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退職記念の宝くじ

「山田さん、どうも

今までお疲れ様でした〜」


そう言われて

職場の皆に見送られる。


今日も以って、何十年も勤めた

この会社を退職。


花束を渡され、

拍手をしてくれてはいるが、

泣いている人は一人もいない。


そう言った関わり方を

他人として来なかったのだから、

それは当たり前のことでもあろう。


別にそこは問題ではない。


自分も寂しい訳でも

悲しい訳でもないし、感慨もない。



以前、誰かに


「スキゾイドパーソナリティ障害ではないか?

一度病院で診て貰ったらどうか?」


そう言われたことがある。


何の病気かと思い

ネットて検索してみたら


「社会的に孤立していて、

対人と接触を好まず、

感情の表出が乏しく、

何事にも興味や関心が無いように見える」


そう説明が記載されていた。


まったく、

余計なことを言う奴がいるものだと

その時はそう思ったが


もしかしたら、

その人は皮肉などてはなく

本当に自分のことを心配して

病院を勧めてくれたのかもしれないし


それを皮肉と感じでしまった

自分に問題があるのではないか?


他人の助言に感謝せずに

余計なお世話だと思うことが、

そもそも病気なのではないか?


結局、そう悩むことになる。



その病気の症状自体は、

まったく自分に当てはまるもので、


むしろその人は

自分のことをよく観察していたのだなと思う。


それはそれで、

そんなに細かく自分のことを

チェックされていたのかと

気味悪く思わないこともない。


よく世間で言われている面倒臭い奴、

自分がそれに該当するのは

間違いないだろう。



満員電車での帰り道、

これも今日で最後かと思うと

そこは少し安心する。


他人との接触を好まない

自分からしてみれば


自分史上最高レベルに

他人との距離が近いのが、


この満員電車であり、


自分史上最高が

毎日、日に二回やって来るのだから、

そのストレスと疲労は

たまったものではない。



だが、こんな自分にも妻が居た。


三年前にすでに

他界してしまっているが……。


妻は、こんな自分のことを

よく分かってくれていて、


なんの反応も無い、

感情の変化も乏しい自分を相手に

一人でずっと喋っていた。


とにかく話せれば、

相手が動物であろうと

人形や置物であろうと

なんでもよかったのかもしれないが。


そして、とにかく、

よく笑う女だった……。


そんなだから、

当然私達には子供もおらず、

明日からはずっと家でたった一人だ。


さすがにこのご時勢

貯金だけでは暮らしていけないだろうし、

年金も当てには出来ないし、

やはり適度には

働かなければならないだろう。


さてどうしたものか…。


そんなことを、

周りに他人が密着した状態で

考えてみる。



家の最寄り駅に着いた私は、

駅前の宝くじ売り場が

ふと目に入った。


毎日、朝晩、何十年にも渡って、

見慣れた筈の光景だったが、


そこが宝くじ売り場だと意識したのは

はじめのことだったかもしれない。


絶対に当たらないとは分かっていても、


退職の記念に

人生で初めての宝くじを買う、

それもまた悪くないのではないか?


そんな考えが頭を過ぎる。


初めての記念であれば一枚の方が

むしろ思い出になっていいだろう。


そう思って

一枚だけ宝くじを買う。


まぁ、もう二度と

買うことはないだろう。


「ほぉ、これは

六億円も当たるのか……。


最近の宝くじは

随分と高額景品なんだな……」




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