6 そしてオマケの爺様たち
それから、あんまり関係ないけど、しょっちゅうウチに遊びに来る四人の爺様たち。
お爺ちゃんの友達で、警察庁長官。
名前は御門保通。六二歳。「ヤっさん」って呼ばれてる。
なんでもお爺ちゃんとは昔からの悪友らしく、若かりし頃は結構な頻度で女湯を覗いていたらしい女の敵。
そんなヤツが警察庁長官をやってて良いのかとか思うのは、きっと私だけではない筈。
でも有能なのは間違いないようで、更に清廉潔白と評判らしい。お爺ちゃんから昔の話を聞いているこっちとしては、どのツラ下げて「清廉潔白」なのかと激しく異を唱えたところだけれど。
あ、お爺ちゃんの名誉のために言っておくけど、お爺ちゃんは覗きに加担はしていないそうだ。
なんでもヤっさんがそれにハマって足繁く風呂屋に通っていた頃、既にお婆ちゃんとラブラブだったらしい。
そんな変態な爺さまなんだけど仕事は出来るし人を見る目は確かなようで、お姉ちゃんの有能さにいち早く気付いて秘書になって貰おうと画策しているみたいだけど、その思惑はことごとく潰されている。
あと実はまだ独身で、「秘書がダメなら嫁に来てくれ」とか、ちょっとなに言ってるか判らないことを口走ったりしていた。
職業はさっき言った通りに警察庁長官なんだけど、どうやら祖先は陰陽道で有名な土御門家の傍系らしく、本人も陰陽道の呪術師なんだって。
警察で陰陽師とか、設定盛り過ぎと思うのは私だけではないだろう。
お母さんのファンで現職の市長さん。
名前は郭景純。五八歳。「カクさん」って呼ばれてる。
越後の縮緬問屋、越後屋の隠居のお付きみたいだからって、本人はあんまり気に入っていないようだけど、いや苗字そのままだから真っ当だよね。
さっきも言った通り現職の市長さんでお母さんのファンなんだけど、お母さんに罵られるのが大好きなドMさん。
性癖はともかく凄く優しい人で、霊媒体質な私の相談に乗ってくれていた、実はとっても良い人。
そればかりじゃなくて、そんな体質な方々向けに色々な対処方法を教えてくれたり、それをするための諸々なアイテムの作り方とかをも教えてくれてた。
そこだけ切り取って聞くと怪しげな壺とかを売りつけるなにかの団体みたいだけど、そんなことは一切なくて、どちらかというといかにコストを抑えて有効な道具を作るのに尽力するタイプなんだよね。
そんなんだから、市民の人気は結構高い。ドMさんなのに。
なんでそんなことが出来るかというと、なんでも代々地脈や龍脈などの知識と技術を継承していて、それを読み取る奇門風水師の家系なんだとか。
実はカクさんも独身で、地脈や龍脈は読めても自分の婚期は読めなかったと自虐していた。
まぁいうて、結婚とかそういうものに執着はしていなさそうだけど。
お爺ちゃんと古くからの仕事仲間。
名前は豅昊閲。六六歳。呼称はそのまま「ナガタニさん」で、本人は味一筋な食品メーカーみたいだってあんまり好きじゃないみたい。
言った通り、お爺ちゃんの昔馴染みで仕事仲間なんだけど、公的な職業は住職な弁護士さん。
そう、さっきから言っている日弁連の会長。
そして上の弟のリュウくんの師匠で、リュウくんが言うには、
「仏の顔をしたドS体育会系現場監督」
なんだって。
うん、意味が判らない。
弁護士さんなんだけど住職でもある多芸な人だけど、全くそれっぽく見えない。
服装が年がら年中作務衣で頭にタオル巻いてるし、ウチに来ると即行で一升瓶抱えて湯呑みに手酌で呑み始めて、結局誰よりも長く呑み続けている。
ちなみにそれに最後まで付き合っているのは、アスターくんだったり。
酒を呑む犬は珍しいけれど、それよりなによりその犬が酒豪なのには驚きを禁じ得ない。
話だけ聞いてるとただの酒好き呑兵衛な爺さまとしか思えないけれど、弁護士としての実力も相当で、更に卓越した法力僧みたい。
僧階は権中僧正で、教導は大阿闍梨らしい。よく判らないけど。
教導を名乗っているだけに法力僧を育てる立場にあるらしく、だけど修行が厳しいからか弟子はリュウくん以外誰もいないみたい。
だからといってそれを嘆くとかそういうことはなく、むしろやる気だったり根性だったり素養のない輩に関わらなくてよくて清々しているそうな。
ナガタニさんは結婚しているけど奥さんは外資系の会社経営者で、もう十年くらい前から海外にいるから別居中なんだって。確かEUの何処かって言っていたけれど、ぶっちゃけどーでもいいから誰も覚えていない。
しかも世界が異世界と統合される前からだから、海外渡航が難しくなっちゃった現在では、簡単に逢うことも叶わなくなったんだって。
でもそれで夫婦仲が悪くなるわけでもなく、むしろ逢えない時間が愛を育むとか、何処かで聞いたようなことを言いつつ一升瓶片手にビデオ通話するのが日課だそうな。
あ、異世界と統合された現代では衛星回線が標準装備で、最近では異世界大陸から混入して来る魔力を利用した魔動回線が主流になりつつある。
ただしこれは地球の大陸のみでの技術であって、異世界大陸ではまだ交通インフラだったり通信インフラの整備が進んでいない――というか受け入れられていないため、それの適応外ではある。
その中でも竜王国ラーヴァだけは例外で、日本の鉄道技術やら通信技術を積極的に取り入れているんだよね。
国王が鉄男になっちゃってるし、国中で日本のサブカルが大流行しているから必要に迫られたからだそうな。
話が逸れちゃったから戻すとして、ナガタニさんの奥さんは現在三四歳で、スタイル抜群の巨乳美人らしい。元々はナガタニさんの弟子で、結構な実力者なんだとか。
つまり、このじいさんは弟子に手を出したとんでもジジイなんだよね。
とある切っ掛けで来るようになった爺さん。
名前は舩坂絃次郎。七一歳。「フネさん」って呼ばれてるけれど、決して登場人物が海産物に関わる名称なナニかではない。
この爺さんは私たちが住むド田舎の名士。
なんでそんな人が遊びに来るのかというと、この爺さんの遠縁の孫がやらかした事件を切っ掛けに、チョイチョイ遊びに来るようになったんだ。
その事件っていうのは、簡単に言えば上の弟のリュウくんが高校生のときの話し。
バイク通学をしていたリュウくんが生意気だーって因縁をつけて来た奴らがいて、当然リュウくんは相手にしなかったんだけど、そうしたらそうしたでお約束のように更に絡んで来たんだよね。
途中経過は言うだけ無駄だから端折るとして、結果的にリュウくんのバイクは壊されちゃったんだけど、それで泣き寝入りするわけもなく、ヤっさんやナガタニさんに正式に依頼して刑事的に法的に訴えて、そのお莫迦さんたちを徹底的に叩き潰したんだ。
で、そのお莫迦さんの一人がフネさんの遠縁の孫だったというわけ。
最初は遠縁とはいえ可愛い孫に泣きつかれてなんとか揉み消そうとしたようだけど、事情を聞いたら烈火のように激怒してその孫を物理的に吊し上げて謝罪に来たんだ。
なんでもこの爺さん、自衛官から公安機動捜査隊に転職した異色の経歴の持ち主なんだよね。だからなのか、そういう犯罪紛いが許せないらしい。
ただ学歴がないからずっとヒラだった~って自分で言ってたけど、ただのヒラが公安機動捜査隊になんかなれないと思う。
オマケにただの自衛官じゃなくて、空挺レンジャーと特殊作戦群徽章持ち。
どの辺がヒラなのか、詳細な説明が欲しいところだよ。
ああでも、自衛官を辞めた理由が「高所が嫌いだから」とかだから、確かにエリートにはなれないかな。
そんな経歴持ちだから銃火器の扱いに一日の長があり、こんな世界になっちゃって情勢が不安定になったし元そういう職業人であったためか、銃火器所持の許可証を持っている。
しかも最近ではマッドな科学者になっちゃっているお姉ちゃんと一緒に、いつの間にか出来ていた地下研究室で色々な銃やその他の何かを作っているんだって。
その「色々」の中には竜鱗となにかの合金製パワードスーツらしき物まであるらしいけど、あくまで「らしい」だから確定情報ではない。というか私はなにも見ていないしなにも知らないから、それに関してなにかは言えないよね。
いや「私はナニも見ていない~」とか言いながら意図的に目を逸らしているワケじゃなくて、本当にナニをしているのか知らないんだよ。
ぶっちゃけ、興味もないし。
世界は大きく変わってしまい、それに伴って国際情勢や社会の色々な常識も変わりつつある昨今。
それでも我が家は変わらない。
そんなこんなな家族がいて、ちょっとアレなおじさんおじいさんが出入りしている我が家だけれど、それが日常でいつもと変わり映えしない日々が続いている。
そしてそれは、余程がなければこれからも変わらないだろう。
今は五月頭の連休。そう、大型連休中だ。
相当昔は「ゴールデンウイーク」とか呼ばれていたみたいだけど、実際休みなく働いている人もいるわけで、「全然金色じゃねーよ巫山戯んな氏ね!」とかそう言う人たちを慮ってその呼称は使われなくなって久しい。
いまだに使っている、知能指数が著しく低い番組しか制作しない――いや「出来ない」頭が悪過ぎるメディアはあるけれど。
それはともかく、大型連休中であり、四人の爺さん達が仕事を迫る部下や社員などの諸々を振り切ってウチに居座り、有無を言わさず取った休暇を満喫してた。
もちろん自営なウチだって休暇中で、仕事のことなんか一切合切忘れてやろうと、こちらも爛れた休暇を満喫していたのである。
爛れた、といってもダラダラしていたわけではなく、休むための努力は全力でしていたけれど。
そうやって面白おかしく過ごし、そしてそろそろ連休も終わりに近付き四人の爺様たちが、
「働きたくないで御座る! 働いたら負けで御座る!」
とか、無論冗談なのだろうニート臭漂いまくるセリフを吐き始めた連休最終日。
駄々は捏ねても立派な社会人である爺様たちは、早朝から荷物をまとめて帰宅の途に就こうとしていた。
でも、それが叶うことはなかった。
何故なら、ウチの周り――裏の畑を含む鳳凰寺家全敷地の周りが、密林によって閉ざされていたのだから。




