4話 告白
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「・・失礼します。教室の鍵を返しに来ました」
借りに来た時とは全く違う真面目な口調で職員室に入室する匠真に、再び対応する新垣は特に気にすることなく背を向けたまま返事をして残務を続ける。
パソコンのモニターを見つめながらキーボードを操作する新垣は、ふと背後に気配を感じる振り向くと匠真が立っていたことに驚く。
「・・おぅ、どうした綾瀬?」
「・・先生。さっき保健室の前を通ったら、変な声が聞こえました」
「はぁ? 気のせいじゃないのか?」
「いえ、聞こえたんです・・絶対に」
「心霊現象なんて、どこの学校でも一つや二つはあるぞ?」
「そうじゃなくて・・たぶん不純異性行為です。保健室のベットを使って・・」
「なに!? 本気か?」
「男に逆上されて殴られるのが怖くて、声しか聞いてません。だから、先生が見に行ってくれませんか?」
「・・わ、わかった。ちょっと待ってろ」
新垣はパソコンをスリープ状態にしてから立ち上がり、鍵ボックスへと向かう。
「・・安藤先生! 私と一緒に保健室へ来てください!」
「へ? 今からですか? わ、わかりました新垣先生」
偶然にも生徒指導を務める安藤がいたため、新垣は鍵ボックスに保健室の鍵が無いため匠真に主張を信じて安藤と2人で保健室へと向かった。
そんな教師2人の背中を見送った匠真はあの2人が見つかるか逃げるかの結果に興味は無く、そのまま職員室を出て家へと帰ったのだった。
「ただいま〜」
「おかえり、おにぃ・・?」
「玲香、ただいま・・どした?」
玄関ドアを開けると偶然廊下にいた妹の玲香が何かを察したのか、心配そうな表情で匠真に近づき見上げる。
「・・おにぃ、美優ちゃんとケンカでもしたの?」
「・・そっか・・ねぇ、金曜の夜ご飯は外で食べるからおにぃも支度してね?」
「そうだった・・」
匠真は急いで部屋に戻りザッとシャワーを浴びて着替えてから、父親が運転するミニバンの2列目に座ると遅れて妹の玲香が乗り込み密着するように座り、母親が助手席に乗ると出発した。
「・・玲香?」
ずっと玲香の視線を感じていた匠真は、気付かないフリを続けることができず名前を呼ぶ。
「おにぃ、美優ちゃんとホントはなんかあったでしょ?」
玲香は栗色の瞳で匠真を見つめ返事を待つ。
「・・美優とケンカはしてないよ」
「ホントに? なら、どうしてもいつもと違うおにぃなの?」
「・・・・美優が慎吾と浮気してた・・・・いや、慎吾に美優を寝取られたかな?」
車内で息子が爆弾発言したことに父親の優希は減速のため踏んでいたブレーキペダルを思わず強く踏んで車体の挙動を乱し、身体を前に倒した母親の未那は反動で背もたれに身体を戻しながら、目を見開きつつ振り返り匠真を見る。
「・・おにぃ、可哀想。あの女は、玲香が消してあげる」
「消したら犯罪だよ? 玲香が捕まって会えなくなるのは、寂しいな」
「ダイジョウブ。完全犯罪なら犯罪じゃないって、アニメで言ってた」
「うん。アニメはアニメの世界だからな? お兄ちゃんは、玲香と離れ離れになりたくないから何もしなくていいぞ?」
「うん、わかったよ〜おにぃ」
猫が甘えるように匠真の胸元に頬擦りする玲香の頭を撫でていると、黙って聞いていた母親の未那が口を開く。
「匠真、あの美優ちゃんが本当に裏切ったの?」
「そうだよ。決定的な証拠は持ってないけど、その場に居たから・・詳しくはまだ話せない」
「そう・・お母さんは匠真を信じるわ。優希さん、匠真の話を聞いて私が今考えていること理解してるかしら?」
「あっあぁ・・もちろんだよ未那。とりあえず、今は家族で飯を食べる時間だから・・・・な?」
「わかっています・・・・」
夫の優希を名前呼びする妻が職場モードになったことで、優希は部下である匠真の彼女の父親の処遇をなんとかしろと訴えていることを理解した。
「・・まさか、美優ちゃんが匠真を裏切るなんてな」
ルームミラー越しの息子の匠真の表情だけを見てもわからない優希は、ブラコン娘の玲香にどうしたら兄離れするかと悩みつつ、目指していたファミレスへと辿り着く。
賑やかなファミレスでは美優のことを忘れて家族団欒の時間を過ごした匠真は、家に帰って自分の部屋のベットに放置していたスマホを手に寝転びながら画面を見る。
「・・美優からの着信とメッセージが半端ねぇな」
留守電契約していないため不在着信件数が40件で、未読メッセージは20件と表示されており、内容は今夜話したいとか、土曜日は部活休んで会いたいと送られていて、最後のメッセージには日曜のデートを楽しみにしていると送っていた。
「なんか、ストーカーみたいだなコレ・・・・」
メッセージを読み終えたことで既読になったのを知った美優は待っていたのか、美優からの着信を表示させつつバイブが作動し、スマホがリズム良く震える。
このまま無視して終わらせようかと考えた匠真だったが、悪くない自分が逃げているような気がして美優と話をする決心をし、応答をタップし耳にスマホを当てたのだった・・・・。