12 近衛騎士として
戦闘形態になったゼーエンに対して、シリウスとアルキオネは防戦一方になっていた。肩に与えた傷は、戦闘形態になったときに回復したらしく、完治までいかないものの問題なさそうだ。
シリウスもアルキオネも、相手の攻撃にいなすことはできても、傷を与えることができない。戦闘形態になったことで、さらに強硬になったゼーエンの守りを、突破できない限り勝ち目がないだろう。
(窒息させる結界はもう通じない。わたくしは、お兄様ほど近接戦闘が得意じゃない代わりに、魔術の制御は得意。魔術で出来ること…風つまり空気を操る…空気の支配!)
アルキオネは、1度後方に下がって風魔術を展開して、辺り一帯を包みこむ風の結界を生み出した。
「2度同じ手が通じるものか!舐めた真似を!」
「同じって言った覚えはないわ!」
アルキオネは、結界を維持したまま剣を構えて接近する。ゼーエンの攻撃に対して、当たる直前で回避して逆に反撃していく。
(結界内の空気を支配下に置くことで、結界内の動きを全て把握する。これなら相手の動きの一手先をとれるはず!)
結界内の空間全てが、アルキオネにとっての眼や耳といった感覚器に等しい。相手の鼓動をも感知するこれは、ラティアーナがマハト相手にやったことと同じか、それ以上の効果をもたらした。
徐々にアルキオネの剣だけがゼーエンに当たるようになっていく。
また、シリウスも次の一手を考えていた。
(アルキオネは流石だな。であれば俺は…風を加速に使う。魔槍ハスフラートの力を応用すれば!)
シリウスは身体に風を纏わせる。更に周囲の風に干渉し飛行を可能として、空気中に風による足場を利用することで、空中を自在に動き続ける。
ここまでは前に帝国戦で行ったことも同じだが、今回は更に、移動に合わせて身体から風を放出することで、ブースターのように加速させる。それらを掛け合わせることで変則的な高速移動を可能とした。
(急な加減速や方向転換するたびに圧がかかるが…姫様に追いつくために、並び立てるように無茶を通す!)
シリウスやアルキオネは、ラティアーナのことを支えたいと思っているが、同時に戦いの場では共に並びたいとも思っている。近衛や護衛としては複雑だが、ラティアーナの身だけでなく心も護りたかった。ラティアーナの身が危険であっても、心から望むことであれば助けたいと思っている。そのためにも、ここで負けるわけにはいかないのである。
「はあっ!」
シリウスは珍しく声をあげながら、魔槍を構えて突進する。槍がゼーエンを捉えた時、ついに戦闘形態になってから、初めてまともに傷を与えることに成功する。ゼーエンの肩に槍が突き刺さったのだ。
「なにっ!?」
槍の長さを活かした回すように叩き付けるのではなく、全ての力を槍先に集める突きを主体にすることで、ゼーエンの強硬な防御を突破したのだ。
「漸く、届いた…アキっ!」
シリウスはゼーエンの肩に刺さった状態で、魔槍から風を放出してダメージを与えつつ上空へ吹き飛ばす。アルキオネは同時に、剣に風を収束させていった。
(結界につぎ込んでいる魔力以外の全てを、剣に収束させて風を纏わせる。この一撃にわたくしの全てをかけるわ!)
シリウスとアルキオネは同時に動いた。シリウスは全ての力を一点に収束させた突きを、アルキオネは全ての力を収束させた剣で斬る。シリウスの突きがゼーエンの正面から、アルキオネが背中から斬りつける。2人の攻撃がゼーエンを捉えて斬り裂いた瞬間に、それぞれ魔槍と剣に収束された風を解放した。
体内から炸裂した風達は、ゼーエンにとって致命傷となって地面に崩れ落ちる。
「見事だ。我はここまでのようだな…マハト様も倒されたか…」
ゼーエンの視線を追うとラティアーナとマハトの決着がついた時後だった。マハトが倒れていて、ラティアーナも横になっている。近くにソフィアがいて、治療しているようだった。
「お前は強かった。おかげで俺達は、さらに強くなれた。ゼーエン、お前の名前は覚えておく。」
シリウスが話すとアルキオネも続けて言った。
「ええ。あなた達は魔族は強いです。できれば戦いたくありませんが…もし次戦うときは、1対1で勝たせていただきます。」
シリウスとアルキオネの言葉を聞いて、ゼーエンは笑みを浮かべる。
「我々に勝った褒美に1つ教えてやろう。称号持ちの中で4以上の数字持ちは、別格の強さをもつ。他の魔族領でもそういった別格の魔族はいる。これから先、お前達がどうなるか視ることができないのだけが…残念だな。」
ゼーエンはそれだけ言うと、2度と目を開けることはなかった。




