1 冒険者登録
第2章は冒険者として色々な場所を巡っていきます。
今日は冒険者登録を行うため、王都にあるギルドに向かう予定だ。
冒険者ギルドは元々傭兵たちが商人を護送していたのが大元らしい。色々な場所に商品を護送していくうちに同士が集まり、規模が大きくなっていたと言われている。
冒険者ギルド自体は国に所属しない独立した組織となっていて、どの国の領地でもない場所に冒険者ギルド本部の街が存在する。そしてこの大陸の各国の都市には、ギルド支部が存在しているわけだ。
国としてもギルドがあると、人が集まり周囲の安全が保証しやすくなる。また単純に税収が増えたり人の動きが活発になるメリットもあるようだ。
冒険者ギルドとしても複数の国々との協力関係を築き互いに利益を享受することと、複数の国を絡ませる絶妙なバランスを維持することで成り立っている。。
冒険者登録自体は、所定の用紙に名前や年齢、性別、扱う武具を記載して渡すだけだ。登録時に試験を受けて合格すれば最初からCランクとしてスタートすることが可能だ。冒険者登録が完了すると、魔力登録した専用のプレートを渡される。
なおランクは大体次の基準になっている。
E - 都市内での安全な仕事のみ。
D - 都市の外での安全な場所での採取。
C - 戦闘可、高難易度の依頼は参加のみ可能。
B - 高難易度の依頼も受注可能。危険度が著しく高い依頼は参加のみ可能。
A - 全ての依頼を受注可能。
S - 依頼に関してはAランクと同等。強さが功績がAランクを著しく超えた場合に昇格される。
Bランクが層としては一番厚く、Aランクまで行くと一流扱い、Sランクは各国で一握りしかいない。
この国の場合、孤児院にいる子やスラム街で活動している子だと7歳くらいからEランクの仕事をすることがある。
私の年齢的には少し不審に思われるかもしれないが、何事も例外は存在する。だから名前だけ変えて他はありのまま登録するつもりだった。
冒険者ギルド支部に着くと受付にいる職員や休憩スペースにいる冒険者らしき人々など大勢の視線が向けられた。ただ殺意などの敵意を向けられた感じはしない。今の私が幼いこともあって心配は半分、好奇心が半分と言ったところだろう。
私は周囲の視線を気にせずに一番近くにいた受付のおじさんのところへ歩いていった。
「すいません。冒険者への登録をしたいのですが…」
「登録かい?もちろん大丈夫だ...代筆は必要か?」
エスペルト王国の識字率は比較的高いほうにある。住民登録がされている平民であれば最低限の筆記も可能なくらいだ。ただ私の年で文字を書ける人は少ないだろうし孤児などであれば読むことができるか微妙なラインだろう。
「読み書きは問題なくできます。それからスキップ制度も使いたいです」
用紙をもらって必要な事項を書いているとおじさんが不安そうな表情で
「…スキップするための試験を受けるのか?確かに合格すればCランクになれるが...嬢ちゃんには早いと思うぞ?」
と言った。
今の格好は、街で買った服とズボンのラフな格好だ。動きやすいが戦うには向かない。武器も登録時に支給される鉄の短剣を使う予定なため無手である。どう見ても実力者には見えないだろう。
おじさんの反応は当たり前だ。けれど試験を受けるために条件がないことは確認済みである。
「こう見えて多少は戦えるので大丈夫です。お願いします。ただ支給品の短剣は欲しいですね」
「…分かった。武器はこれをやろう。ごく普通の鉄製の短剣だ」
用紙をおじさんに渡すと代わりに短剣をくれた。そして渋々といった感じで奥の広場に連れて行ってくれる。少し広めの訓練場といったところで周囲の壁も含めて頑丈な造りになっているのだろう。下級の魔術くらいであれば直撃しても耐えられそうだ。
「じゃあ試験についての説明だが...今から1対1で試合をする。一応寸止めを基本とするが怪我する危険はある。職員のなかには回復魔術を使えるのはいるが、大怪我だと治せないから気をつけてくれ。今回は強さを測るためだから必ず勝つ必要はない。実力を示せば良い」
「ええ...大丈夫です。いつでもいけます」
私はおじさんの言葉に頷くと短剣を構えた。
教師から授業を受けていた時に気づいたことだが、前世の記憶といっても思い出と知識や技術で鮮明さが違う。どういう人生を歩んでいたかはあまり覚えてないが、知識や技術は覚えていることが多いようだ。
武道の記憶を基に王城で見た騎士の訓練や試合を見て、この世界でも通用できるように最適化した。
最終的にリーナにも相手をしてもらうことで騎士たちの標準的な体術や剣術に私専用の技術も習得している。
また魔術の練習と並行して魔力の操作も訓練中で身体強化を扱えるようになっていた。
自身の身体に魔力を多く流すことで行使できる身体強化は、運動能力と身体の強度を上げることができるため近接戦闘に重要な技術となる。多くの騎士や冒険者には必須の技術だ。
「では...始め!」
おじさんと相対した感じでは、王宮の騎士と同等くらいに感じる。試験とはいえ初めての実戦だ。元々体の小さい私の方が不利なため、軽く仕掛けて攻撃を誘い、反撃主体に攻めることにした。
私の魔力が少ないこともあって身体強化を行使する魔力量は少なめにしてある。精々12歳の女の子くらいの身体能力になるくらいだ。けれど身体強化による影響は身体の丈夫さや体力にも及ぶ。今の強化であれば半刻は全力で動けるだろう。
私は一気に距離をつめると短剣を浅く振るう。大しておじさんは剣を打ち返すことで反撃してきた。真っ向から受け止めては力負けし最悪の場合、腕が痺れるだろう。
極力回避や剣を横から斬り付けて受け流すことで対処していく。時折発生する隙をついて地道に攻撃を加えていた。
「っつ!?まじかよ...」
おじさんの驚きの声が聞こえてきて今の私の実力が十分通用していると感じた。けれど私がまだ全力でないようにおじさんも全力を出していない。互いに様子見の状態だ。
だからこそ、この戦いを私自身の成長につなげるつもりだった。力で勝てない相手、自身より強い相手に勝つには、身体能力や剣術だけでは限界がある。相手の動きを予測し先読みして対応するなどあらゆる手段を取らないといけないだろう。
私は相手の体捌きに注視する。手足の動きや目線から可能な限り次の攻撃を予測し、私が有利になるように動きを変えていった。
一方で試験官を務めるおじさんもラティアーナの動きに驚いていた。
おじさんも剣の腕には自信がある。ギルド職員となる前は冒険者としても活動していて、それなりに修羅場も潜り抜けていた。
そんな彼が剣の打ち合いで主導権を握れないでいた。振るう剣はいなされて行動を予測したかのように短剣を打ち込んでいる。
内心で普通じゃない、と思いつつも試験官として見極めるために剣を打ち合い続ける。
私は剣を打ち合っていると、おじさんが一瞬だけ力をためて剣を振るおうとしていることに気付いた。恐らくはこの試験の中で最大の一撃…ここが試験の分かれ道になる予感がした。
私は短剣を両手で持ち全体重と遠心力を乗せて横から斬り払う。おじさんの強烈な斬り下ろしと短剣が激突するとキンと甲高い音を上げて衝撃が伝わった。衝撃に逆らわないように、そのまま後ろに下がって距離をとると、再び短剣を構える。
「もう充分だ。Cランク冒険者でさえで、対人戦でここまでできるやつは多くはねぇ...魔物相手だと少し心配だが嬢ちゃんなら無謀なことはしなさそうだし合格で良い。」
内心でほっと息を吐くと構えを解く。身体強化を使い続けての戦いは初めてだったため、体力に余裕があっても精神的に疲労を感じた。けれど相手が武器を置くまでは最低限の警戒は解かない。試験といえど残心は大事だ。
そしてラティアーナの様子を見ていたおじさんも、表情には出さないが意外に思っていた。
普通は合格を伝えると試験が終わったと思って武器を納めて警戒を解く。つまりはもう危険がないと思って安心するわけだ。けれど油断が一切無いラティアーナの佇まいは、熟練の冒険者であっても不思議ではない。
そして不思議なのは出自についてだ。歳の割りに大人びているのはスラム街に生きる孤児などに多くみられる。けれど身なりは綺麗で文字を書けるほどの学がある。しかも単に文字を書けるだけでなく筆跡がとても綺麗だった。それこそ平民であっても高度な教育を受ける商家の子のようにだ。
おじさんのことを見つめていると
「プレートを発行するから受付までついてきてくれ」
と言ったため、そのまま付いていく。受付まで戻って少し待つと、無事に冒険者登録が完了した。証として銅製のプレートを受け取る。
「俺はここの支部のデュランっていう。なにかあったら相談に乗るぜ。」
「デュランさんですね...今日はありがとうございました。」
おじさんもといデュランは、粗野なところは少しあるが優しそうな人だった。顔こそ少し怖いものの面倒見も良さそうだ。
私は挨拶をしてギルド支部を後にした。
ここからは戦闘や冒険についても書いていきたいと思います。




