12 誘拐という名の潜入
ふと目覚めると私は窓のない部屋の中にいた。
右手は壁に繋がれていて首には懲罰の首輪がつけられている。
懲罰の首輪とは、設定された条件を満たす場合や管理者の意思で、首輪をしている人の全身に痛覚を発生させるものだ。この国では犯罪者相手に使われており、他国では奴隷相手に使われることもある。
(服とかつけていたものはこのまま…時間制限式の光学迷彩と認識阻害のおかげで魔法袋とお守り類もバレてないわね。)
変装中でも最低限身を守るための御守りを1つだけ付けていた。致命傷を負った時に、最低限動くことができる程度まで治癒する回復系の魔術具である。流石にこういった保険がなければ敵に捕まる上に眠らされるということは、危なすぎてできなかっただろう。
また、即効性の睡眠薬であれば魔術による抵抗が可能だが、効果が切れるまでの時間がわからずに怪しまれる可能性が高い。だからこそ寝たふりじゃなくて本当に眠らされたわけだ。
因みに捕まる前に蹴られたところは、身体強化で守ったため、擦り傷がある程度で大きな負傷はなかった。
しばらく待っていると1人の男がやってきて、扉を開けた。
「お、目が覚めたようだね?混乱しているかもしれないけど、君は今日からここで働くようになる。もちろん拒否権はないよ。それから…抵抗するのは勝手だけど、こうなるからねー」
そう言って、男が手をかざすと私の体全体に電流が流されたような激痛がはしった。
「っ!?」
「痛いでしょう?これが基本的な罰になるからねーこれ以上のもあるけど…使い物にならなくなるからあまり使えないんだよね。…じゃあ仕事に行こっか。」
男は笑みを浮かべながら私を連れていく。少しして広い部屋に出た。そこには、私くらいの年齢の子から成人したかどうかくらいの子たちまで幅広い子が30人くらいいた。
「はーい注目。今日から新しい子が入るから、いろいろと教えてあげてね。」
それだけ告げると男は去っていく。そしてこの中で年長者らしき男女2人が近づいてきた。
「…はじめまして。僕が一応ここの男の子たちのまとめ役のギルだよ。そして」
「私が女の子たちのまとめ役のシーラよ。あなたのことは私が面倒を見ることになると思う。それから…ごめん、なんでもないわ。とりあえず説明するからついてきて。」
ギルは元の場所に戻っていき、シーラは私を連れて作業場に向かう。
「私たち女子は、力仕事ができない分ここで火をくべたり必要な布を準備したりするの。とりあえず真似してみて。」
他の子たちと作業をしてしばらくたった。
現状わかっていることは少なくて、この場に30人くらいの子が同じ境遇であることと見張りが数人常に部屋にいることだけだ。
また、作業内容を見る限り薬の精製をしているようだ。物質の鑑定ができないため確証はないが、おそらく国軍に広まっていた薬は、ここで作ったものと思われる。
(最優先は、捕まっている子の解放、次が黒幕含めて関係者の洗い出しとここの制圧ね…まずは捕まっている子を把握することと、この首輪の対処を考えないと。私は耐えられると思うけど、他の子は耐えられない…最悪の場合、精神が壊れてしまうわ。)
懲罰の首輪は、あくまで魔力による痛覚を与えるだけのため身体に傷を負わせることはない。とはいってもあまりに強い痛みが続くと身体は無事でも心が持たないだろう。私の場合は度重なる戦いなどで慣れているし、夜月を初めて握ったときに比べれば、大したことはない。
この日は、従順なふりをして作業を行った。夜になると他の子たちと一緒に部屋に連れていかれる。
「私たち女子は、この部屋の中にみんなで寝ることになるの…ここなら監視もいないから少しは話せるわ。ただ明日も過酷な労働があるから早めに寝ないと持たないけど…」
部屋はみんなで雑魚寝して少し余裕が持てるくらいの広さだ。
全員分の食事…といっても水と乾燥したパンだけが配給されて、喉に流し込む。そのあとは、布を敷いて寝る準備をした。
私は今日が初めての夜ということでシーラの隣で横になっている。
「…ここは一体なんなんですか?どれくらいここにいるんですか?」
「私が知る限りで一番長い子で1年ね…ここについては全く知らないの。急にここに連れていかれて、気づいたら捕まってた。そのあとはひたすら今日みたいな繰り返しよ。最初は抵抗する子も多かったけど、そのたびに首輪で苦しめられて、抵抗した人だけじゃなく周りの人も苦しめられた。何人かいなくなった子もいるし…もう誰も抵抗しなくなったわ。…少し話過ぎたわね。もうそろそろ寝ないと明日に響くわよ。」
シーラはそれだけ教えてくれると、目を瞑った。
(もしかしたら既に犠牲になった子もいるかもしれないけど、今ここにいる子たちだけでも無事に返さないと…まずは、今できることをしないとね。)
寝る前に少し周囲の確認をする。まずは身体強化の応用で聴覚のみを強化して周囲の音を聞く。
足音は聞こえないため近くには誰もいないようだった。
周囲に監視がいないことを確認して、微弱な魔力を放出していく。放出した魔力を追跡することで周囲の構造を把握する、魔力探知と言われる技術だ。高度な魔術士が探知範囲にいると違和感を覚えるらしいが、範囲内にさえいなければ気づかれない。
魔力探知によって、この辺りの一帯の間取りと地下であることは把握できた。
ただ、それ以上の情報を集めるにはもう少しリスクを冒さないといけないだろう。




