5 起死回生の一手
司令官視点です。
「では各自散開せよ!目標は、帝国軍の拠点。作戦開始!」
国軍司令官である俺の、シクスタス・サギッタの号令を合図として砦から帝国軍の拠点に向けて各隊が走り出す。
それぞれ1小隊9人程度に分かれて、相手に見つからないように隠密行動しながら鐘2つ分の時間をかけて、帝国軍の拠点が目視できる距離まで来ていた。
「ここまで敵兵なし。罠なども見つからないですね。」
「ああ、順調に進んでいるんだと嬉しいが…終わってみてからじゃないと結果はわからんな。期を引き締めつつ、もう少し接近するぞ。」
拠点の周辺には、見回りや塔のような高い場所から周囲を観測している兵たちがいるため、闇にまぎれながらも障害物で視線を遮りつつ気配を潜めて、攻撃が届く範囲まで近づく。
目標地点まで来ると、あらかじめ決めてあった奇襲を仕掛ける時間になるまでじっと隠れていた。
「さてそろそろ奇襲を仕掛ける頃合いだな。他の部隊も展開していることを信じて我々も行くとしようか。付いてこい!」
あらかじめ打ち合わせていた奇襲開始の刻となったため、味方に小声で伝えると拠点への攻撃を仕掛けるための準備をする。
俺は弓を構えて矢を番えて魔力を込める。この弓は、魔弓となっていていくつかの機能をあわせ持っている。魔力によって弦を強化して射出速度を上げたり魔力で生成した矢を放ったりすることもできるが、真の力は、術式を刻んだ矢を放つことで、着弾と同時に術式を発動させることにある。選んだ矢は、単純に爆破するだけのもの。けれども、単純だからこそ高い威力を発揮する。
力を込めて放った矢は、帝国軍の拠点の壁に着弾と同時に爆発して、辺りいったいを衝撃と轟音を襲う。煙が晴れると着弾地点を跡形もなく吹き飛ばしていて、風とおりがよくなった。
「あそこから侵入する!突撃!」
開けた大穴から中に入ると、帝国兵が近づいてきた。
「っ!?敵襲!増援をよん…」
魔力矢による攻撃にに切り替えて、一度に5本程度の矢を放って、帝国兵を倒す。
倒しきれなかった帝国兵たちは、仲間たちが剣や槍で倒しにかかる。相手は突然の夜襲に戸惑っているようで反応が鈍かった。少しして襲ってきた相手を無力化を終えると、他のところでも爆発音や轟音が聞こえてきた。恐らく他の部隊も拠点に乗り込むことに成功し戦闘がおきているのだろう。
「このまま拠点を探索しつつ、破壊活動を行う。行くぞ!」
隊員たちの返事と共に中を進む。途中、帝国兵が襲え得てくるがこちらに近づかれる前に矢で穿ち、倒し損ねたものは味方の兵士がとどめをさす。拠点の重要そうな部屋には魔術具を仕掛けて爆破し有効な物資も鹵獲する。
その後も何度か同じことを繰り返していった。
こちらは奇襲を生かすために、一撃離脱を心がけた立ち回りで被害を最小限意抑えつつも、常に移動し続けることで相手を混乱させて各個撃破していく。回復魔術があるため、行動不可能なほど傷を負わなければ戦闘を継続することが可能だからこそ採れる戦術だ。他の部隊も同様な立ち回りをしていて、主導権を握ることができたこちらが終始優位だった。
しばらくして、帝国兵が拠点から撤退していくのを確認して、使えそうなものだけ鹵獲、残りは拠点ごと爆破することに成功した。
こちらも撤退して近くの目立たない場所に陣とって、全員の認識あわせを行う。
「各隊報告を頼む。こちらは犠牲者なく遂行完了。おそらく仕留めた帝国兵は40人程度だ。」
「私の部隊も犠牲者なし。帝国兵は30人程度です。」
「こちらは…」
全員の報告をあわせたところ、けが人はそれなりにいるものの犠牲者は極力抑えることができたようだ。またこの拠点には1万人程度の帝国兵がいたようだが、半数以上を倒し、残りも撤退させることができた。
国境付近に展開していた帝国軍の総数はおよそ2万のため、半分近くを相手に勝利できたことは大きいだろう。
「鹵獲した品ですが、帝国側の地図を入手できました。こちらを見ていただきたいのですが、先程の拠点から森を抜けた先に帝国の軍事都市があるようです。距離的には徒歩で半日といったところでしょうか。残りの本隊および飛空船の発着、補給物資の貯蓄はそちらになるかと。」
「場所が掴めただけでも僥倖だな。我々はこのまま、隠れつつも砦まで撤退する。最後まで気を抜かなよ。」
作戦終了に伴い、砦まで撤退すべく目立たないようにしながら歩いていく。
森の中に入ってしまうと魔物に遭遇するため森に近づきながらも周囲も木や岩といった障害物を頼りに撤退する。
砦まであと少しというところまで戻ってきた。すると砦の近くから飛空船が飛び立つのが見えた。
「あれは!?帝国の飛空船だと!?隠密行動は中止。最大限警戒しつつも最速で砦に戻る!」
ここからは、見つかることを考慮せずに、接敵だけを警戒して全力で走り出した。しばらくして、砦に辿り着くと…
そこには抉れた地面と瓦礫が散在するだけで、何もなかった。誰もいなかったのだ。




