18 戦術級軍団魔術
後方部隊視点です。
時は、戦いが始まった頃に遡る。
シクスタスの指示で後方支援部隊は、帝国軍を殲滅するための軍団魔術の準備をしていた。
「物資の運搬は、あとどれくらいかかる?」
「もうじき終わります!今運んでいるのが最後です!」
たくさんの人手で運び込まれているのは、木製の樽に入った水だった。
水属性魔術による水操作は、基本的に大気中に存在する水や土に混ざっている水といった、周囲に存在する水分に干渉する。個人で行使する分には、大気中だけでも足りるが、膨大な水量を支配しようとする場合は、水場が近くにないと行使できない。魔力を水に変換することもできるが、一時的なもので術が解けたり性質が変わったりすると、元の魔力に還元されるため水そのものが必要な場合には、意味がない。
「運搬完了しました!」
「よし!これより戦術級軍団魔術の行使をはじめる!発動は鐘2つ分をかけて行う。この魔術は3工程に分かれる。まず第1工程の霧化を開始!」
号令に合わせて担当の魔術士が魔術を行使する。数人が術式の構築と維持を、残りが魔力を注ぎ込み巨大な魔術を発動させる。すると、樽に入った沢山の水は徐々に霧となって上空に漂い始める。
その後予定通り鐘2つ分かけて上空に大量の霧が生まれた。
「第2工程による加熱開始!第3工程による風力制御開始!」
第2工程では、霧となって漂う水を沸騰させるまで加熱する。地上で加熱しなかったのは、味方への被害を抑えるために安全な場所で行うからだ。炎熱属性の加熱によって霧は、高温の水蒸気となっていく。
そして第3工程により周囲の大気を操ることで沸騰した霧を安定化させて操る。
これにて準備は整った。
「信号弾打ち上げ!王国軍が安全な場所まで撤退したことを確認次第、攻撃を行う!」
信号弾を上げると、王国軍が交代していくのが見える。そして後退を支援するラティアーナ、アドリアス、シリウス、アルキオネの帝国軍を吹き飛ばすためのそれぞれの攻撃が見えた。
そして全員が退避したことを確認して指示を出す。
「目標位置に霧を移動!」
上空に漂う高温の霧は、そのまま風に乗って目標位置に到達し降下、地上付近の一帯を霧に包む。
そして戦場を包んだ時点で帝国兵に防ぐ手段はなくなった。既に充満している以上結界を張っても意味がない。魔装を身体全体に纏っても、息を吸うときに取り込んでしまう。帝国兵は内と外から熱に侵されて倒れていった。
これに攻撃によって霧が晴れたころには、帝国兵の半分が犠牲になった。
「これは相当な威力ですな…ラティアーナ王女殿下が考案したものの、気が進まないといっていた意味が理解できました。」
「だが、まだ油断はできない。これでもまだ、5倍近い兵力差がある。……帝国兵の大部分が濡れている場所に来たら2つ目の策に移るぞ」
「「「はっ!」」」
周りにいた指揮官が軍団魔術の結果に驚いているが、まだ戦いが終わったわけではない。
シクスタスは気を引き締めて、次の攻撃に備える。
しばらくすると帝国兵も態勢を整えたらしく、再び進軍してきた。今度は、周囲を防御結界で包んでいるようで、上空から魔術を打ち込んでも魔力が霧散してまともにダメージを与えられないだろう。
「軍団魔術の第2撃、準備開始!」
号令をもって、先ほど攻撃に参加しなかった魔術士たちが軍団魔術を行使する。今回の術式は、雷光属性で単純に巨大な雷を落とすだけのもの。上空高くに術式が展開され、光が集まり雷が発生する。バチバチと音を鳴らして、雷の球体が出現した。
「帝国軍、目標位置に到達!」
「術式放て!」
帝国軍の集団が、先ほどの霧に包まれていたところに接近したとき、軍団魔術によって上空の雷球から巨大な雷が複数降り注ぎ、帝国軍から少し離れたところに着弾した。
地面に到達した雷は、地面を揺らし、濡れた箇所を伝って、辺り一帯を光に包む。これによって帝国軍の大部分は足元から雷撃を受けた。光が収まる頃には、大部分が倒れて動かなくなった。
これにて帝国軍は最初の3万からおよそ8千まで減ったのである。
「あとは帝国軍の幹部にはラティアーナ王女殿下をはじめとする、実力者が当たる。こちらは魔力を回復させ、敵の陸戦艦と飛空船の対策に当たるぞ!」
「「「はっ!」」」
「俺も魔弓による直接支援に出る。あとは任せた。」
シクスタスも前線後方に合流して、帝国軍の実力者たちとの戦闘に備える。後方支援部隊は、陸戦艦と飛空船のための攻撃要員として待機させていた。この2つの外装を抜くには強力な攻撃が必要なため、軍団魔術が最適だからだ。
また都市上空には、鹵獲して改造した飛空船が待機している。改造によって大幅に強化された砲撃によって、陸戦艦と飛空船も相手取ることができる上に、陸上への支援も可能だ。
帝国軍は、兵士たちの大半がいなくなったため、ついに将軍を始めとする実力者たちが出てきた。
上空から雷が降り注ぎ、戦場を白く照らした。




