24 使者の務めの終わり
王城に着いたのは昼過ぎになった。着く直前にお父様には簡単な報告として、今日中には向かう旨を伝えてある。そのため1度私の離宮に戻って身嗜みを整えてから王宮に行く予定だ。
「ただいまイリス、リーナ。」
「「お帰りなさいませ。ラティアーナ様。」」
「帰ってきて早々で悪いけど、お父様に謁見に行くから支度をお願いね。シリウスとアルキオネはここまででいいわ。お疲れ様。」
「かしこまりました。また何かあれば、お呼びください。」
シリウスとアルキオネが去っていくのを見送る。
「イリスからなにかあるかしら?」
私はイリスに離宮内の変化について聞く。
「変わったことはないですが…近衛からですが、以前捕らえた暗殺者たちについて、諜報員としての再教育が終わったそうです。」
イリスには私の不在の間、離宮の統率についてお願いしていた。近衛騎士団は序列3位の騎士が統率しているが、情報はイリスに集約してもらったため、イリスも把握している。
「わかったわ。明日にでも様子を見にいくからそのつもりでね。」
「かしこまりました。」
イリスも一礼して去っていく。一方で私は自室に向かった。リーナにドレスの着替えを手伝ってもらい、髪を整えてもらうためだ。
準備が完了すると、そのまま王宮へ向かった。王宮に着くと、お父様の執務室へ向かう。
「ラティアーナです。失礼します。」
ノックをして執務室に入った。
「ご苦労であった。早速報告を聞こうか。」
「かしこまりました。結論から言うと、ノスタルジア王国と属国になるノーランド王国からは前向きな回答をいただけました。通信魔術具も渡して、簡単には説明しています。詳しくはこの書簡をどうぞ。」
そう言って書簡を手渡した。渡した書簡を読見ながら問いかけてくる。
「なるほどな。グランバルド帝国と海を介して面している、ノスタルジア王国とノーランド王国が同盟含めて前向きか。それも、リーガス国王とカインド国王直々にとは。いくら王女自ら使者となっても、そうそうこの結果にはならないだろう。どんな手を使った?」
「特別なことはしていませんわ。ただ誠意を込めてお願いしただけです。」
「…そう言うことにしておこう。お前の功績は前回のと合わせて、かなりのものになる。王位でも狙っているのか?」
お父様は私のことを疑っているようだった。
「わたくしは、お父様からの依頼をこなしているだけです。王位には興味がないので、ご安心ください。」
「そうか…これだけの功績に対して、何もないわけにはいかないだろう。願いがあるなら言ってみるといい。」
お父様の目線は鋭いままのため、完全に疑いが解けたわけではないだろう。とはいえ、どうすることもできないため、願いについて思案する。
「…そうですね。わたくしの婚約や結婚については、わたくしの意思で決めたいです。」
その言葉に、お父様が瞠目した。
「普通は貴族…それも王族ともなれば、政略的なものになるのが当たり前だ。認められるとでも?」
この国に限らず結婚などは、家同士で決めることがほとんどになる。特に女性は長子であっても弟がいる場合、家督を継ぐことはほとんどないため、嫁入りすることが基本だ。
「必要であれば功績は積みます。王国にも嫁入り以上の価値を提示しますわ。」
私がそこまで言い切ると、お父様が思案する。
「考えておこう。それから、お前も1年後くらいには、王立学園へ入学だろう?準備もあるだろうし、少しゆっくりするといい。話は以上だ。」
「わかりました。では、失礼します。」
私は、そのまま執務室を後にした。
(結婚については、私の意思を伝えることができたからいいけど…それにしても、お父様の様子におかしいところは見えないのよね…王国内の動向を少し調べてみようかしら。)
私は内心で、グロリアスで聞いたことについて調べることを決めて、そのまま離宮に戻った。
離宮に戻ると、シリウスとアルキオネを呼ぶ。自室で待っているとノックが聞こえた。
「シリウスとアルキオネ参りました。」
2人に部屋に入ってもらって、用件を伝える。
「この半年以上、領主としての務めができなかったでしょう?建国祭が終わればしばらく予定もないから、半年くらい貴方たち2人に近衛騎士の仕事に休みを与えます。休暇を楽しむもよし、領地の仕事をするもよし、自由にしなさい。」
「ありがとうございます。…では、近衛騎士団の統率は、今まで通り序列第3位のカレナに任せます。」
「ありがとうございます。専属護衛もカレナとフレアに引き継ぎますね。」
離れる間の代行として、シリウスは近衛騎士団の団長業務をカレナに、アルキオネは私の専属護衛をカレナとフレアにそれぞれ引き継ぐ。なお、専属護衛というのは私がどこかに出かけるときに付ける護衛のことで、同性の場合がほとんどだ。
「わかったわ。それから諜報員たちの様子を見に行こうと思うけど、一緒に行く?」
「「ついていきます。」」
3人して自室を出ると離宮の中の近衛騎士団隊舎に向かう。敵対の意志はなさそうなため軟禁状態にあるが、正式に諜報員として働きだせば解放する予定だ。
「ここですね。」
中に入ると5人の男たちがいた。以前、私たちの馬車を襲ってきた暗殺者で、騎士たちによって取り調べをされた後に諜報員として、私に仕えることを確認していた。
「誰かと思えば…あんたか。」
「お久しぶりです。前に襲われた時以来ですかね。わたくしの望みに答えてくれるとは思っていませんでした。」
私の言葉に男が顔をそらす。
「あの時は完敗だった。裏家業として生きる以上、死を覚悟したもんだが…諦めたくはなかったからな。」
「王女としては、こういった影となる存在が必要なことも分かっているつもりです。なので、あなたたちには諜報員として仕事することで罪を償ってもらいます。まずは…最近の王国の状況、中央と辺境貴族との軋轢について調査してください。」
「…了解した。」
こうして私直属の私的諜報チームが結成され、活動を開始するのだった。




