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転生賢者の麗らか貴族生活〜余生のつもりが過保護な家族に溺愛されて長生き待ったなしのようです〜  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)
サルビア家の夏の日々

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第65話 Let’s study together!

 賢者がシアン・サルビアとして目覚めて二ヶ月以上が経過したが、いまだ毎日が新たな発見で満ちている。今朝の発見は、サルビア侯爵邸には屋根裏部屋があるらしいということだ。ただの屋根裏部屋ではなく、かつて政略結婚で嫁いで来た女性が、女癖の悪さで領主の座を下された夫を恨んで地縛霊化して棲み付いているのを封印しているとのことだ。情報源がブルーであるため、真偽のほどは不明だ。だが、賢者は“かつて”を好ましく思っているため、賢者にとっては面白い話だった。

 そんな不確かな噂話でひと頻り盛り上がったあと、そうだ、とセレストが口を開いた。

「シアン。クロム殿下から魔法の訓練のお申し出が来ているわ。予定では明日だけど、どう?」

「僕でよければ、いくらでも」

 シアンの快諾に、セレストは優しく微笑む。あとに続いたのはゼニスだった。

「マダム・カナリーから制服の試作品が届いている。それを試すのにちょうどいいかもな」

「オペラモーヴ家はいまは休暇なんじゃないですか?」

「厳密に日程が決まっているわけではないから、休暇に入る前に仕上げておきたかったんだろう。あとで袖を通してみるといい」

「はい。楽しみです」

 マダム・カナリーが作るシアンの制服は、身体値も能力値もすべてシアンに合わせている。完全なオーダーメイドで、シアンの能力値を補い、さらに伸ばす仕様になっているはずだ。シアンが成長するたびに作り直す必要はあるが、シアンは特別な服のように感じていた。

「ねえ、シアン。今日は自習だし、一緒に勉強しない?」

 ブルーが上機嫌な様子で言う。オペラモーヴ家が休暇に入ったため、シアンは自習になる。ブルーには専属の家庭教師がいるが、ちょうど彼女も私用で休暇を取ったらしい。ブルーも自習となるため、同じ場所でともに勉強をすることに問題はないだろう。

「そうだね。せっかくだし一緒に勉強しようか」

「うん!」

 ふたりとも自習であるため、同じ箇所の勉強をすることはない。滅多にない機会だろう。それでブルーがやる気を出すなら良い効果だ、とシアンは考えていた。



   *  *  *



 朝食を終えると、シアンの勉強部屋にブルーも勉強道具を運んで来る。ふたりの勉強を見るのはスマルトで、アズールとネイビーの「自分が」はもちろん、聞き入れられることはなかった。

 ブルーは最初のうち、シアンと勉強の時間をともにすることで落ち着かない様子だったが、スマルトが教本をもとに授業を始めると、次第に持ち前の集中力を発揮し始めた。シアンはブルーの隣で魔法学の参考書を開く。休暇に入る前にカージナルが用意しておいてくれた論文も、どれも興味深かった。

 現在の魔法学は、人間の魔力から分析を進めたもので、マナを解析することができれば格段に進歩すると言われている。しかし、人間がマナを解析することは不可能とまで言われているため、それが可能になれば魔法学はほぼ完結するのかもしれない。

 そうしてそれぞれが集中してしばらく、マゼンタが持って来たレモネードで休憩時間が設けられた。スマルトにはコーヒーが用意され、ちょっとしたお茶会のようだった。

「そういえば」ブルーが口を開く。「スマルト兄様はシアンに付き添って仕事してないときがあるけど、仕事が溜まってしまったりしないの?」

「俺がシアンに付き添うのは元々だから、仕事量は調整している。だからアズールかネイビーが代わるのは手間がかかるんだ」

「へえ……。じゃあ、アズール兄様とネイビー姉様は、初めから諦めるしかなかったのね」

「そうだな」

 シアンは心の中で、自分もいるから実質、二倍の仕事量をこなせる、と考える。単純な仕事量で言えば、アズールに分けられる仕事量と同じだけこなそうと思ったとき、シアンとスマルトで分配することで半分の時間で片付けることが可能となる。単純計算で、午前中をシアンの勉強で費やしても、午後の時間で同じだけこなすことができる。それも、多くの経験値を持ち合わせるシアンだから可能であるのだ。

「あたし、早く大人になりたいと思ってるけど、シアンと一緒に勉強できるのは子どもで得したわ」

「大人になったら別々になるだろうしな」

「あたしが仕事を始めるときに、シアンと一緒に仕事できるように調整するからいいの!」

 ブルーが得意げに笑って言うと、スマルトは少し呆れたように目を細めた。

「お前が大人になる頃には、シアンは父様の補佐として事務所で働いている。俺たちも事務所で働くことになるが、おそらくシアンとは別々になるぞ」

「現実的なこと言わないで!」

 唇を尖らせるブルーに、スマルトは肩をすくめる。シアンとともに仕事をする機会はそう多くないということは、ブルーもすでにわかっていることだ。大人になれば環境が変わる。とは言え、現時点ではシアンもブルーもなんの仕事をするのかは知らない。そのときになってみないとわからないこともあるだろう。

 マゼンタがグラスとカップを片付けると、勉強会が再開された。シアンは経営学の参考書を開く。事業で何かしらの経営を任されたとしても応えることができるようにしなければならない。勉強は早いうちから始めるに越したことはない。

 ブルーは数学の勉強を始めたが、どうやら苦手のようだった。明らかに滞るようになり、もどかしそうな表情をしている。だが、数学に関する基礎は将来的に必要になるはずだ。苦手だからと避けることはできないだろう。

 コンコンコン、と軽快に鳴るノックで三人は顔を上げる。どうぞ、とシアンが応えると、顔を出したのはネイビーだった。

「スマルト兄様、ちょっといい?」

「ああ」

 すぐ戻る、とふたりに声をかけ、スマルトはネイビーとともに部屋を出て行く。集中力が切れた様子のブルーが、ひとつ憂鬱そうに息をついた。

「どこかわからないところがあるの?」

 シアンがそう問いかけると、ここ、とブルーは遠慮がちに教本を指差す。

「この数式がよくわからないの」

「ああ、これは……」

 シアンはノートに数式を書き込み、何をどうすれば完結するのかを説明した。シアンの解説でようやく飲み込めたようで、ブルーは安心したように微笑む。

「シアンの説明はわかりやすいわ。カージナルは時々、何を言ってるかよくわからないときがあるの」

「わからないときは、わからないって正直に言っていいんだよ。カージナルさんはそんなことで怒るような人ではないから」

「そうかしら……」

「わからないままにするより、わかるまで何度でも説明してもらうといいよ」

「呆れられたりしないかしら」

「カージナルさんはそんな人じゃないよ。むしろ、わからないままにされるほうがよくない。しっかり理解していないと、後々困ることになるから」

 ブルーは不安そうな表情をしている。自分の成績がさほど良くないことは自覚しており、教えてもらっているのに理解できないという点で引っかかっているのだろう。

「嫌になったりしないかしら」

「カージナルさんに限ってそんなことはないよ。僕たちの能力が伸びることに喜びを感じているんだから、途中で投げ出すなんてあり得ないよ」

「うーん……」

「遠慮する必要はないよ。能力を存分に伸ばすためには、理解度が必要になるんだから。それに、わからないところは素直にわからないって言ったほうが、カージナルさんも喜ぶんじゃないかな」

「……そうね。次からそうしてみるわ」

 ブルーは勉強の成績は良いとは言えないが、所謂(いわゆる)“地頭”は他の五歳児よりかなり賢い。それだけの教育を受けて来たためであるが、それにより不安に思うことがあるのだろう。五歳児にしては賢すぎるのかもしれない。

 ネイビーとの話し合いを終えたスマルトが椅子に戻ると、ブルーはさっそく教本の一部を指差して言った。

「スマルト兄様。ここをもう一度、説明してほしいんだけど……」

「ああ、わかった」

 スマルトがあっさり頷くので、ブルーはようやくシアンの言葉を信用し、安堵したようだった。

 それから、ブルーが安心して質問をできるようになり、勉強はさらに捗っていた。この調子でいけばきっとブルーの成績は伸びる。そんなことを考えながら、シアンは自分もペンを進めた。

『懐かしいですね〜。私も弟子時代、賢者様に何度も説明してもらいましたね』

(そうじゃな。よく質問する弟子じゃったよ)

『賢者様は何度、同じ質問をしても怒らず根気強く説明してくれましたね』

(わからないということは、わしの説明が伝わらなかったということじゃ。だと言うのに叱るなど棚上げもよいところじゃからのう)

『じゃあ、学校の試験で点数が低いのは、教師の教え方がよくないってことですか?』

(それもひとつの要因じゃろうな。わからないのなら、わかる人間が何度でも説明しないとのう。より深く理解するためには、それが大事なことじゃ)

『理解されないと意味がないですもんね』

(そうじゃな。これでブルーの成績も上がるじゃろうの)

『ブルーの成績が上がれば、カージナルさんもよりやる気になるはず……。相乗効果ですね』

(その言葉が随分と気に入ったようじゃな)

『頭が良さそうに聞こえますから』

(そうかのう……?)

 それから、マゼンタが昼食に呼びに来るまでブルーの集中力は続いた。いつもより捗っていた様子で、ブルーは満足げな表情をしている。

「いつもよりわかった気がするわ」

「そうだな。勉強は根気強く続けていれば身につくはずだ。カージナルは根気の塊のような人間だから、あとはお前次第だ」

「僕と一緒に王立魔道学院に通うという明確な目標もあるしね」

「そうね。それだけは譲れないわ」

「だとしたら成績に差がありすぎる。もっと勉強しろ」

「わかってるわよ!」

 ブルーがその言葉で落ち込むような少女であれば、スマルトももっと言葉を選んだだろう。ブルーが闘争心を燃やす性質であると理解しているからこそ、そういった言葉が効果的になるのだ。そうしてブルーはさらに伸びる。

(将来有望じゃ)

『五歳児にして絶対に私より賢い……』

(それは否定できんのう)

『そんなあ〜!』








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