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第七話。格闘バカ、レベルの高さを見せつける。

「ぬん!」

 相手はわたしとエビレイに向けて、同時に魔弾を放ってきた。

「くっ。重たい」

 わたしは右手で軽く払い飛ばしたが、エビレイは対処できなかったらしい。

 

「私は魔法を得手としている。ミスマギラ以上にな」

 魔弾を休みなく打ちながら、敵はそう解説した。

 力んだような声でも顔でもないと言うことは、大したことではないらしい。

 

「くっ、隙間がねえ」

「なんて奴。片手で左右に魔弾を打ち分けるとは。

しかも、正確にこちらを狙ってきている。しかし、

片手で打っているのが気になるが」

 

 流石にこの勢いを、手で払いのけ続けるのはめんどうだな。

 余らせているもう一方の手に、なにを隠しているのかわからないが、

 つついてみるのは悪くないか。

「はっ!」

 敵に向けて飛び、顔面に向けて、右の拳を振り下ろす。

 

「ぐおあっ!」

「大人しく喰らったか」

 軽く吹き飛び、ゴロゴロと転がる様を見て、わたしは敵を見据える。

 なにかを狙ってわざと受けたのだろうと、これまでの戦いで判断している。

 

 だが、問題なのはなにをするのか読めないことだ。

 しかし読めないからと言って、なにもさせずに相手をしとめることは、

 わたしの流儀に反する。執拗な追撃はしない。

 相手を倒すために手段を択ばないのは、格闘家ではない、

 そうわたしは考えている。

 

 たとえそれで危機に立たされようと、それはわたしが自ら招いたことだ。

 誰を責めるわけでもない。

 

 

「本当に、お前たちは甘い」

 起き上がった敵は、それぞれの手に別の色を宿していた。

 左に濃い白、右手には黒に近い紫だ。

「エビレイ! さっきの反射の力を!」

「わかってる!」

 

「遅い!」

 奴は、左手の力を放った。それはこれまでの魔弾よりも色が濃いが、

 物そのものはさきほどまでの魔弾と同じ物だ。威力を上げたんだろう。

「左手は牽制用かっ!」

 こいつ、わたしたちが対処することを見越して、わざと両手の力を見せたかっ。

 

「ぐっ!」

 盾を構えて準備を始めたエビレイは、その一撃をよけられず、

 魔弾は器用に腕や盾の間を通り抜けて胸に着弾。

 エビレイは体勢を崩してしまった。

 

「ならば!」

「バインド・ダ・ドーン!」

 奴の右手、黒に近い紫が広がった。

 僅か、エビレイに意識が持っていかれたのがまずかった。その隙を衝かれたっ!

 

 

「な、なんだっ!」

「くっ。これは……! この魔法はっ」

「『遅い』と、言ったろう?」

 重たい。上からとてつもない圧力がのしかかって来ているっ!

 

「この魔法は一種の状態異常を引き起こす魔法で、高等な物でな。

一定範囲に、動きを遅くするフィールドを生成する。

回数にして、知れば誰でも使える同種の魔法十回分、

それを継続して展開している状態だ」

 

「ペラペラと、よく喋るな、貴様」

 抗える物ではある。だが、それでも骨が折れるしろものだ。

「ぐ、うう。俺の、力じゃ、地面に押し付けられないようにするので、

せいいっぱいだぜっ」

 それでも口が利ける辺りは、だてにここまで戦い抜いて来ていないな。

 

「潰して殺してやりたいところだが、それをするには全力を傾けないといけないんでね。

まあ、私の生き方に感謝したまえ」

 そう言って、奴は哄笑をあげる。

「野郎っ。そう、いい、ながら、苦しむ、さまを

楽しんで、やがるんだろう。クソ趣味だなっ」

 

「余裕があるな、流石勇者、と言っておこう」

「貴様を、殴れれば、これは、止まるんだな」

「当然だ。術者の集中を切れさせるわけだからな。だが、いくら化け物とはいえ

その重圧の中を、どうこちらまでやって来るつもりだ?」

 

「はぁぁ……!」

 呼気と共に魔力を開放する、流麗烈火の型を発動させる。

 しかし、空間が他者の魔力に支配されているからか、うまく力がめぐって来ない。

 だが、それならそれで対処のしようはある。簡単なことだ。

 

 全身が無理ならば、まずは一点に回せばいい話だからな。

 とはいえ、強引に魔力の展開方向を変えるのは苦手だ。

 この型の応用は未だにうまくできん。

 だが。やらねばなっ!

 

「う、おおおおっ!」

「バカな、腕に体重をあずけて進んで来ているだと!?」

「ぐ、ううう!」

 なにか、体の周囲から異音がするな。だが、肉体でないなら問題はない。

 

「腕はめぐった。次は、足だ!」

「バインド・ダ・ドーンの重圧の中で、前進するために足を動かし、

それで全身出来ているっ!? しかも、己の魔力を操作しながら。

力尽くにもほどがある。これが魔王さえ超えるレベル、

レベル100の身体能力だと言うのかっ!」

 

 地面を一歩毎に抉りながら、わたしは徐々に敵へと近づく。

 四肢に力がめぐった。後は残る身体へ魔力を広げれば!

 

「くっ。潰れろ!」

「感謝しよう。貴様が全力を出さないことをな!」

 魔力は全身に行き渡った。少し歩くのに重たいが、

 この程度は修行で背負ったことのある重みだ。

 むしろ、懐かしささえ感じる。

 

「なんだ、なぜ笑う?」

「いや、この体にかかる重みが懐かしくてな」

「なんだと?」

 

「昔、15のころだったか。これぐらいの重みを背負わされて

修行した時期があったんだ。とはいえ、今でも歩くのに、

苦労するのだから、まだわたしは鍛える余地がある。

感謝しておくぞっ!」

 今の一歩、ちょうどだ。ちょうど拳が届く距離だ。

 

 だから、わたしは振るった。右の拳を。重圧を押し開きながら。

「ぐああっ?!」

 手応えは軽かった。だが、吹き飛び裏返った奴の悲鳴は、

 すなわち集中の霧散を、魔法の解除を意味した。ならば、充分だ。

 

「やはり、手応え通り浅かったな。大して飛ばなかったか。

腕が伸びきったところで突き出た拳など、こんな程度か」

「き、貴様。今、今なんて言った?」

「大して飛ばなかった」

 

「うつけがその前だその前。貴様は今、たしかにこう言った。

まだ鍛える予知がある、と」

「そうだろう。過去の修行から身体能力が、こと重圧をはねのける力が

育っていないのだから」

 

「貴様、わかっているのか?」

「なにがだ?」

「貴様のレベルは100。もうなにをどう頑張ろうが、なに一つ成長することがない。

そこが貴様の限界だ。それ以上なにをする? 無駄だろうが!」

 

 

「なにを錯乱しているんだ? 限界だと? そんなものを、数字如きで決められるものか。

レベルの最大が100とは言うが、それはいったい

誰に決められた限界だ? 誰が決めた限界だ……!」

 不愉快だ。その物言い、実に不愉快だ。

 

「数字で物の果てを見た気になっているならば、

貴様は、目にもとまらぬ領域にまで到達した己の速度と言う研鑽の結果ではなく、

攻撃手段にすぎない武器を誇ったベリファスにも劣る」

 右の拳を握りしめたのと同時に、右足を一歩、踏み込んでいた。

 不愉快をそのまま込めた踏み込みで地が爆ぜる。

 

 奴は一歩後ずさった。着物小さいことだ。

 己の力を出し尽くさないこいつらしいとも言えるか

 

「ベリファス以下だと?」

 僅か悔しそうな表情をして後、歯を食いしばって呟いた。

 どうやら、こいつの中でベリファスは自分よりも劣る者と言う認識らしい。

 

「な、なら。貴様はどうなのだ化け物。レベルに頓着していないようだが、

貴様はレベルが最大と言われてどう思ったのだ?」

 未だにわたしの気迫に押されたままらしいが、それでもこう問うて来た。

 せめてもの仕返しか、化け物呼びで問われて多少不快だが、

 いちいち化け物呼ばわりを訂正するほど、こいつと中を深めるつもりはない。

 

「わたしの研鑽は、誰かが決めた指針で成長しない地点にいると言われても、

『だからどうした』だ。わたしの路は、誰かに決められたところで止まるほど

薄くはない。

 

貴様のように、その数字に操られ己と戦うことをやめ、

あまつさえ力を加減したまま終わるつもりの輩には、

決してわからんだろうがな」

 

 

「たしかに。パリーは自分の修行の年月を話しに出すことはあっても、

レベルが100だと言われても、修行をやめる気配は微塵も感じないな。

レベルに関しては、俺達に出会うまでその存在を知らなかったようだし

無理もないとは思うけどな」

 

「エビレイ、大丈夫なのか?」

「おかげさまで、体が軽いぜ」

 言うとエビレイは、敵の魔法で中断された魔法反射の力を使う準備を再開した。

「そっちこそ、大丈夫なのか?」

「ああ、まったく問題ない」

 

「そうかい。肌の露出が上がって、こっちとしては

目のやり場に困るんだけどな」

 なぜか、呆れ半分に言われた。

「肌の露出?」

 

「お前、気付いてねえのかよ? バインド・ダ・ドーンの中を強引に進んだ時、

空間の圧力に耐え切れなくなって、服が裂けてんだよ」

 エビレイ、こんな口調ではめったに喋らない。

 よっぽどわたしの物わかりの悪さが気に障っているようだ。

 

「そうだったのか。つまり、あの異音は服が裂けた音だったわけか」

「流石はイロに無頓着なパリーさん。冷静ですこと」

「褒められている気がしない」

 褒めてねえからな、といじけたような付かれたような調子で返された。

 

「腕、足、上も横っ側が半分裂けてて、

横っ腹は元より、横乳まで見えそうになってんの……!

太腿に横っ腹に横乳に、そんなに肌出てたら

目のやり場に困るんだ、こっちは!」

 更に日常の調子で畳みかけられてしまった。しかも、なぜか苛立たしげに。

 

「そうは言うが、ならどうすればいいんだ?」

「わかってたら、こんなに動揺してねえっつうのになぁもぉこいつは!」

 独り言みたいに吐き捨てられた。どうしろと言うんだ、わたしに?

 

 

「ずいぶんと仲睦まじいことだな」

 そんな声と同時に地響き。

「とびのけ!」

「そうだなっ!」

 

 わたしたちが飛びのき着地した直後、わたしたちが

 今まで立っていたところの地面を含めて、四か所がみるみる巨大に隆起。

「なんだ、これは?」

「巨大な……柱か?」

 

 

「違うぞ勇者。

そこの化け物が、これまでの過程を誇れと言うのでな。私のこれまでを

少しばかり、形にさせてもらった。四体の巨大なストーンゴーレム、

それが、そいつらだ。これでもまだミドルリスクの範疇だが、

限りなくハイリスクに近い。なにせ、そいつらは

 

私の血を媒介にして生成しているからな。それに、これを使うと

魔力の回復に暫くかかってしまう」

 

 

「これが、ストーンゴーレムだと? めいっぱい見上げて

ようやく見渡せる規模のでかさだ。

正面向いてたんじゃ、腰がかろうじて見えるかどうかだぞおい?」

「だが、的が大きいのならばやり易い」

 

「まったく。お前のおかげで、スキルが封じられてる魔界にいても

戦いにゃ絶望しなくて済むぜ」

 半笑いで、だがしかしその目は力強くこちらを見ている。

「くっ」

「どうした? なんかびっくりしてるが?」

 

「いや。なんでもない」

 ここで、なぜ今。ただエビレイに戦友の眼差しを向けられただけで、

 鼓動が慌てる? 頼られることは喜ぶべきだろう?

 なぜ焦るのだ、わたしの鼓動っ?

 戦いに意識を向けさせろ、わたしの鼓動っ!

 

 静かに数度深呼吸し、鼓動をおちつける。よし。

「四つか。体当たりで粉砕できた小型と同等程度の動きしかできんのなら、

やりようはいくらでもあるが、奴の余裕そうな態度を見るに、

そう簡単ではないだろう。心してかかるぞ」

 

 

 「あいよリーダー」、そう軽口を叩くエビレイは、

 やれやれ言いながら、魔法反射の力を展開している、

 盾の持ち手に剣の柄を噛ませた状態を解除して構えた。

「さて、石材にして戦利品として持って帰ってやるか」

「わたしに持てなどと言うなよ」

 

「さて、どうしましょうかね」

 おどけて見せた直後、真剣な表情になる。

「そろそろ始めるか。やっこさん、

お待ちぼうけのようだからな」

 

「そうだな。おかげで奴には空に距離をとられた。

雷にでも打たれかねんところにいるのは、攻撃回避にはいいだろうが

いささかおおげさだ。ともかく。

石材が残るか石ころが残るか。いくぞ」

「おう!」

 

 

 わたしは改めて、てきを見据え構えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者が! パリーさんの横乳を……!!w そりゃぁ気になるよね! やだもうニヤニヤ展開(むふ)。 そんな場合ではないのに、エビレイもパリーも読者をニヤニヤさせてくれる胸の内が良き!
[良い点] 横乳でも太ももでも見たければ勝手に見るがいい! ぐらい言いそうなパリーさん。 かっこいいw &セクシー!♡ 二話目ではエビレイを意識して云々的なことを言っていたけれど、連戦続きで戦闘モード…
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