推しへ、待ちに待った推しカプの旦那がデビューです
春から始まるエターナルランドの新パレード。その名も『シルフ・ウェルカムスプリングパレード』
シルフが主役として主催する春のパレードであるが、今年はシーズンによって主役となる精霊が交代し、四季によって見所が変わっていく。
夏は『サラマンダー・ウェルカムサマーパレード』秋は『ノーム・ウェルカムオータムパレード』冬は『ウンディーネ・ウェルカムウィンターパレード』である。
主役となる精霊が先頭のフロートに乗り込んで、ゲスト達を楽しませるように盛り上げていく。
パレードの停止位置に入ればフロートから降りて来て、ゲスト達と軽く触れ合える主役精霊との交流会が始まる。主にハイタッチだ。
そんな主役フロートのあとには残りの精霊三人が乗るフロートやマスコットキャラクターのケット・シーのケート、クー・シーのクーリュといったキャラクターが乗ったフロートなども出て来る。
もちろん先頭にいる精霊が主役ではあるが、残りの三人によるアドリブ演技がまたいいのだ。
フロートの上でわちゃわちゃしたり、停止ポジションでは三人一緒に降りてはさらに小芝居をする。
このときのマイクの音声は停止ポジション付近にいる人にしか聞こえないのでファンはこのために場所取りを頑張ったりするものだ。
さて、ただいま私はその本日から始まるパレードを最前列で待機なう、なわけです。今回の場所取りをした所は三精霊ファースト停止ポジションである。つまり、サラマンダー、ウンディーネ、ノームが降りてくる場所だ。
パレード開始まで間もなくだが、緊張で胸がやばい。鼓動が早すぎる。
なぜここまで緊張するのかというと、前世ならば本日が推しカプ共演デビュー日だからである!
推しのノームと、白樺のサラマンダーが同じ舞台に立つ記念の日!
違う事務所の雪城さんと初詣のときにはすでに知り合っていたし、白樺がアクターデビューするのは間違いないはず。
……とはいえ、不安はある。一度目の橋本 絆奈ではいなかった水泥くんがアクターとしてデビューしたり、推しと雪城さんが未だに結婚しない今、どう人生が変わるかわかったものではないのだ。
だから必死で願った。白樺来い! 白樺来い! 白樺来い! 君がデビューしてくれないと推しカプであるしらねやがいつまで経っても描けないし、民も増えないんだから!
何度も心で祈りながら、緊張で死にそうになりながらも、時刻は午前十一時。シルフ・ウェルカムスプリングパレードが始まった。
スマホの動画準備もばっちりである。
音楽と共にゲストに向けて手を振り、声優の声に合わせて口パクで話すシルフが先頭フロートに乗ってやって来た。今日の子役シルフは女の子のようだ。
『ウェルカーム、エターナルランドー! 今日は僕がパレードの主催者だよー! みんな楽しんでね~』
シルフは安定の可愛さである。もちろん、子役シルフにも追いの人がいるのだけど、子役故に成長は早いのでシルフ役は長くて二年くらいしか務められない。
もちろんシルフを卒業しても追ってる人は外部も追っているし、ただシルフというキャラクターが好きで中身はどの子も平等に好きだという人もいる。シルフ界隈はなんだか大変そうだなといつも思うのだけど。
この春のパレード、シルフのフロート周りには風の妖精達が元気に飛び跳ねたり、身軽に動き回る。主にアクロバットの上手いダンサーさん達で構成されていた。
先頭フロートが通り過ぎると次はケーシーとクーリュのフロートである。着ぐるみとはいえ、猫と犬の妖精であるあのマスコットキャラクターは子どもはもちろん、大人も好きな人が多い。
彼らの耳を模したカチューシャもよく売れているし、ぬいぐるみを抱えている子だって沢山いるのだ。人気になるくらい愛らしい姿もしているし。
しかし、マスコットキャラクターがパレードに登場するのは久々だった。彼らはパレードよりショーだったりグリーティングによく出て来る子達なのだが、今年のパレードには参戦している。
そのため、パレードを見に来てる子どももいつもよりかは若干多く感じた。
そんなマスコットキャラクター達のフロートが通り過ぎるといよいよ本命の三精霊が乗ったフロートの登場である。
スマホを三人に向けてしっかりと動画に記録しなければ。
『シルフはよく頑張っていますね』
ウンディーネは雪城さんだ。うん、前世でも初日は彼女だった。相変わらず頭のてっぺんから足の先まで綺麗である。
『調子に乗らないといいんだが……』
推しーーっ!! ウンディーネの隣のノームは推しのノームだ!! 知ってた!!
推しが推しの役するのほんと最高……その心配しながらの溜め息混じりの声も凄くいい……声良すぎて耳が死にそう。その一言だけで人を殺せる推し凄くないっ? 顔も相変わらずいい。何度も言うけど推しの顔いい。
『相変わらずお堅い奴だなぁ、ノームは』
ああああっ!! この声! その顔! まさしく白樺 譲! 来た! 白樺サラマンダーが来たぁぁぁぁ!! 今夜はお赤飯だーー!!
しかも早速ノームの肩に腕を回してからかってる……そこアドリブなの知ってるんだからね……。そのあとノームが鬱陶しそうに振り解くんだけど、生で推しカプのサラノムが見られる日が来るなんて……。
ううっ……死に戻って待つこと二十一年……長かったし、この日が来るのを待っていた。動画でしか見ることが出来なかった推しカプ初共演日。
やばい、嬉しさのあまり感情が爆発して吐きそう……吐けないけど。でも、なんとも言い難い感情でいっぱいいっぱいなんだ。
いっそのこと泣きたいけど、ここで泣いたらやばいオタクだと思われてしまう。さすがにそれは勘弁したい。やばいオタクではあるけど、迷惑はかけたくない。
三精霊が乗ったフロートが停車し、三人が地上に降り立つ。出発までの間、ほぼほぼアドリブで繋げるという、アクターからするととんでもない時間が始まった。
ウンディーネが先頭となり、ゲストの前を歩いていく。彼らはゲストの小物などに沢山反応し『そのカチューシャ素敵ですね』とか『ケートのぬいぐるみか。彼女には会えたか?』とか『お前らずっとカメラっつーの? それ撮ってて楽しいのかよ』とか三者三様でゲストに声をかける。
って、白樺ほんと絡む気なさそうなのがヒシヒシと伝わる。あまり声をかけないからだ。今日がデビュー日だっていうのになぜこうもふてぶてしいのか?
先頭のシルフフロートじゃシルフがみんなにハイタッチしたり、愛想良く振り撒いて可愛いダンスを披露したりするのに……白樺、推し以外に興味ないのだろうけど、もう少し構ってあげて。未来の君のファンの子達もいるんだから。
『あら……?』
先頭の雪城さんウンディーネが私の前で立ち止まる。……なぜ?
彼女が立ち止まったことによりノームとサラマンダーもつられてストップする。
『彼女、水の妖精の加護が宿ったネックレスをしているわ』
その言葉に自身の首にかけているアクセサリーの存在を思い出す。
水の色をしたドロップ型のネックレス。これは学生時代の修学旅行にて水泥くんが私にとくれた水の妖精をイメージしたものだ。
エターナルランドのアクセサリーなので、インパするときにたまに付けさせてもらっている。
雪城さんは恐らくこのネックレスが売られていることを知っているから声をかけたのだろう。
だが、しかし、それを私に言わなくてもいいのでは!? ほら、推しと白樺だって見てる! 絡まなくていいよ!
『今度は地の加護が与えられた物を付けるといい』
小さく笑う推しノームの破壊力たるや大変なものである。もう推しノームの姿だけでなく話しかけられるだけで加護があるよ! 十分すぎるよ!
『……』
白樺、無言なのか。いや、台詞が欲しいわけじゃないけど役に徹して。色々と私のことが気に食わないのだろうけど、あからさますぎではないかい?
三精霊が私の前から去るとフロートへ戻った。サラマンダーが先に乗り込み、続いてノーム、ウンディーネが階段を上る。
そこでサラマンダーがノームの手を掴み、思い切り引っ張ってバランスを崩させた。転けることはなかったが、その様子をニヤニヤしながら笑うサラマンダーにノームはムッとした表情で彼を睨む。
しらねやのサラノムだ~~!! ほんっとに白樺は寧山にめちゃくちゃ絡むんだからーー!!
すぐちょっかい出すし、推しに構ってアピールが強い。これ、推し以外のノームだったら自ら絡みに行かないからね? 推しのみに見せられるちょっかいなんだよ? それって寧山大好きすぎるからでしょ?
しかし、推しノームは雪城さんウンディーネの方に寄ってゲスト達に手を振った。それが気に食わないのか二人の間に割り込んで、ゲストに手を振り始めたのだから白樺サラマンダーの推しノーム好きが異常である。
そんな傍若無人な態度のサラマンダーにウンディーネが溜め息混じりで彼の額を軽く叩くと、彼は子ども扱いするなと言いたげにその手を払い除ける。
これ、サラウンの民が騒ぐだろうなぁ。男女カプならこの二人が一番人気なのだから。
ノムウンも一定数はいるんだけどサラウンに比べると少ないんだよね、解せない。ノームいいじゃないか、ノーム。
次の停止ポジションへと向かいフロートが動き出すと、サラマンダーはノームの肩に腕を乗せて、自身の腕置き場にするような接触を見せる。
うわああっ、眼福すぎる! ほんっと抜け目ないよね! 事あるごとに推しに絡んでいくの最高です!! 白樺ありがとう! デビュー日とは思えない推しへの絡みをありがとう! 感謝を込めて手を振るよ! 白樺ずっとそのままのあなたでいてね! サラマンダーの演技は素になりすぎるけど! ときめきをありがとう! 本当に待っていたかいがあった! 推しカプのせいですでに死にそう!
こうして、念願だった推しカプ初共演日を見守ることが出来て、わかっていたとはいえ心臓発作でも起こすのではないかという供給を受けた私はSNSを捌け口にした。
『皆様に大事なお知らせがあります。本日のウェルスプでの新火×地による絡みにて白樺×寧山に目覚めたことをご報告します。現地からは以上です』
シルフ・ウェルカムスプリングパレード、略してウェルスプの一回目が終わったあと、急いでそう呟いた。
彼らのイチャつき具合はそのあと違う人が撮った動画で沢山拡散されるだろうけど、最初と最後のしらねやの絡みは私も裏垢に投下する。絡まれた所だけは切り取って。
とりあえず早くこれを見てくれとフォロワーに伝えるために投稿すると、彼女達の反応は早かった。
『えっ!? 新火の子めちゃくちゃ絡み強くない!?』
『白樺くんっていうの!? 特定早っ!』
『白樺は寧山と同じ事務所の後輩だよ』
『マ!? 付き合ってるじゃん!』
『しらねや良き』
さすが我がフォロワー達……順応力高くて嬉しいよ。
少しばかり安心しながらタイムラインを眺めていると、とある呟きに目が入った。
『寧山さんと同じ事務所ってことは水泥くんとも一緒ってことだよね? 火役同士だから絶対オンステでは顔を合わさないけど、中の人同士では顔を合わせたりするから、しらみどかみどしらの可能性もあるのでは?』
あ~~!! なーるーほーどーねー! そっちに持っていく人もいるのかー! 水泥くんこっち界隈でも確実に人気になってきてるなぁ。
『天才では? しらみど欲しい』
『当方リバ可です』
『そういえば初詣のとき雪城さんを含めた四人で神社に行ってなかった?』
『リツイートしました』
そしてタイムラインには推し、水泥くん、雪城さんのアカウントで初詣に投稿していた神社前で撮った写真が流れてくる。……この写真撮ったの私なんだよな、とはさすがに言えない。死んでも言えない。
その後、白樺のアカウントも見つけて来たらしく、タイムラインに最新の呟きが拡散された。
『白樺の垢発見』
『フォローしにいく』
……よし、これで白樺のアカウントをフォローしにいきやすくなったね。
さすがにデビュー前にフォローしたら仲間になんでって聞かれたときに「未来の推しカプの旦那だから」なんて言えないから我慢してたんだよ、私もあとでフォローしとこう。
そういえばシロザクラさんが浮上していないなぁ……早く動画見てほしいんだけどなー。しらねやに目覚めてほしい。
将来的に飲み仲間にもなる天月さんとネココさんとも早く繋がりたいからお二人も早く目覚めてほしい!
気が早いけど、ずっと待ってた時代がようやく来たのだから仕方ない。早くずっと溜めていたしらねやネタや落書きなどを沢山投稿したり、本にしたり、イベント参加もしなくちゃ。
白樺がデビューしたのでやりたいことを指折り数えながらそわそわしていると、私の呟きにリプが来た。
『縁さん! しらねやの人になったんですか!? 嬉しいです!!』
おぉ、シロザクラさんだ。凄い食いついてくる。しらねや初共演を見てすぐ転がり落ちたのだろうか。想像以上にしらねやに落っこちるのが早かった。まるでこの日を待っていたかのような様子である。
とはいえこんなに早くしらねや仲間が増えるのはとても有難いことだ。
『もしかしてシロザクラさんもですかっ!?』
『はい! とても刺さりました! 縁さんの絵でしらねやが見られるのを楽しみにしてますね!』
嬉しい……シロザクラさん本当に持ち上げるの上手い。彼女のためにも自分のためにもしらねや創作に力を入れねば!
早速今日のオンステでのレポ絵を投稿したらみんないい反応をしてくれたので、しらねや普及という名のフォロワー刷り込みをこれからもじゃんじゃんやっていこうと思います。
ふふふ、今世では前世よりもしらねや民を作って人様のしらねや本に囲まれた生活をするぞー!




