10 異変の始まり
国境都市セプテンリオに滞在して約半年が過ぎた。
この間も帝国軍の偵察部隊との衝突は何度かあったが、最初のような大規模侵攻はおきていなかった。
「帝国領内に潜入中の偵察隊からの情報だが、一番近い軍事都市に大規模な動きがあったらしい。総数は不明だが、近々侵攻があるかも知れないです。」
朝の打ち合わせは、シクスタス司令官の一言から始まった。
「なるほどな。最初の侵攻に失敗して以降、だいぶ静かだった。もうそろそろ動きがあるかもしれない。」
「そうね。次は将軍も出てくるだろうし、こちらも総力戦になるでしょう。」
「一度、全隊員に稽古でも付けますか。こちらも準備をしなくては。」
打ち合わせが終わり今日任務についている兵士を招集する。
「今日は、訓練として俺とアドリアス様の2人でお前たちの相手をする!心置きなく全力でかかってくるといい。」
訓練場で2人による稽古が始まる。
兵士たちは、基本的に平民ないしは手柄を立てての騎士爵だ。私が戦えることは一般には知られていないのと、流石に王女を相手に模擬戦をするのは辛いものがあるだろうから、私は見学している。
しばらくしてこの日の隊員たち全員との稽古が終わるころには、まるで屍の山のようになっていた。
「…最近、防衛のために訓練を少なくしていたがたるみすぎだ。これからはもう少し訓練も増やす。以上だ。」
「「「はい…」」」
稽古が終わって他の兵士たちは、重い体を引きずって持ち場に帰っていく。
「この半年、小さい衝突のみで少し気が緩んでいたのかも知れませんな。もう少しこちらでも気をつけます。」
「ええ。お願いしますわ。…それから、わたくしの方で調べたいことができました。もちろん、緊急時はこちらに来ますし、通信は聞いてますが少し別行動します。アドリアス、あなたもシクスタス司令官に協力してください。」
「了解した。こちらは任せるといい。」
「かしこまりました。」
シクスタス司令官とアドリアスに国軍を任せて私は、外に出る。途中宿舎に寄って着替えて、変装用の魔術具をつける。そして、普段はあまり使わない認識阻害の魔術具になっているアクセサリをつけた。
認識阻害といっても、印象に残りにくくなるのと存在感が薄くなる程度のもので気休め程度のものだが、街の人々に紛れれば目立たないだろう。
この半年、休みの日には街の中を歩くようにしていたし、特におかしなところはなかったと思う。けれど、もし私の予想が当たっているとするなら、見えていない場所で何かが起こっている可能性もある。
普段行かないような場所も含めて詳しく見ることにした。
まずは、恒例の市場巡りだ。
この辺りの特産品以外は、輸入品が多い。季節以外の理由で品物が変わっているかどうかで、物流の変化がわかることがある。
(商品に大きな変化はないけど、知らない商人が若干いるかな?)
しばらく回っていると、見たことのある兵士の人を見かけた。
路地裏のお店も何もないところから出てきたので声をかけてみる。
「すいません。この辺りに詳しくないんですけど、あっちの方にお店とかあるんでしょうか?」
「ん?いやお店はないよ。ただ、たまに健康にいい漢方薬を売ってくれるらしくてね。僕も同僚に聞いたから初めて買ってみたんだ。」
どうやら私のことには気づいてないらしい。噂になっているらしい漢方薬について詳しく聞いてみる。
「それって、今からでも買えますか?」
「うーん、どうだろう?僕が言った時にはもう片付けをしていたから、もういないんじゃないかな。」
「どうしてもそれが欲しいです!お金は渡すので譲ってくれませんか?」
1つ買うのに小銀貨1枚らしく、兵士も人に渡して譲ってもらった。
それから、漢方薬を売っている商人を探したが見当たらなかった。
翌日、シクスタス司令官とアドリアスに集まってもらった。
「最近兵士の中で、これが出回っているようだわ。」
私は2人に薬の入った瓶と赤い花を見せる。
「これがどうかしたのか?」
「ええ。これはケシの花なのだけれど…乾燥させて加工したものが、この瓶の中身だわ。」
アドリアスはぴんときていないようだが、シクスタス司令官は気づいたらしい。
「なるほど。兵士たちに広まって欲しくないものと考えると…毒ですかな?」
「そうよ。一応地域によっては、痛み止め代わりにするところもあるみたいだけど…使っているうちに常習性が出てきて体調を崩すみたいね。毒みたいにすぐわからないから厄介ね。」
王族として学ぶ内容のなかに植物についてがある。貴族よりも毒殺などの危険性が高いため、植物の効能や特性、対処方法を知っておく必要があるからだ。
「今回の件、帝国が絡んでいるかは不明だけれど、無視するわけにも行かないわ。わたくしの方でもう少し確認するから、あなた達は、兵士たちに注意を促しておいて。」
帝国が関わっていようとなかろうと、黒幕については確認しなくてはいけない。私は、さらに調査を続けることになった。




