が切れた俺は、次の勝負から後輩たちに負けていった。
「明日、指子に負けたらこの部は終わりなのに大丈夫かなあ俺?」
「先輩は気分屋さんなんですよ。最初のような勢いがあれば、きっと勝てると思いますよ」
「そう?俺頑張るよ」
そして部活終了時刻になり俺達は解散した。
俺は自宅に帰り、風呂につかりながら素振りをしていた。
いかん。気が付けば俺は素振りばかりしている。型にはまり過ぎてると後輩に言われたばかりではないか。
もっと小五の時のように自由にやるんだ。
それにしても明日の試合で指子はどんな感じの服装をしてくるんだろうか?女子に服の事をあれこれ聞くのも気が引けるな。特に胸を覆うあれの事は。
俺は乳狂治の娘の指子に全然勝てる気がしなかった。
「でも新入生も入ったんだし、これで乳首当て部を終わりにしたくないよなあ」