5話 復讐
誤字脱字報告ありがとうございます。
とりあえず復讐です。
美優からの電話にすぐ応えるか、少し間を置くか悩み出した末、先に声を発する匠真だった。
「もしもし?」
「たくちゃん! もしもし!? なにしてたの? ずっと電話しても出ないし、わたしずっと心配してんだよ? ねぇ、聞いてる?」
「・・・・」
止まらない美優の言葉にこの女はなにを思って、こんなことを言っているのだろうかと匠真は黙り込んで聞くだけだ。
「もしもし? たくちゃん、聞こえてるの? おーい!」
「・・・・あぁ、聞いてるよ。なぁ、今日のミーティングどうだった?」
「ぅえ? ミーティング? あっ・・うん、ミーティング順調だよ。大会までのメニュー決まったし・・うん」
「そう・・他には・・なかった? 変わったこと・・・・」
「ほ・・他に?」
「そう、他にだよ?」
「別になにもないよ? どうしたのたくちゃん急に? そうだ、一つあった! 思い出したよ、たくちゃん」
「なになに?」
ここで美優が慎吾との浮気を自白してくれたらなと、あるはずもない変な期待をしながら彼女だった女の言葉を待つ。
「あのね、メッセージにも送ったんだけど、田尻町に新しく出来たショッピングモールに行きたい!」
「田尻のショッピングモール? あぁ、カコンタウンね? もちろん良いよ」
まるで何かを上書きするかのように会話の主導権を握り続ける美優は、匠真との通話を終わらせて布団にスマホを置きベッドに寝転び呟く。
「・・うん、いつもとおんなじ・・いつも通りのわたしだった」
慎吾と保健室での情事の余韻に浸っていたところで、廊下から近付く足音に慌てて窓から逃げた美優は匠真の声を聞いて何も気付かれてないと確信し、眠りについた。
匠真は一方的に喋り続ける美優との電話の反応が無機質になり、日曜日のデート話を他人事のような感覚で聞き流し終えていた。
「・・よし、日曜は普段通りに遊んで月曜に別れることにしよう」
そう呟く匠真はデートプランから美優と別れる方法を考えることを優先し、土曜のバイトを適当に終わらせて日曜日の朝を迎えた。
「・・・・もしもし、慎吾?」
「・・たく? 休みの朝早くからなんだよ?」
匠真は美優の家へと行く前に朝早く家を出て、元親友の家を離れた場所から眺めながら慎吾のスマホに朝6時に電話をしていた。
「へへっ・・起こしたついでにさ、今から会えないか? ん〜場所は第二公園でどうだ?」
「・・・・いつものあの公園か? はぁ・・幼馴染のたくの頼みなら仕方ねーな。ジュース一本で行ってやるから」
「サンキュー慎吾! さすが幼馴染は朝からの無茶振りに応えてくれるよな」
「缶じゃなくてペットだぞ?」
「わかってるって慎吾。今からとは流石に言わないから、8時に第二公園な?」
「わかったって」
「二度寝したら、お前の部屋に突撃するからな?」
「なっ! しねーよ二度寝なんて!」
取り乱している様子の慎吾は本当に慌てているのか、寝起きのくせにバタバタ物音を立てて慌ただしい音が聞こえるのを気にしない匠真は大きめの声で告げる。
「もちろん、信じてるぞ親友!!」
「・・お、おぅ・・・・・・それじゃ、一旦切るぞ?」
「あぁ、待ってるかな親友! ちゃんと来いよ!」
慎吾との通話を終わらせた匠真は、もしかしてと思い元親友の家を眺めていると、母親以外に女性が存在しない家から慌てて出て行く少女の姿を目撃した。
「美優・・デートの日に男の家から朝帰りかよ・・・・」
自分の家に帰るのだろう美優の姿が小さくなって行く光景を見送る匠真は、微塵も乱れない感情に対して口元が緩んでいることを気付かないまま、慎吾との待ち合わせ場所にした公園へと向かった。
誰もいない第二公園にあるベンチに座り、途中のコンビニで買った朝飯のパンを食べながらのんびり過ごして、左腕につけた時計が07:55を表示した頃に、公園入り口から乗っていた自転車を降りずに慎吾が来る姿を見た。
「おはよ、慎吾。自転車に乗ったまま公園を走るのダメなんだぞ?」
「おっす。たく、知ってるけど誰もいないからセーフだろ?」
「まぁ、ソレはセーフかもな?」
「ソレ? よくわかんねーけど・・んで、俺を突然呼び出した理由はなんだよ? 部活で何かあったか?」
慎吾は自転車のスタンドを出して置くと、匠真が座るベンチに並んで座り、公園を眺め匠真の横顔すら見ない。
「慎吾はさ・・俺と違って昔から女子にモテたよな?」
「・・なんだよ急に・・自慢する訳じゃないけど、高校に入ってからも何回か告白されたことあるから自覚はしているな」
「だよな・・それで、いつから始まった?」
匠真はあえて、あやふやに聞く。美優との関係はいつからだと。聞かれた慎吾は、話の流れのままモテ始めた時期を告げた。
「・・中2から」
「そんな前から?」
「まぁ、高校からだけど・・セフレいるんだよな、俺って」
「セフレ!?」
慎吾からの意外な告白に匠真は思わず声を上げた。
「声デカいって・・」
「す、すまん・・現実にいたんだなセフレ持ちの男が・・・・誰だよちなみに?」
「い、言える訳ないだろ?」
「ちぇっ・・」
「もう良いだろ? それより、俺を呼び出したのはなんでだ?」
「そう言えば、まだ言ってなかったな・・・・」
匠真はそう言いながら座っていたベンチから立ち上がり、座ったままの慎吾の正面に立ち笑顔で見つめる。
「・・・・なに? その笑顔??』
「あのさ、慎吾・・昨日の放課後、学校で美優を見かけなかったか?」
「美優ちゃんを? 見てないなー」
「そうか・・学校以外でもか?」
「・・あ、あたりまえだろ?」
「なんだ・・さんきゅー慎吾・・・・って、今朝お前の家から、美優が出たの見てんだよ!!」
「んがっ!」
匠真はベンチに座る慎吾の喉仏下の窪みに指先を合わせ、全力で叩き込むように殴った。
笑顔を向けていた幼馴染の匠真が自分を殴ると微塵も思ってもいなかった慎吾は身構えることなく、衝撃と共に呼吸ができず、ベンチの背もたれに背中を押しつけられた反動で青空を見上げるように頭が後ろに下がる。
「お前は!」
「ぐふっ」
抗えることなく慎吾は匠真に顔を殴られ続け、意識が朦朧としていると腹に激痛が走り、一気に意識が覚醒する。
「いだ! や、やめろたく! もうやめてくれ!」
「やめねーよ! 美優に手を出しやがって!」
「そ、それは・・・・」
感情的な匠真の姿をなんとか開ける左目で見た慎吾は、美優との隠していた関係がバレたんだなと察して鉄の味がする口を動かし、煽った。
「んぐっ・・はぁっ・・はぁ・・美優はセフレ・・お前が物足りないってさ・・だから俺ぐぁ・・・・」
慎吾は最後まで言葉を発することができず、僅かな視界を覆う自転車が飛んでくるのを最後に世界が暗転した。
「はぁ・・はぁ・・」
最後の仕上げに自転車を投げつける直前に見せた慎吾の顔に苛立った匠真は、ピクリとも反応しない慎吾の将来を壊すかのように、彼が大事にしている利き腕の右腕の肘関節を固定し、全体重を一気に乗せ鈍い音を鳴らした。
「はぁ・・はぁ・・ここでしばらく寝てろ」
もう意識の無い慎吾に乗っていた自転車を退かし、ポケットからスマホを取り出して顔認証でロックを解除してから美優との関係を調べると、何も知らない自分を揶揄うやりとりや互いの家に誘うメッセージが残っていた。
もちろん最近のメッセージには、部活を途中で抜けて保健室で待ち合わせる内容もあった。
「・・高1の夏に俺が告白して付き合ってるのに、その夏休みの終わりからコイツと美優は繋がってたのかよ」
登下校は彼氏の匠真と一緒に居た美優だったが、バイトや普段会わない日をほとんど慎吾と過ごしていたことが判明してしまった。
「これじゃ、俺が間男ってやつじゃねーかよ」
デートは匠真が良いけど身体の相性は慎吾の方が良いとか過激なメッセージを残していることに、言い訳が出来ないほどの2人の関係性は明らかだった。
「・・もう野球ができないようにしてやろうか?」
「・・・・」
反応が無い慎吾を見下ろす匠真だったが、無抵抗な相手をこれ以上傷付ける必要が無いと思い、荒れていた感情を落ち着かせるかのように長いため息を吐いた。
「クソッ・・スッキリしねーな、まだ・・・・」
立ち尽くす匠真はしばらくしてスマホのアラームが鳴り、美優との約束の時間である9時まで残り20分だと確認し、ここからだと走らないと間に合わないと知りつつ、歩いて彼女の家へと向かったのだった・・・・。




