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13 鳳凰寺家の混乱と戸惑い。そして確証(1)

 菖蒲(あやめ)龍惺(りゅうせい)が不可解な光に包まれて消失するのを、祖父の勇檣(ゆうしょう)と末の弟である成瑛(しげあき)が目の当たりにして、暫しそのまま呆然とする。

 それに遅れて外に出た父親の英倫(ひでひと)は、まず敷地外に広がっている見たこともない(しゅ)の木々が乱立している(さま)に度肝を抜かれ、次いで呆けている祖父とその孫のセットを見て首を傾げた。


「おーい。じいさん、シゲ、どしたー?」


 呑気にそう訊く英倫を、二人は呆然とした表情そのままに振り返る。


「んん? なんだ? 何があった?」


 繰り返し訊く息子に、勇檣は首を捻りながら、


「なんか光って、二人が消えた」


 見たありのままを伝えた。


 自分が見たありのままを伝えれば概ね理解されると世間一般的には言われるが、見たものがあまりにも非常識で現実味が皆無であったのならば、それは到底信じられるものではない。


 だが――


「そいつぁ一大事」


 そんな非常識が日常である()()()家にとってそれは決して当て嵌らず、取り敢えず屋内に戻って緊急家族会議となった。

 そしてそれに、其処にいるのが当たり前とばかりに、警察庁長官で陰陽道呪術師の御門(みかど)(やす)(みち)と現職市長で奇門風水師(きもんふうすいし)(かく)(かげ)(すみ)、そして日弁連会長で僧侶の(ながたに)(こう)(えつ)も加わっている。


 あと、地元の名士で現在隠居生活中の(ふな)(さか)絃次郎(こうじろう)も加わっているが、彼は超常現象やオカルトとは完全に畑違いであるため、ただの傍観者である。


「まず、状況の確認から」


 議長である家長の英倫が、出された椎茸茶で口を湿らせて口を切る。


「みんなも外を見た通り、此処はウチがあった場所じゃない。何故か森? 樹海? そんな場所になっている。これはどういうことだと思う? ちなみに俺は一切判らん」


 言い切り、おとうさん渾身のドヤ顔。その隣で奥さんの璃芭(あきば)が、推しメンに会った少女のように頬を染めて恍惚としていたりする。


「そりゃそうよね。こんな状況は当たり前に有り得ないから当然」


 そんな夫婦のイチャイチャなどイチイチ気にしていられないとばかりに、娘の芙蓉(ふよう)がタブレットを取り出しながら猫耳システムヘルメットの内側にあるボタンを押す。

 するとそのヘルメットが中心から左右に開き、更に細く横に割れて彼女の後頭部にあるM9拳銃マークの髪留めに格納された。


 そう、猫耳システムヘルメットが、質量保存の法則を完全に無視して拳銃(ベレッタ)髪留め(バレッタ)に格納されたのである。


 だが何故か猫耳だけは格納されず、僅かに位置をずらしただけでそのままだった。


 以前、菖蒲や龍惺がそれに突っ込んだら、


「これが『萌え』よ!」


 物凄ーく良い顔で「バアアアアン!」と擬音が付くくらい男前に、そして萌え感皆無にそう言い切ったそうだ。


 どうでも良いことだが。


 そんな喋らなけれ萌える人もいるであろう容姿の芙蓉は、取り出したタブレットの地図アプリを立ち上げて現在地を検索する。

 ちなみにそれはさっき保通が、()()()の所在を追跡するため既にやっていたが、事態があまりに衝撃的過ぎたために、ほぼ誰も見ていなかった。そして当の本人も、同じ理由でド忘れしていたりする。


全地球的()衛星測位()システム()で検索したら、此処はインド洋に現れた『ファエラス神聖公国』みたいね。『公国』に『神聖』を付ける意味がちょっと判らないけど」


 どうでも良い感想付きで淡々と芙蓉が言う。そしてそれを聞いた一同は、一様に深刻な表情を浮かべた。


「『ファエラス神聖公国』……か……。ばあさん、初の海外旅行が異世界になったぞ」

「あらー、良いですねぇおじいさん。どんな郷土料理が食べられるかしら」


 年甲斐もなくキラキラした目でそんな会話をし始める勇檣と京瑚(みやこ)


「そうか、海外か。そういえば新婚旅行直前に大至急で強制参加な依頼が入って、北海道行けなかったんだよなぁ。日を改めようってキャンセルしたけど結局行けてない。あ、協会に旅費とキャンセル料を請求したの、まだ貰ってなかった。受取期限なしで『呪術誓約』したから絶対に貰えるから忘れてた」

「そうね。そんなこんなしてるうちに芙蓉を授かったから。でも一家で旅行っていうのも良いと思うわよ」


 言いつつ、またしてもイチャイチャする両親。だがそれを目の当たりにしても、やっぱり誰も何とも思わない。


 何故なら、いつもの光景だから!


「『ファエラス神聖公国』って、日本から二千万キロメートル離れているよね。そもそもどうやってこんなところに土地ごと移動したの?」


 そんなちょっと「アレな」発言が飛び交う中、まともな意見を出したのは末の弟の成瑛だった。

 いや、祖父母も両親も、決して()()()ていたわけではなく、至って真面目に世間一般的にいうところの巫山戯たことを言っていただけだ。

 なので、祖父母と両親に任せていたらいつまで経っても話が進まないとかは、決して思っていない。


「ふむ、シゲくんの言う通りだな。菖蒲と龍惺が消えた時に俺とシゲくんが見た光も気になる」


 二人が消えた現場を共に目撃した勇檣が、梅昆布茶を啜って眉間に皺を寄せながら、だが続けて、


「酸っぱ! 梅干し入れ過ぎた!」


 どうあっても最後までシリアスになり切れないようだ。


「勇檣よ。それはどんな光だった? あーっと、済まんが何か書くもんをくれないか」


 その「光」と「消えた」というワードに引っ掛かりを覚えたのか、煎茶を啜りながら保通が訊く。

 その保通に、芙蓉が筆記用具とメモ帳を何故か胸の谷間から取り出して渡した。


「いやどんなサービスだよ芙蓉ちゃん。これはもうプロポーズとして受け取――」

「黙れ良いからさっさとしろジジイ。()()()()()()()()()()()()使()()()をバラされたくなかったら仕事しろ」

「いやアレは、受け取ったときに自由に使って良いって言われてて――」

「………………」

「あ、はい。ごめんなさい」


 会話の内容から、どうやら芙蓉と保通はなにかヤバいものの取引に関わっているようだと、その場にいる皆が感じたが、その片割れが警察のトップだから問題ないだろうと、かなりフワッとした理由で納得して聞き流した。


 そして保通は咳払いをしてから、渡されたメモ帳に真円の陣を描く。


「その光って、これから出てなかったか?」


 勇檣に描いた陣を見せながら訊く。そして勇檣は記憶を手繰って僅かに考えてから、頷いた。


「おや、この陣は何かを遠くから呼び寄せるためのものかな。召喚はボクにとって専門外だけど、これと似たものは知ってるよ」


 出されたメモに書かれてる陣を見て、景純は暫し考える。


「〝奇門風水〟で呼び込むのは〝龍気〟だけど、これは〝龍気〟――いや、〝龍穴〟を利用して何かを()()()()ための陣で間違いないだろう。その喚び込むのは『者』か『物』かは判らないけどね」


 その道の専門家である景純の言葉で合点がいったのか、保通はタブレットを取り出して複数の画像を表示させる。


 それは画像の解析度があまり良くないものだった。


「これは防犯カメラの映像を切り取ったものだ。画像が荒いが、これにさっきと同じ陣が浮かび上がっていた」


 そう言われ、一同はタブレットに表示されている画像を見る。


「うーむ、言われてみればそういう気もするようなしないような……ダメだ、拙僧は老眼が進んでよく判らん」

「え? ナガタニさんこの前、百メートルくらい先にいるカタツムリが何色か見抜いてたよね?」

「老眼になると遠くはよく見えるんだよ。シゲくんも六五歳を超えればわかるようになるさ」

「絶対嘘だ。面倒臭いからそう言ってるんだ」

「七歳にして其処まで擦れるとは。今の世の子供達は皆そうなのか。拙僧は悲しい」

「いえ。きっと僕だけです。それにこれはナガタニさんの悪影響ですよ」

「よし。昊閲は以後我が家に立ち入り禁止だな。考えてみればリュウくんにも悪影響あったし、これ以上シゲくんが感化されないうちに締め出そうか」


 面倒そうに画像を見て独白する昊閲に、鋭く突っ込む成瑛。そしてそれに、無論冗談ではあるのだろうが、勇檣が追撃した。


「実はこれは、今世間を地味に騒がせている『蒸発消失事件』の瞬間なんだ」

「ああ。あのセンスの欠片もないネーミングの事件ね。誰なのその名称で決定したの」

「いやそう言うがな芙蓉ちゃん。センス云々じゃなくて、判り易い事件名にした方がみんなも理解するだろ?」

「その辺はどうでも良いわ。ちょっと感想を言ってみただけよ」

「…………」


 話が脱線しまくっているじいさんと孫と僧侶を無視して続けた保通だが、芙蓉の凄くどうでも良い感想に思わず口籠もる。

 まぁ、実は彼自身も、それちょっと安直だろうとは思っていた。しかしすでに決定してしまってるものにケチをつけても、それこそどうにもならない。


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