11 勇者と聖女の大立回りと傍観するその他(3)
ちょっと偏頭痛がしてきた私に代わって、リュウくんがそんなナイスツッコミをする。でも更に続けて、
「そもそもなんで数珠刃とか箱乱刃の刀持っているんだよ。それって〝虎徹〟と〝村正〟だよね。本来は国立博物館に納めている筈だよねぇ」
「ああ、これはジジイが『祓った』けど祟るかも知れないって博物館側が受け取り拒否したんだ。ま、良くあることだよ」
……原因というか、諸悪の根源は、現職の警察庁長官で現役の陰陽道呪術師な御門保通さんだった。
あの人、確かに現職以外で昔から色々動いていたみたいだけど、強力な呪術結界が施されている筈の国立博物館すら受取拒否した妖刀を持ってるって、一体どういうことなんだろう。
いやそれ以前に、その祟ると云われている妖刀を二振り持ってて平気な興里那さんも、いい加減に大概だと思う。
余談だけど。〝世界統合〟以降、妖刀とか呪物とか妖怪変化とか死霊とかの動きが活発になっているんだ。
きっと異世界大陸からの魔力で活性化されたんだろうね――っておじいちゃんが言ってた。
そしてそれは興里那さんが言ったとおり、本当に「良くあること」になっちゃってたり。
「うふふふふふ。真剣を振るうのは世界遺産認定された某神社の依頼で『祢々切丸』をジジイと祓ったとき以来ね。怨念をぶった斬った感触はとても良かったわ。生物とじゃあ比べるまでもないのよね」
アブナイ人がいる……。ううん、そうじゃないよね。ヤッさんが興里那さんをそういう風に育てちゃったんだよね、きっと。
こんなになっちゃって。一般人に嫁ぐのもう無理なんじゃ――睨まないで心読まないで興里那さん。きっと良い人が見付かるよ。
……多分。
「『こんなんなっちゃって。嫁ぐのもう無理』とか思ってるでしょアヤメちゃん」
言葉まで読まれてた!?
「それ、よく言われるけど、以降二度と言わなくなるわ。理由聞きたい?」
そう言い、右に持った村正を担いでニヤリと笑う。その笑顔が凄惨過ぎて、思わず両手と顔を全力で左右に振った。
『ほう。凄まじい〝鬼気〟だ。我が公国の近衛騎士団に欲しいな』
『いや公王様。我ら既に死んでおります』
『そうだった!』
そんな興里那さんを見て王冠のおにいさんがおかしなコト言い出すし。なにこのカオス。
「言っておくけどアヤメちゃん。女の幸せが結婚っていう認識は古いわよ。具体的には五十年くらい。それと、ちょっと邪魔だからこれ持ってて」
青白い材質不明な玉が九つ連なったストラップが付いているケースに入っている携帯端末を私の方へ放りながら、興里那さんを大層気に入ったらしい王冠のおにいさんなど歯牙にも掛けず、まぁ見えていないし声も聞こえないから当たり前だけど、とにかく興里那さんはキッパリと言い切った。
そんな茶番を繰り広げているうちに、立ち直った兵士さんたちが剣と丸い盾を構えて動き、私たちを完全に包囲した。
これってどうしたらいいんだろう。考えるまでもなくいきなりこんなところに召喚? されて、殆ど――というか説明一切なしで事態が進み、挙句に兵士さんたちからは本気の殺意を向けられている。
どうすればいいの。誰か説明して欲しいと切実に思う。
そんな私の願いも虚しく、兵士さんたちは包囲の輪をジリジリと詰め――
「曩莫薩嚩怛佗――」
――でもその前に、印を組んでいたリュウくんが真言を完成させた。
その効果はすぐに発揮され、リュウくんを起点として焔が立ち昇り、次いで放たれたそれは扇状に拡がりその射線上の全てを包み込む。
全てというのは比喩でも誇張でもなく、射線上にある生体だろうが物体だろうが霊体だろうが《《その全てを包み呑み込んだ》》のだ。
――不動明王火界咒――
一切の邪気邪霊を滅する、不動明王の焔を呼び出す呪法。
それにより発生したそれは、燃料となる可燃物が無いにも関わらず炎焔と立ち昇り、周囲の空気を焼いて行く。
でも術者であるリュウくんは元より、傍にいる私と興里那さんには一切の熱量は伝わらない。
知らない人にとっては不可解な現象だろうけど、知っている私たちにとっては当たり前の現象だ。
それに、魔法だって同じようなモンでしょ。つまり、この呪法は効果範囲を選択出来るのだから。
焔に包まれたその範囲内にいる兵士は、悲鳴を上げながら火を消そうと転げ回ったり叩いたりしている。
でもそうしたところで、それは一般的な火ではないからどうにかなる筈もなく、やがて絶望の悲鳴を上げながら息絶えた。
その様を目の当たりにして、私やリュウくん、興里那さんは眉ひとつ動かさない。
薄情だとか残酷だとか、或いは人でなしだとか言われるかも知れないけれど、この場に揺蕩い蠢いているあらゆる人種の「見えない人」の総数を鑑みれば、誰もそうは言えない。これは断言出来る。
いったい、この場で何人を殺めたのだろう。この数を見る限り、少なくとも四桁近くが此処で息絶えている。
因果は巡って己に還る。いわゆる因果応報だ。
まぁそれが視えない人にとっては、とんでもなく理不尽にしか思えないだろうけど。
……あれ。でも、興里那さんって、私たちと違って視えない筈だよね。でも全然驚くどころか反応すらしていないんだけど。
そう考える私のキョトン顔に気付いた興里那さんは、やれやれと言わんばかりに溜息を吐き、
「アヤメちゃん。警察ってね、色々なモノを見なくちゃならないのよ。だから多寡が焼死くらいで動揺なんてしないわ」
……警察の皆様、お疲れ様です。
「あと明らかな殺意を向けて来る相手に自衛しないなんて、それは平和主義ではなく命を粗末にしている只の間抜けよ。なんでそんな下らない思想のために命を粗末にしなくちゃいけないの? 脳ミソ腐ってんじゃないの? 戦わなければ生き残れないのに」
若干どころか相当不愉快そうな興里那さん。それ絡みで過去に何か嫌な出来事にでも遭ったんだろうか……。
リュウくんが放った不動明王火界咒を目の当たりにして、更にそれによって引き起こされた惨状を眼前に、この場にいる全ての人々は恐慌状態に陥った。
あとそうなったのは「この場にいる人々」だけではなく、この場にいる「見えない人」たちもそうなっちゃった。
つまり、怨霊や悪霊に成っちゃっているのや成り掛けているのを、根刮ぎ祓ったんだよね。
でも――
『おお。なんという温かな焔だ。悪霊を選択して屠れるとは。このような御業を召喚出来るほどの術者は稀少である。是非に我が公国の魔法師団に欲しいな』
『いや公王様。我ら既に死んでおります』
『そうだった!』
それを見た王冠のおにいさんがさっきと同じことを言って、部下らしき人にツッコミを入れられている。もしかして愉快な人なのかな。
それより、リュウくんの焔に包まれているのにおにいさんやその周りの側近らしき「人たち」や、そして何故かエロメイド服を着ているガチムチお兄さんも、全く被害を被っていないのはどうしてだろう。霊格が高いのかな。
リュウくんの呪言の効果があまりにアレだった所為か、私たちを取り囲んでいる兵士が二の足を踏んでいる。
このまま見逃してくれるのが一番良いんだけど、そんなわけにはいかないだろう。
その証拠に、兵士の背後にいるキャソックの人たち――神職かな?――まぁその人たちが、何やらブツブツ呟いている。きっと何か魔法の準備をしているのだろう。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」
それをリュウくんも感じたのか、素早く印を組んで、最後の隠形印の直後に抜刀の構えを取る。
どうしてさっきと字面が同じなのに読みが違うのかというと、機械が破裂したときにリュウくんが使った九字切りが神道―― 惟神道のもので、今使った九字印が密教のものだから。
何が違うのかは具体的に知らない。もしかして、単に九字印を組むか九字切りをするかの違いかも知れない。




