7 格上の相手
2人の魔族が襲ってきたのに対して、シリウスとアルキオネが前にでる。
シリウスは身体強化を最大まで上げて魔槍を振るい、魔族の拳と激突した。衝撃が響くが、拳に傷を与えることはできず弾かれる。そのまま魔族の蹴りを受けてシリウスは吹き飛ばされつつも体制を立て直す。
「身体能力が異常すぎる!皆、気をつけて!」
シリウスは、警告を飛ばして魔槍を構えて魔族に挑んでいった。
一方、アルキオネは風魔術を主軸として仕掛ける。風を圧縮した無数の弾丸が魔族に撃ちだされるが、魔族は無傷で歩いてくる。
「硬い…こちらの攻撃が通らないなんて」
身体強化し武器を振るうが傷つけるには至らない。魔族は、拳や蹴りといった攻撃だけでこちらを圧倒していた。
私は、戦いに紛れて一旦集落の外へ走りながら2人に魔術通信を送る。
「このまま捕らえられている女の子を捜してくるから、その間の時間稼ぎをお願いできる?」
「「もちろんです。」」
2人が通信を返してくれたことを確認して、私は女の子を捜す。気配を殺し魔術による光学迷彩も使用することで、発見されにくくなるだろう。集落の中に入ってしばらく探すと、小屋みたいなところに女の子が縛られているのが見つける。見張りが近くにいないことを確認して小屋の中に入り、光学迷彩を解除した。
「っ!」
女の子が叫びそうになったのを口を塞いで止める。
「静かに!あなたが捕らえられているところを偶然見たから来たのだけど…とりあえず私についてきて。説明は後!」
縛ってあるロープを短剣で切って拘束を解くと、私は女の子を担ぐように抱きかかえる。
「ちょっ!?」
「舌を噛むから黙って。」
再度、光学迷彩を施して小屋から脱出し、気付かれないようにこっそりと集落の外を目指すことにした。
「女の子は助けたから撤退して。」
シリウスとアルキオネに通信で呼びかけて、そのまま集落の外へ走る。
その頃、シリウスとアルキオネは魔族と激しい戦闘を繰り広げていた。シリウスが前衛として魔族2人を抑え、アルキオネが後衛として魔術による援護に徹していた。シリウスは魔族と槍と拳の打ち合いをしているが、いなしきれずに一撃をもらってしまう。
「ごほっ…」
シリウスは口元の血を拭って魔槍を構え直す。
(俺たち相手に全力どころか実力の半分も出してない…それでもこの有り様か。アルキオネも立っているのがやっとのはず…撤退したいがどうするか…)
アルキオネも肩で息をしながら魔術を行使して、牽制していた。
「兄さん、このまま風に紛れて撤退しましょう。」
アルキオネは残りほとんどの魔力を総動員して、暴風の障壁を作り出した。そして障壁を魔族に叩きつけて爆風を起こすと、その影に隠れて、2人して離脱する。風が止む頃には、シリウスとアルキオネの姿はなかった。
「逃げたか…辺りを確認しておけ!」
戦いのあった場所では、魔族の言葉が響いた。
私が最初の洞窟まで戻ると、シリウスとアルキオネが待っていた。一旦4人で洞窟の中に入り、隠れることにした。
「2人とも少しじっとしてて。」
私は回復魔術を2人にかけて応急処置をする。2人とも打ち身や擦過傷で済んでいたため、完治させることができた。
「「ありがとうございます。」」
治療が終わって、ようやく囚われていた女の子に質問する。
「さて。あなたは誰なのかしら?どうして捕まっていたの?」
私は、疑問に思ったことを聞いてみる。
「わたくしはノーランド王国の第1王女、ソフィア・フォン・ノーランドと言いますわ。先の魔族との防衛戦に敗れ、王国の一部領地が魔族に支配されました。わたくしは…皆に助けてもらって王都まで逃げている途中でした。ですが、逃げきれず囚われの身となったのです。」
ノーランド王国は北の大陸の中で、東の大陸との境界にある国だ。北の大陸の3大国家の1つで南側の海に面しているノスタルジア王国…私達が向かっている国の属国にあたる。
「今まで魔族とは、暗黙のルールとして相互不干渉となっていました。ですが魔族の国の1つ、今わたくしたちがいるこの国は、人間を支配するという方針に変わったのです。」
更に魔族についても詳しく聞いた。常に強力な魔装で身体を覆っているため、生半可な攻撃は通らないそうだ。また特殊能力として魔眼という物を持っているほか、普段は人と同じ姿なのに対して、戦闘形態という戦闘に特化した姿にも変身できるらしい。
「私達はノスタルジア王国へ向かっています。幸い、ノーランド王国はその途中…私達は、あなたを国まで届ける。その代わり、あなたには情報を提供してもらう。お互い協力しませんか?」
私は、ソフィアに対して提案した。
「それはもちろんお願いしたいわ。それにしても仮にも王女なのに驚くというか…態度とか変わらないのね。」
「その方が良いなら変えますよ?」
「あなたたちは命の恩人だからいいわ。ノーランド王国に着いた後で、公の場の体裁さえ整っていれば構わない。」
私が言えることではないけど、ソフィアも王族らしくないと思った。私達の正体については、お忍びとして行動しているため、しばらく明かさないでおく。説明が複雑になる上に、表向きは明かさない方がいいため、明かすとしても王国に届けてからの方がいいだろう。
「後は、ここからどう脱出するかね。可能な限り戦いを避けつつ移動したいけど…どうかしら?」
「わたくしを連れてきた魔族4人はかなり厄介です…たった4人に近衛騎士100名余りが全滅しました…中には透視の魔眼持ちがいたはずです。ここを出た瞬間に見つかるかもしれません。」
私が聞くと、ソフィアが答えてくれた。透視の魔眼は、文字通り障害物をすり抜けて直接見ることができる能力らしい。ただ透過させる物体が厚かったり、複数あったりすると精度が落ちるようだ。
「アキ。ソフィア様を連れて先に行きなさい。私とリウで魔族は抑えるわ。」
「っ!?それだったら私が」
アルキオネが焦った顔をするが、私は首を横に振る。
「さっきの戦いで魔力をほとんど使い果たしてるでしょ?その状態で戦うのは危ないわ。」
アルキオネも理由は分かっているらしく、悔しい顔をしつつも納得したようだ。恐らく先程の戦いで、魔族相手に攻撃が通らなかったことで焦ってもいるのだろう。
「アキそれからリアにも1つアドバイスよ。魔術を使う上で大事なのは魔力の制御と事象の本質を知ること。風属性の魔術の原理を思い出しなさい。」
魔術を行使するには、発生する事象をイメージできないと魔力制御がままならない。そして、イメージをより具体的にできれば、より細かい事象を起こすこともできる。2人が自分で気付くことができれば、より強くなるだろう。
私達は、ここから脱出するために洞窟を後にした。




