21 停戦と周辺国の動向
帝国軍は、将軍と両腕と称される騎士が捕まったことにより、壊滅し帝国領へ敗走していた。もともと、軍団魔術によって大打撃を受けたときに、兵士たちの中で恐怖が広がり逃げ腰になっていて、軍の最強戦力の敗北とともに心が折れたようだった。
王国軍としても、余力などはなかったため逃げたものは追わずに見逃した形だ。特にラティアーナとアドリアス、シリウス、アルキオネの4名は消耗が激しく戦い続けるのは困難だろう。
私は仰向けになって空を見ている。魔力の循環の影響で、外傷よりも体内のダメージが大きかった。回復魔術で治療しても体内の傷は治りにくいため、普段の生活くらいなら支障はないが、数日は魔力の使用を控えたい所だ。
「辛うじて勝ちましたわね…」
「ああ、危なかったが俺たちの勝ちだな。」
アドリアスと横になりながら話していると、シリウスたちとシクスタス司令官が近づいてくるのが見えた。
「姫様とアドリアス様、ご無事ですか?」
「力を使い果たしたから少し動けないけど大丈夫よ。」
「俺ももう少し休めば問題ない。」
少し休んでいると、魔術士団がやってきて私たちに回復魔術をかけてくれる。完全回復まではいかないものの、外傷が治り魔力も回復してきて動けるようになってきた。
「ラティアーナ王女殿下、アドリアス様、シリウス様、アルキオネ様お疲れ様でした。事後処理は私が行いますので、どうぞお休みください。」
後処理は、シクスタス司令官に任せて私たちは先に街に戻ることになった。お父様への報告は、私が行う必要があるが明日行えば問題ない。宿舎に戻ると限界を迎えたようで、私たちはそのまま眠りについた。
翌日、王国軍も全て街まで撤退が完了した。
そして、今私がいる広場には、戦死した兵士たちの遺品が並べられていた。今回の戦いで生き残った兵士は、約2600人。400名余りが亡くなったことになる。
(全体を見れば想定よりもいい状況だけど…犠牲が出たことには変わりない。私は王族といっても所詮はただの人。味方全てを守れるとは思わない。だからこそ…せめて犠牲になった人の事は、忘れずに心に留めておくわ。私には、それくらいしかできないのだから…)
広場を眺めていると、後ろからシクスタス司令官がやってきた。
「これは、ラティアーナ王女殿下。…あまりご自身を責められないほうがいい。こういってはなんですが…国として全体を見る以上、犠牲は必ず出ます。ましてや、今回のように攻めてきた相手との戦いは、避けることが難しいです。今回においては、こちらが全滅する危険性すらあったのです。最良の結果とは言えるでしょう。」
「…ええ、わたくしも理解はしています。ただそれでも、もう少し違う結末があったのではと…思ってしまうのです。」
その後、私はお父様への報告のため領城へ行き、通信用魔術具で報告を行う。
「…以上が、今回の戦いの全てになります。」
「うむ。ご苦労であった。帝国もこれだけの犠牲を払っては、しばらく攻めてこないだろう。念のためシクスタスには、セプテンリオに居てもらうが王族としての務めはここまでで良い。」
「かしこまりました。」
報告が終わり通信を切る。
王国軍はこのままセプテンリオに滞在するものの、帝国とは実質停戦状態になった。
数日後の王城にて、国王と元帥、辺境の領主を集めた護国会議が開かれた。
帝国との戦争の間、南部の方でも小競り合いが起きていてマギルス公爵領でも戦いが起きていた。それらについても報告が行われた。
「このままでは、不味いのではありませんか? 南のドラコロニア共和国とエインクレイス連邦は、敵対関係でも友好関係を築いているわけではありません。現に帝国の動きにかこつけて、共和国と小競り合いがおきましたし……北のグランバルド帝国とは停戦状態。アルカディア王国も強大な軍事国家として君臨しています。西方連合国家群も友好国ではありますが、軍事的な支援は期待できないでしょう」
「ああ、わかっている。そのため我が王国は、北のち海を挟んだ大陸にある国家と同盟を結ばないかと考えている。」
国王の言葉に周りがざわめいた。海を挟んだ北の大陸にも、幾つもの国家が存在する。特に大陸南側の国家は、帝国とも海上で争いが度々起こっていた。
「実は、最近雇った顧問がいてな。入ってくれ。」
すると、1人の男が部屋の中に入る。全身黒ずくめで痩せているが妙な威圧感のある男だ。
「紹介に預かりました、バルトロスと申します。今回、私が提案するのは、帝国を共通の敵として同盟を結ぶというものです。海を挟んではいますが、我が国以外で帝国との戦争に苦しんでいるのは北の大陸くらいでしょう。十分可能かと思いますよ。」
その後、細かいところを会議で詰めて、お開きとなった。
今回の出来事は、王国に小さなひびが入ったようなものだ。けれど、一度入ったひびが、なかなか直せないように、直ったとしても脆くなるように徐々に響いていく。これは王国の動乱の序章に過ぎないが、まだ誰も知る由はない。




