表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

突き指詰まり 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おー、つぶらやくん。申し訳ないが、ばんそうこうか何か持ってないかね?

 いや、急に寒さが戻ってきたと思ったら、とたんに指があかぎれしちゃってさ。この手のダメージ、私はどうも血が止まりづらい性質のようでね。ほれ、もう前のばんそうこうが血まみれに……。


 ふう、すまない。助かったよ。自分の身体ながら、もうちょっと丈夫にできていてほしいなと、つくづく思うよ。

 人もここまで、そこそこの年月を存在し続けているのに、暑さ寒さを身一つで克服するまでには至っていない。

 恒温動物の宿命、といってしまえば仕方がないけれど、このばんそうこうをはじめとする医療の発達も、弱っちい身体だからこそ、できたといえるだろう。人間全般、縛りプレイ好きというか、制限がかかったとたん、脳細胞が回転を増すようだね。

 しかし、いくら治療を試みても、どうにもならない状態に、陥る危険は常にある。予防予防の精神は、いつも持っていた方がいいだろうね。

 お礼代わりといっちゃなんだが、ひとつ昔話を聞いてみないかい?

 

 私が小学生だったころの話だ。

 その日の体育はバレーボールがあって、当時は男女でさほど体格差がなかったからか、混合で試合をしていたんだよ。

 私のチームも相手のチームも、そこそこ技術はあったからね。お互い、小学生なりのスパイクを見舞う、派手な試合運びになった。

 だが授業の終わり近く。ポイントももう少しで決着というところで、事故が起きた。

 放り込まれたサーブは、オーバーかアンダー、どちらでレシーブするか、判断に困る高さで、彼女の下へ飛んでいった。一瞬の躊躇ののち、彼女はやや腰を落とし、オーバーハンドで受けようとしたんだ。

 ちょうどセンターにいて、間近で見ていた私には見えたよ。彼女の伸び切った右手の人差し指が、他の指より先にボールへ触れた瞬間を。

 なかばボールをはじく形になり、直後に彼女は右手を抱えてうずくまってしまう。間違いなく、突き指をしていた。

 

 

 いったん保健室へ向かった彼女が教室へ戻ってきたのは、体育の次の授業、三分の一が過ぎたあたりだった。

 指を何本か束ねて、くくったんじゃないかと思われるほど、人差し指一本に対して、大仰なほどに包帯が巻かれていたよ。

 だいぶ指が腫れていたんだろうか、とその時は思ったんだけど、彼女は次の日も、その次の日も、この極太な包帯を指に巻いたまま、学校へやってきた。


 ――三角巾や松葉杖のノリで、目立ちたがっているんじゃないか?


 なにかと自意識が強まるお年頃の私は、彼女の包帯を「かまってちゃん」の一部だと考え、少し疎ましく思いだしたよ。実際、ケガしているアピールになって、彼女のことを気に掛ける人が、いつもより多いし。

 面白くない私は、あえて心配の輪に入らず、遠目に彼女の指を観察することにしたんだ。

 包帯が過剰演出だという疑惑は、すぐに確信に変わったよ。教室移動の際、彼女が胸に抱えるようにした教科書へ、指の包帯の先が当たったとき、「ぐにゃり」と先端が曲がったのさ。だぼだぼの余裕があるってわけだ。


 そのうえ、彼女はどうやら学校にいる間で、何度もあの細工包帯を取り換えているらしかった。教室のゴミ箱へゴミを捨てようとすると、ときどき彼女の包帯が、あの指に巻かれた形のままで捨ててあるんだ。

 さすがにそれを漁るのははばかられたが、数日後にたまたま包帯が、指の付け根側。つまり穴が開いている側を上に向けて、捨てられていることがあってね。ちょっとのぞけた包帯の中身を見て、眉をしかめてしまった。

 指の付け根から、おそらく第三関節に至るまでのところ。そこにびっしりと黒いシミが張り付いているんだ。

 血だとしても、ここまでは黒くならないはずだ。赤とか黄色とかが混じっていてもおかしくないのに、墨でも垂らしたかのように思えたのさ。



 一カ月が経っても、彼女の指包帯は健在のままだ。

 ぼちぼち日常化してきたせいか、彼女に構う人は少なくなり出している。

 今が好機とばかりに、私は他の人がいないタイミングをはかり、彼女を問いただしたんだ。ケガのほか、たまたま見た包帯の色のことについてもね。

 すると彼女は、休み時間だとまずいからと、わざわざ放課後に近所の公園での待ち合わせを提案してきた。この手のお誘いには裏があると、アニメの見すぎで想像してしまう私は、期待よりも警戒心が上回り、ポケットの中に石を何個か詰めていったのさ。

 一応、護身用飛び道具というわけだ。


 だが心配しているような事態にはならなかった。いや、事態は思ったより深刻だったかもしれない。

 私の前で包帯を取ってくれた彼女の指、その付け根から第三関節の真ん中あたりに、真新しい皮膚が、張ったばかりのところがあったんだ。治りかけのかさぶたのようにも見えるが、その形状は彼女の指をぐるりと取り巻いていた。あたかも指輪を思わせたんだ。

 それだけじゃない。彼女はポケットの中から一枚写真を出し、私へ見せてくれる。三か月ほど前の旅行で撮った写真らしく、彼女がカメラ目線で手を振っている瞬間だった。


 何を伝えようとしているのか、私にもすぐ分かったよ。

 写真の中の彼女と、目の前にいる彼女では、人差し指の長さが違う。いまの彼女の人差し指は、爪ひとつ分の差はあった小指と、ほぼ同じ長さになっているんだ。


「突き指してから、この黒いところから、なんか出るようになっちゃってさ。よく包帯換えているんだ。けど、指が短くなっているのに気が付いたのは最近。

 こんな格好、おいそれとは見せたくないでしょ? 早く収まってくれるといいなと思っているんだけど……」


 ふっと、彼女の目が一気にさみしさをたたえて、私はそれ以上何も言えなくなってしまう。

 結局彼女は、事故から三か月後に転校し、私たちの前から姿を消した。その前日まで、やはり指に包帯をまいたままで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 言われてみれば、子どもの頃は大したことのないケガのうちは、ちょっと大げさにアピールしたりもしたけれど、何となくシャレにならないかもと思い始めたら、途端に口数が減ってしまったりです。 とても面…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ