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王女の夢見た世界への旅路  作者: ライ
第13章 2度目の学園生活

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110 追憶の旅路-メラニーから見たティア

 メラニーはティアの言葉の真偽を推し量ろうとして無意味なことだと悟った。

 彼女の持つ魔術具類はかなり貴重な物が多いが、手に入れるための一番の障害は、素材が手に入らないことだ。希少な魔物や鉱石の類を使っていることは確実で、高位貴族のメラニーでさえ集めることは難しいだろう。

 けれど、世界中を自由に動くことができ、実力がある冒険者であれば素材を集めることは叶うかもしれない。彼女ほどの魔術の技量があれば最上級魔術を刻むことができてもおかしくはない。どちらにしても確かめる術はないのだから考えるだけ無駄だ。


「今は貴方の言葉を信じるとしましょう」


「ありがとうございます」


 ニコニコと無垢な笑みを浮かべるティアにメラニーは舌を巻く。

 ティアは平民らしく表情が豊かだ。

 ここ数日間近くで見ていても感情が顔に出やすく、年頃の純粋な少女のようだとさえ感じていた。

 その反面、メラニーはティアの内心を推し量ることができないでいた。まるで靄がかかっているかのように彼女の全容を掴むことができない。

 いっそのこと、本当に確認しておきたいことを直球で問い質してみるのもありかと思えた。


「貴方は……本当にコルネリアス様と結婚できると考えているのですか?」


「もちろんですよ。コルネリアスと結婚できない道理はないですし、恋愛結婚の方が幸せではないですか。私は彼を愛していて、彼も私を愛してくれると言ってくれました」


 ティアは顔を赤らめてコルネリアスのことを幸せにするのだと断言した。


「それは平民の考えです。王侯貴族として生まれたからには、王国と家のためにその身を捧げ、利を示し、責務を果たさなければなりません」


 結婚は王侯貴族にとって責務の一つだ。

 家同士の利のため、より魔力の高い子孫を残すため、そのような様々な理由から両親が取り決めた相手と結ばれる。

 メラニーにとって結婚とはそういった貴族の義務だった。決められた相手と親しく好意を持てるように努力はするが、そこに恋情は存在しない。


「王侯貴族としての責務を果たすのは理解できますよ。ですが政略結婚は手段の一つなだけで利を示す方法はいくらでもあると思います。他の方法で利を示せば恋情を大事にしても良いと思いませんか?」


「実績はない状態で利を示せるなど過信が過ぎますね……そもそも王家と公爵家が決めた婚約をなかったことにする時点で両家を敵に回すことになるのですよ」


「コルネリアスとアスカルテを傷つけない限り大丈夫だと信じていますから。時間はかかるかもしれませんが、話せば納得してくれると思います」


「……どうあっても無理なこともあるのですよ」


 確信を持っている様子で笑みを浮かべるティアに、メラニーはそのような未来はあり得ないと同情を覚えた。

 常識的に考えて賢いだけで後ろ盾も何もない平民が王族の妃になれるはずがなく、今回の二人の婚約には当人たちの意思とは別に成立させなければならない事情をメラニーは知っている。

 国王夫妻とグラディウス公爵夫妻は婚約解消を絶対に認めない。それどころか成人と同時に結婚までさせたいと考えている。

 けれど、二人の婚約の裏事情は国王夫妻とグラディウス公爵夫妻をはじめとしたごく一部の重鎮しか知らされていない。アスカルテは察しているのだろうが、コルネリアスでさえも全く知らされていないほどだ。


「思ったよりも長く話してしまいましたね。わたくしたちもそろそろ休みましょうか」


 これ以上は不毛になると考えてメラニーは話を切り上げようとした。


「わたくしはそこで水を浴びるつもりですがティアはどうしますか?」


「冷えてきましたし今日は魔術で済ませます」


 ティアはゆっくりと立ち上がると魔術による洗浄で衣服ごと汚れを落としてさっぱりさせていた。

 メラニーも水を浴びてこようとしたところでティアの言葉に引っかかりを覚えた。


「ん……冷えるですか?外よりはましですが十分に暑いと思いますけど……」


 メラニーが思わず言葉を返すとティアは僅かにしまったというような表情を一瞬した。


「さっきまで火の近くにいたのでそのせいかもしれませんね。先にテントに戻ってますね」


「待ちなさい」


 メラニーは急いで戻ろうとするティアの手を捕らえようとするが、手が届く直前でティアが身を翻したことで空振りに終わった。


「熱がありますよね」


 メラニーは確信をもって言い放つ。

 ティアの顔が赤いのは恥ずかしさからだと考えていたが、よくよく見れば火照っているようだった。瞳はとろんと揺らいで潤んでいるように見えた。


「問題ありません」


「しかし……」


「大丈夫なので放っておいてください。おやすみなさい」


 ティアは拒絶するような冷たい返事をしてテントの中へと入っていった。

 ティアのことは心配だが、これ以上何か言ってもさらに反発されてしまう。仕方がないので今までよりも注意深く様子を見ることにした。

 メラニーは急いで水を浴びて汗を流し魔術で汚れを落としてからテントに入る。音を立てないようにして様子を確認するとティアは既に寝袋に入って眠っているようだった。少し吐息が荒いが近づけば起こしてしまう。

 メラニーは少し距離をとって寝袋に包まれながらティアのことを思い返した。


 ティアに対する第一印象は最悪に近いものだった。

 メリッサ付きの第二妃騎士団長としてリーファスやコーネリアとも情報を共有している。その中には王立学園の内情も含まれていてティアがどのような学園生活を送っているのかも把握していた。特にコルネリアスとアスカルテの婚約が決まってからは、王の影からの細かい報告も受け取っている。

 これらの内容を踏まえた結果、立場を弁えずに王子に恋する夢見がちな少女だと考えていた。

 実際に会って数日間生活を共にし、こうして話してみても夢見がちな印象は変わらない。

 けれど、夢に向かって純粋に進むティアのことは眩しく思えた。



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