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王女の夢見た世界への旅路  作者: ライ
第13章 2度目の学園生活

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109 追憶の旅路-メラニーの問い

 テントの幕を抜けて薄暗い空間に出た時だった。

 私の右手に付けている腕輪型の通信用魔術具が薄らと紫色に発光していることに気づいた。


「コルネリアスからの通信ですね……再生しますよ」


 コルネリアスから渡されたこの通信用魔術具は、従来の通信機能に加えて音声メッセージを一つだけ保存できる機能がある。簡単に言えば留守番電話みたいなもので、相手の状況に関係なく意思疎通を取ることが可能になっていた。

 私は腕輪に魔力を流すと同時に拡声用の風魔術を展開する。


『こちらは全員無事だ。他にいた裏切り者も捕えることができた。我々は予定通りに向かうから途中で落ち合おう』


 あれだけ混迷と化した状況でも死者が出なかったのは僥倖だ。

 コルネリアスたちが予定通りに向かうと分かっていれば合流するタイミングも合わせやすいだろう。私が同行することは伏せてもいないが公言もしていないため、貴族との挨拶の時に不在にしていても大きな問題もないはずだ。


「イルミナさんの回復を待つ余裕はありそうですね」


「ええ。予定通りであれば一日くらい遅れたとしてもマギルス公爵領に差し掛かる前に合流できるでしょう」


 メラニーも同じことを考えていたらしく、イルミナが目覚めて動けるようになってから出発しようとの話になった。


『無事で良かった。私たちはイルミナさんが回復してから動き出すことになると思うわ。遅くてもマギルス公爵領に入る前には合流できるはず』


 コルネリアス宛に伝言を送った後は、少し早めの夕食を取ることになった。

 メラニーは屈みこんで地面に手を触れた。彼女の手から僅かに魔力を感じると地面の岩が削れて窪みができる。そこに炎熱属性の魔力結晶を置いて魔術で火をおこした。


「これくらいの火力でしょうか……ティア、熱さは大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。心地よいくらいです」


 真夏だというのに日が暮れてからの洞窟は肌寒く感じていた。むしろ焚き火の炎が暖の代わりになって冷えた身体に染み渡るくらいだ。


「……食事については申し訳ないですが携帯用食料で我慢してもらえると助かります」


「慣れてますから大丈夫ですよ。ただ少し味を整えたいので私に任せてもらえませんか?」


「それは構いませんが、道具も何も持っていないですよ」


「これでも冒険者ですから。道具や食料は常に持ち歩いているので大丈夫です」


 メラニーから受け取った携帯用食料を熱湯で溶かしてスープ状にして魔法袋から取り出した凍らせた肉や野菜を加えて煮込み、調味料や香辛料で味を整える。

 前回野営をした時は、この中に凍ったパンを入れたわけだが、今回はひと手間加えてみることにした。

 凍ったパンを魔術で解凍してから表面がかりっとなって薄く色が付く程度に焼いていく。

 最後に焼いたパンをスープに加えれば完成だ。


「簡単なズッパみたいなものです。お口に合うと良いのですけど……」


「とても野営中に作ったとは思えないくらいの代物ではないですか!?」


 メラニーは意味が分からないといった表情をしながらも渡したスープを口に含んだ。


「……とても繊細な味で美味しいです」


「お口に合うようで良かったです」


 メラニーが笑みを浮かべて食べている様子にそっと胸をなでおろす。

 実のところ私が作った食事を親しい相手以外に食べてもらうのは初めてだ。

 ましてやメラニーにとって私は妃の立場を狙っている得体の知らない平民。当然、毒などが仕込まれていないか警戒もしているだろう。

 それでも初めに会った時に比べて警戒感が薄れてきているように感じられて、親しくできることは嬉しいことだった。


「美味しかったです。ありがとうございました」


「どういたしまして」


 食事を終えた後、メラニーはお礼を告げると姿勢を正した。彼女の雰囲気が柔らかいものから厳しく引き締まったものに変わり、見定めるような視線が私に向けられる。


「ティア。いくつか確認したいことがあります」


「私が答えられることであれば話しましょう。でもその前に……長い話になりそうですし紅茶でも淹れましょうか」


 私は手持ちの茶葉を使ってテキパキと紅茶を淹れてカップを手渡しした。

 メラニーは紅茶を口に含むとカップを静かに置いて口を開く。


「貴方は一体何者なのですか?」


「他国で奴隷として育ち、縁あってエスペルト王国に辿り着いた、ただの冒険者です」


 これはただの事実であり、国境門や関所を通る時にも伝えていることだ。

 他国での活動も冒険者ギルドに問い合わせれば正しいと証明してくれるだろう。


「もちろん貴方の経歴は把握していますし、嘘偽りがないことも確認はとれています。ですが、それだけでは説明がつかないところが多々あるのです。例えば……その魔法袋をはじめとした魔術具や防具など。それらは高位の冒険者ですら持てないほどの……いえ、わたくしたち高位貴族でも手に入れることは難しいほどの代物です」


 私が持っている魔法袋はラティアーナが女王に即位した頃に作成した二代目だ。

 当時私が保有していた様々な魔物の素材や鋼材、イリーナが考案した魔術式を王国随一の魔術具師に加工してもらった逸品。

 作成過程を考えればメラニーが言わんとしていることも理解できる。


「私が持っているこれらの品は、知り合いの冒険者から譲ってもらったものです。私一人では手に入れられないでしょうね」


「……それだけの品をですか?」


「ええ。私の師のような人でもありましたから」


 かつてラティアーナがお忍びで活動するために考えた冒険者ティア。

 Sランク冒険者としての登録だけでなく住民登録もされていて身分の保証はされている。ラティアーナの死と共に表舞台から消えてはいるが、生死にまつわる証拠もないため怪しまれたところで証明のしようがない。

 それはつまり私が(Sランク冒険者)と接点があるかの証明も不可能だということだ。

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