4 変わらないもの
だがそういった情勢の変化と世界の基準は覆ってはいるものの、それで劇的に変わってしまっているのは一部の指導者や政治家や、それらの渦中にいる人々であり、そこから大いに外れた処に住んでいて、更にいえば元々の家業がファンタジーっぽい我が鳳凰寺家では、大きな変化は殆どなかったりする。
何故かこんな説明をしている私は、その鳳凰寺家の次女だ。
名前は南岳院菖蒲という。
「鳳凰寺」家の次女なのに、どうして名字が「南岳院」なのかというと、理由は至って単純で、単に私が幼女――じゃなくて養女だからだ。
元々鳳凰寺家と南岳院家は、血の繋がりがあるのも怪しいくらいの遠縁で、南岳院家の者――私の両親が「不慮の事故」で急逝したときに、引き取ったそうだ。
どうして「そうだ」なのかというと、私はそのときまだ一歳にも満たない乳飲児であったから。
まぁ、フツーに覚えていないよね。
その頃の記憶があるなんて人はきっとひと握りで、いわゆる「天才」と呼ばれる人種なのだろう。
そして当たり前にそんな人種ではない私にはそんな記憶などある筈もなく、人が十月十日を経て生まれて来ると理解するまでそのことを知らなかった。
何故か。それは私に二ヶ月違いの弟がいるから。
私が二月生まれで、弟が四月生まれ。
フツーに気付くよね、計算おかしくね? って。
そうはいっても、そんな両親は私を養子だからと差分くわけでも気を使うわけでもなく、我が子のようにちゃんと愛情を持って育ててくれたわけで、感謝こそすれ文句などあろう筈もない。
それに覚えていないのだから、酒を呑まない人が嫌なことがあっても「酒を呑む」発想に至らないのと同じように、そんな考えなど浮かびもしないのが実状だ。
あと、養女だからといって最初から苗字が違うわけではないのは当たり前で、高校生のときにある事件を切っ掛けに正式に両親から話しがあって、それを機に苗字を戻した。
まぁ、それと同時に下の弟くんが授かったと爆弾発言されて、養女だと正式に言われたのよりも衝撃的だったから、その驚きが半減どころか吹っ飛んじゃったけど。
そんな私の家族は、私を含めて八人いる。
両親と祖父母、姉と弟二人。そして飼い犬一頭――あ、八人と一頭だった。
私は現在二二歳。大学を卒業したばかりで現在は家業を手伝っている。職業はいわゆる家事手伝いで、世間一般的にはあんまり聞こえは良くはない。
そうはいっても、私より二年早く大学を卒業した弟くんも同じく家事手伝いなわけで、でもそれが原因で世間的になにを言われようと、気にすることなど一切ないし。
あ、弟くんは自主的に卒業したわけではなくて、飛級でちゃんと卒業したんだ。
なんといっても、大学を受験した時点で卒業生レベルの知識を持っていたし。
本来であれば大学で学ぶものなど一切なかったのだが、学歴社会の弊害が存在する以上は「大卒」という事実が欲しいわけで、弟くんは入学と同時に取れるだけの単位を取りまくり、並み居る教授諸子が舌を巻くなか、たった一年で卒論すら仕上げて卒業しようとしてしまった。
だがそれを、教授陣が全力で止めたそうだ。
そうなるよね。大学側としても優秀な人材は欲しいし、まして四年で熟すカリキュラムをたった一年で達成してしまうという、見聞きしたこともない天才ぶりを目の当たりにしちゃったら。
でも結局は一年止めるのが精一杯で、翌年弟くんは卒業してしまった。
教授達は最後の最後までごねたらしいが、何故か弁護士会連合と警察庁長官からの圧力があり、最終的には黙ったんだって。
権力を使って黙らせた、ともいうけれど。
なんでそんなことが出来るかというと、まず現在の警察庁長官様は、只今私ン家で市長&住職&地元の名士と一緒に酔っ払っているから。
そして住職兼日本弁護士会連合――いわゆる日弁連の会長は、姉を口説き落とそうと必死である。
あ、そういう意味で口説き落とそうとしているのではなく、事務処理能力が異次元な姉を引き抜こうと必死なのだ。
そんな異次元な姉は、自宅の庭に設置した竈に分厚い鉄板を置いて、トングを両手に焼きそばを作っている。
今は春先。ウチの山にも桜が咲き乱れる頃だ。
この時期になると、ウチでは決まって庭先BBQをする――とか決まっているわけでもなく、まぁ暇さえあればこうやって昼食を摂っているわけで、さっきも言った通り、たまーにそんなお歴々な方々が、本当に何故か泊まりがけで遊びに来る。
別に良いんだけどね。お土産に見たこともないお肉とか高級そうなフルーツを持って来てくれるし。
あとウチでは誰も酒を呑まないから、この四人の酔っ払い爺さんはいつも持参してキッチリ呑み切って帰って行く。
残したら捨てられるとかならまだ良くて、ウチの飼い犬くんがペロペロ呑んじゃうから。
そんなことより、ウチの家族――鳳凰寺家の家族の話し。
まずお父さん。
名前は英倫で、見た目が二〇代後半にしか見えない四六歳。神主の肩書を持っている。
どうして「肩書」かというと、ウチは神社や社ではないから。
まぁ本来は神主ではなく宮司らしいけれど、その辺は私にはよく判らないし、より正確には神道の祓魔師らしい。
私が高校生のときに、ちょっと見えない人たちの列車に捕まっちゃって、そのときお父さんの「仕事」を初めて視た。うん、色々凄かった。
あたかも某アメコミに出てくる、変身すると制御が効かなくなって大暴れするゴリマッチョな超人みたいだった。
お父さん、ゴリマッチョじゃないけど。
それから、何故か「見えない人たち」に嫌われる体質で、全身からなんかオーラっていうのかな、光が出ているらしい。
それが、そういう人たちにとっては有害なんだとか。
お父さんはそれを、「殺虫剤だ」と戯けて言っている。
次にお母さん。
名前は 璃芭で、こっちは見た目が二〇代前半にしか見えない反則容姿な四五歳。元看護師さん。
下の弟を出産したのを機に、今は退職して家業を手伝っている――という体なのだけど、未だイチャラブ夫婦であるため、単にそうしたいから看護師辞めたんじゃないかと穿ってしまう。
ちなみに、ウチにちょいちょい遊びに来る市長さんは、お母さんが看護師をしていた頃からのファンらしい。なんでもセクハラをしようとして冷たく遇らわれたのがクセになったとか。
お父さんとは神道のなにかの会合で知り合って、お互い一目惚れだったらしい。ご馳走様です。
そして、元々は神道神楽の神憑巫女なんだそうな。
憑いて来ちゃった妖怪や、そういう人たちを相手にプロレス技で撃退してから正座をさせて説教をしているんだけどね。
ちなみに毎年お約束のように懲りずにやって来るナマハゲペア相手に、DDTプラス飛龍竜巻投げ後の正座させて説教のコンボを良くやっている。
流石に下の弟くんを出産直後はやらなかったが、それに対してナマハゲペアはなんだかしょんぼりしていた。
でも、その後は生まれたばかりの弟くんを目の当たりにしたナマハゲペアは、どういうワケかデレッデレになっていたよ。
……神憑巫女って、そういうキャラだったっけ。
お姉ちゃん。
名前は芙蓉で、二四歳。こっちは見た目が年相応。
謎の研究所に所属しているそうなんだけど、出勤しているのを見たことがない。
時々謎の図面の束を着払いで郵送しているけど。
さっきも言った通り、事務処理能力が異次元な天才――と一部から評判なんだけど、実はそればかりではなく、生物工学や機械工学、電気工学、電子工学、医療技術、果ては異世界の技術も取り入れた魔法工学すらも手がけている、ちょっと意味が判らない超人だったり。
よって各方面から色々とアプローチを受けているんだけど、当の本人は暖簾に腕押しで全く気にしていない。
いやそれ以前に、そうする人達を路傍の石程度にしか見ていないきらいがある。
オマケに、流れるきめ細かな黒髪と整った容姿、憂いを含んだ光の加減で藍にも見える瞳と長い睫毛の、超絶美人さんなんだよね。
こうなってくると、アプローチどころか悪巧みをする輩も出てくるのがお約束だけど、さっきも言った日弁連の会長様やら警察庁長官様やらが目を光らせている所為か、はたまたウチの家業がちょっと人には表立って言えない業種――「自称」ではなく本物の、所謂国家の興亡の裏に属していた組織に属する業種な所為か、そういう物理的に命の危険がある人物に手を出すことは無いらしい。
それは我が家の全てに言えることなんだけどね。
で、そんな見た目は欠点らしい欠点が見当たらない完璧美人なお姉ちゃんなんだけど、実はちょっとおかしなクセがある。
お姉ちゃん、ちょっと――いや、かなりの中二病なんだ。
本人は断固として否定しているけれど、明らかにそうだから。じゃなかったら何故か家族全員に、異世界の基本技術だから――って言いつつ〝魔力感知〟とか〝魔力錬成〟とか、明らかに此処だと無意味で意味不明なことをさせる発想には至らないからね。
それにお気に入りだからって、ピンクの猫耳システムヘルメットを被って歩くのは止めて欲しい。お姉ちゃん、バイクも自動車も免許持ってないでしょ。
今はその長い髪を、「M9」のロゴに拳銃が描かれたバレッタで留めている。
そう、拳銃の髪留めで。
職業は一応小説家なんだけど、本当は梓巫女で、たまーに神降ろしをしている。
理由はちょっと判らないけど。
上の弟くん。
名前は 龍惺。齢は私と同じ二二歳で年相応な見た目。さっきも言ったけど、天才なんだ。
本人は本気でそうは思っていないらしくて、早く一人前になって許嫁を幸せにしたいから頑張っただけと明言して憚らない。
言われるこっちは、滅茶苦茶恥ずかしくなるけれど。
中学生の頃から色々出来る男で、勉強も運動も卒なく熟すどころか明らかに平均を余裕で遥かに飛び越えていた。
おまけにお姉ちゃんと同じく整った容姿をしていて、二人を見ていると世の理不尽と不条理を嘆きたくなる。
ああ天才っているんだー。って、弟くんを見て初めて思ったよ。
まぁ本人もかなり努力をしているから、その一言で済まそうとする輩には相当反感を持っているけれどね。
小さい頃からおじいちゃんに連れられて山歩きをしていて、時々そのおじいちゃんの友達の住職さんまで一緒になって山籠りなんかしちゃったりして、それが霊山だったらしく、気付けば法力に目覚めちゃって、たまにだけど家業の手伝いをしている。
なんか、降魔法力僧っていうんだって。イメージ全然ないけど。
さっき言った、私が例の列車に捕まったときに、お父さんと一緒に助け出してくれたんだ。
あと、実は私の許嫁だったり……。




