19 主のために
私たちは、1度下がって魔力回復用のポーションを飲んで魔力を回復させる。
その間、後方支援部隊が放った高温の霧と雷によって、帝国軍が半壊した。
「これで帝国軍は、大分削れましたね。おそらく将軍含め帝国の実力者が出てくるでしょう。わたくしたちが頑張らなくては。」
「あぁ、前回はしてやられたからな。直接会うのは初めてだが、借りは返させてもらう。」
次の瞬間、空が白く光って雷が降り注ぐ。
「「ここはお任せを。」」
シリウスが魔槍に魔力を込めて大気を操り、風のドームを展開する。それに合わせて、アルキオネも風の魔術を行使する。2人分の力で生み出された風のドームが雷を反らして直撃を避けた。
「ほぅ。今の一撃を完璧に防ぎますか。」
現れたのは、デトローク将軍とその両腕と呼ばれる騎士2人だ。
「また会いましたね、デトローク将軍。…前回のようにはいきませんわ。勝たせていただきます。」
そう言いながら私は、銀月に手をかける。
「姫様。両腕と呼ばれる騎士2人は、私とアルキオネで倒します。姫様とアドリアス様は、デトローク将軍を抑えていただけませんか?…本来であれば近衛騎士である我々が、1番危険の高いデトローク将軍の相手をしなくてはならないですが…正直に言って、我々では太刀打ち出来なそうです。申し訳ありませんが、お願いできますか?」
「ええ、構いませんわ。元々、前回の借りは返しておきたいですし。わたくしとアドリアスで、デトローク将軍は倒します。アドリアスもアルキオネも良いですね?」
「はっ!」
「問題ない。」
私の返事に、アルキオネとアドリアスも了承した。
「では…参りましょうか!」
私は、周知の魔力を取り込みつつ身体強化をかける。更に魔術を行使して、氷の刃をたくさん生成して一斉に射出した。この戦場では魔術がたくさん行使されていたため、魔力の残滓が多い。大気中の魔力を収束させるのに効率が良かった。
また、水属性の魔術も使っていたため大気や地面の水分量も多いままだ。これを利用しない手は、ないだろう。
氷の刃で牽制している隙に、デトローク将軍に斬りかかる。魔剣で銀月を止められるが、同時にアドリアスの魔槍による衝撃波が、デトローク将軍に襲いかかり後退させることに成功した。
ほぼ同時のタイミングで、ルシウスとアルキオネがそれぞれ残り2人の騎士に攻撃を行い分断に成功した。
分断に成功したシリウスとアルキオネは、そのまま騎士2人と向き合っている。シリウスの目の前には壮年の魔剣使いの男性が、アルキオネの目の前には老人の短剣使いがそれぞれいる。
「わたしくは、目の前にいる短剣使いを相手します。シリウスお兄様は、もう一人を!」
それだけ伝えると、アルキオネは身体強化して剣を振るう。剣と短剣が衝突し火花を散らした。アルキオネは、そのまま何合か打ち合うと魔術を行使して風の刃を生み出す。
剣に風の刃を付与してそのまま相手を切り裂こうとなぎ払うが、寸でのところで回避された。
「ふむ。つまらない相手かと思っていたが…少しは楽しめそうだな。わしはダムラスという。貴様を殺す相手じゃ。名前くらいは知りたいじゃろう?」
「わたくしはアルキオネと申しますわ。姫様のためにもあなたを倒します!」
ダムラスの戦闘は、魔術を使わない、単純に身体強化して短剣で斬るだけである。ただし、速度が速く手数が多い上に、一撃一撃が重いため近接戦闘では最強クラスの武人といわれている。また見切りがうまく、まるで未来を予知しているかのような、ぎりぎりの回避をするともいわれていた。
アルキオネは剣による攻撃と風魔術による攻撃を、交互に繰り出していくが全て当たらない。そして攻撃した一瞬の隙をついてダムラスの短剣に斬られていく。
(攻撃するたびにこちらが傷を負うなんて!?相当の使い手ね…何か策は…)
アルキオネは距離をとって風の刃や弾丸を放つ。不可視の避け辛いはずの、それらの攻撃はぎりぎりのところで避けられていた。そして魔術を放つ隙をついて、ダムラスの短剣がアルキオネを傷つけていく。
「っ!?これなら…どう!?」
アルキオネの周囲に複雑な術式が構築されて、膨大な魔力をもって魔術が行使される。アルキオネとダムラスごと、周囲を竜巻が包んだ。
「風を使った攻性結界か…?貴様まさか!?」
「正直あなたは強いです。わたくしでは剣術でも魔術でもあなたに届かないでしょう。けれど、ここまで大きな範囲をまとめて攻撃すれば…いくらあなたでも避けることはできないはず!」
アルキオネの言葉に応じて、竜巻が収縮していく。風を圧縮した竜巻は、触れたものを切り裂くかまいたちにもなっていて、内と外を分断する結界でもあって刃でもある。
竜巻を一気に収束させてアルキオネは、自身ごとダムラスを切り裂いた。
「ぐっ!?」
ダムラスは呻き声をあげて膝をついた。全身傷だらけで血も流れていて、苦しそうな表情をしている。アルキオネも傷を負っているが、風を得意とするため多少は軽減していた。歩けない程ではないため、ダムラスに近づき剣を突きつける。
「はぁ、はぁ…わたくしの、勝ちね。」
「…ああ、わしの負けじゃな。実力では勝っていると思っていたが、まさか自身を巻き込んで攻撃するとはの。」
「わたくしは姫様の近衛騎士団、副団長ですから。負けるわけにはいかないのです。」
アルキオネは、近衛騎士を呼んでダムラスを縛りつける。アルキオネとダムラスの戦いは、アルキオネの辛勝で終結した。
一方でシリウスの戦いは、魔槍による暴風と魔剣による業火がせめぎ合っていた。
シリウスが風を纏った槍を突き刺し、相手が炎を纏った剣で払う。風も炎も共に相殺され有効打がない状態だった。
「なかなかやりますな。ここまで打ち合って、お互いに決め手にかけるとは…」
「それはこちらの方が言いたいです。ですが…私も勝たなければいけません。姫様に忠誠を誓った身ですから、勝利を捧げなければっ!」
シリウスが魔槍を振り回して、竜巻を起こして前方を薙ぎ払う。相手は、横に跳躍して回避すると魔剣を振るって炎の斬撃を飛ばしてきた。それに対してシリウスは、上空に跳躍して避けた。
(風を纏うことによる飛行は、急な方向転換に弱い。けれど…姫様のように風で足場を作れば!)
風を纏う飛行と大気を蹴る移動、この2つを合わせて上下左右あらゆる方向に高速で移動する。時に風の弾丸や刃で牽制し、死角から魔槍での一撃を加える。そうすることで、相手は防戦一方になっていく。
「ここまで、自由に空中を移動するとはっ!?ですが、甘いですぞ!」
相手は魔剣を地面に突き刺し、自身を中心に柱状の業火を生み出した。柱はそのまま広がっていき、近くにある全てを呑み込もうとする。
(炎で囲むことによる攻防一体の技か!しかも炎によって気流が乱れるせいで、生半可な風では突破できない…であれば!)
シリウスも魔槍に魔力を流し込み、暴風を槍のみに纏わせる。そして身体強化した全力で、魔槍を投擲した。
暴風を纏った槍は、竜巻のように回転しながら高速で飛翔していく。そして槍は炎に当たってもなおも進み続けて、相手に激突する。その瞬間、纏っていた風が炸裂し、炎を内側から消しとばし相手も吹き飛ばす。
炎を消しとばした時の熱でシリウスも軽い火傷を負ったが、相手は倒れたまま動かくなった。
近づいてみるとどうやら気を失っているらしい。
「熱っ…あの距離でも焼けるものですね。さて…こちらも無事とは言えませんが、とりあえず勝利ですね。あとは、姫様とアドリアス様…ご武運を。」
相手を拘束して味方に任せると、シリウスとアルキオネは、合流するために戻っていった。




