20 龍殺しの姫
私は落ちた黒龍を追いかけて地上に降りた。火山の近くのこの場所は、街からも離れているため被害も特にない。近くに落ちていた、銀月の折れた刃も拾っていると、人影が近付いてきた。
やってきたのはレイガス騎士団長だった。
「ティア様。黒龍の討伐ありがとうございました。」
「どういたしまして。街の被害はどうでしたか?」
「おかげさまでけが人はいるものの、死者は出ませんでした。建物の被害も甚大ではありますが、火龍の素材を換金すれば、まかなえますからな。もちろん功労者であるお三方も、必要な分は好きなだけおとりになってください。」
魔物の素材は結構な値がつくことが多い。属性龍の素材もかなり貴重なため高値がつくだろう。
「あまった黒龍の素材は寄付しますから、うまく使ってくださいな。」
私が提案するとレイガス騎士団長は、驚きの眼差しを向けてきた。
「黒龍の素材など…それだけあれば一生贅沢ができる財産になりますよ?」
正直なところ財産にはあまり興味がない。王族としての予算を使わないで、ある程度使える金額があれば十分であるからだ。流石に全部上げるつもりはないもの、幾分かは渡すつもりである。
「そのあたりも含めて素材の分配については、後で話し合いましょう。」
龍の身体は、兵士たちの協力を得て運んでもらい、私たちも都市へ戻ることにした。
都市に戻るとソフィア、シリウス、アルキオネが出迎えてくれた。
「ティア様、お怪我は大丈夫ですか?」
「今回は、怪我を負ってないから大丈夫よ。」
特に怪我を負うことなく戦いが終わったことを伝えると、3人とも安心したようだった。少しだけ会話をした後は、ソフィアは事後処理に奔走している。そんな中で私とシリウス、アルキオネは宿に戻っていた。ソフィアを助け出したことに加えて、この都市を守ったことを合わせて、より丁重な扱いになっている。
すると、ソフィアが慌ててやってきた。
「ティア様!お父様から緊急通信が来てまして。今から領主館まで来ていただいてもよろしいですか?」
「ええ。構わないわよ。」
ソフィアに連れられて、領主館にある通信室へ向かう。通信を開始するとカインド国王のほかに、もう1人映っていた。
「はじめまして。俺はリーガス・フォン・ノスタルジア。ノスタルジア王国の国王だ。ラティアーナ王女殿下、此度のソフィア王女殿下の救出、並びにトランスポートスクエアの防衛を感謝する。ラティアーナ王女殿下の申し出は、受ける方向で進めたいと思っている。ひいては、俺とカインド国王ともにそちらの都市に向かいたいと考えている。」
リーガス国王の申し出に驚きを隠さないでいた。国王自らがこちらにやってくるのは、完全に想定外だ。
「ありがたい申し出ですが…陛下自らこちらに向かうなど、よろしいのですか?」
私が思わず聞くと、リーガス国王が笑いながら答えた。
「構わない。その都市は2国唯一の共同都市にして、東の大陸や山脈地帯との防衛線にあたる。政治的および軍事的にかなり重要な都市だからな。それを救ってもらったとあれば、これくらいのことはしよう。…それから他にも要望があれば言って欲しい。俺個人でできる限りのことをしよう。」
要望と聞いて、1つ思いついたことがあった。
「でしたら、今回のソフィア王女殿下とトランスポートスクエアの防衛戦の功績を、ラティアーナとしてではなく冒険者ティアのものと、していただけませんか?」
私の要望に、カインド国王とリーガス国王は目を丸くしている。
「それは構わないが…」
「ではそのようにお願いします。」
納得はしていないようだったが、その方向で進めてもらうことにした。私としては、今のところエスペルト王国内で目立つつもりはない。派閥間のバランス調整も、功績をあげすぎて暗殺者に狙われるのも面倒だ。
また、火龍と黒龍討伐の功績はティアのものになるため冒険者ギルドに顔を出すことになった。北の大陸の中で、唯一冒険者ギルド支部があるためだ。
いくつか大まかなことを決めて、3日後に私とリーガス国王、カインド国王による3国会談が開かれることになった。
通信が終わると夜も更けてきたため、夕食を食べて休む。
そして翌日には、冒険者ギルド支部へ顔を出していた。
中に入ると、冒険者たちとギルド職員の視線が一斉に向けられる。なかには、昨日避難誘導を手伝っていた人もいた。私はそのままギルド職員のもとへ向かい要件を告げる。
「はじめまして。私は冒険者のティアです。昨日の件で伺いました。」
私の言葉に、周りがざわめいた。ギルド職員が慌てて支部長を呼びにいき、私は来賓用の応接間に通される。
少し待つと支部長がやってきた。
「冒険者ギルドノーランド支部長のソーマです。話しは陛下より伺っております。プレートを貸していただけませんか?」
私はプレートを渡す。ソーマがプレートを魔術具に翳すと登録情報を読み取っているようだった。
「Bランクですか…ですが冒険者としての功績は、Aランクに近いですね…邪龍と化した黒龍とはいえ、単独討伐はSランクでも難しいです。特例ですが、2ランク昇格してSランクにしたいですが、よろしいですか?」
「ええ。お願いします。」
その後は昇格手続きを行って終わりだ。銀製だったプレートがプラチナ製に変わり、プレートの形も変化する。また、Sランクになると2つ名を登録するらしい。冒険者名は被ることがあるが、2つ名は被らないようになる。特にこだわりもなかったのでおまかせにすることにした。
手続きが終わりプレートを受け取る。2つ名を確認すると、龍殺しの姫になったいた。
(安直だけどわかりやすくていいかもね…ある意味王女と姫は一緒だわ。)
私はSランク冒険者となった。




