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推しへ、イルミネーションを見に行きました

 鑑賞会が終わった頃、ニーナから「せっかくやから公園のイルミネーション見に行かへん?」という話になり、お母さんと安堂さん、水泥くんのお母さんとはそこで別れて、同級生四人で地元ではかなりの広さを誇った自然公園へと向かった。

 時刻は夕暮れどき。昼前に歩いて来た頃より比べて外は冷えていて、雪が降らないのがおかしいくらいであった。


 自然公園は大きな池や園内を一周する小さな機関車が走ったりしている。普段から公園に来る人は多いのだけど、冬場のイルミネーション時期は特に人が増えるので、まだライトアップしていない公園でもそれなりに人がいた。

 イルミネーションが始まるまでどこかで座れたらいいなぁと思いながら公園を散策していると、噴水近くのベンチが空いていたのでそこに座り四人で噴水を眺めながら話に花を咲かせた。

 ……そうだ。今なら聞いてみてもいいのでは?


「そういえば芥田くん、水泥くんの家に住まわせてもらってるんだよね?」

「!?」


 水泥くんが驚いた顔でこちらを見る。あ、これ水泥くん知らないやつか。


「せやねん。安堂さんの計らいでな」

「は、初めて聞いた……」

「そうなん? 俺てっきり聞いとったと思ってたわ」

「詳しい話を聞いても大丈夫?」

「詳しいも何も、ある日家に帰ったら『この家解約したから一週間以内に出て行け』って書き置きだけ残されててん」


 あっけらかんと話す内容にしてはヘビーなんだけど? なんか他人事のように言ってない!? 芥田くん主人公の話が普通に仕上がりそうなんだけど!

 帰る家をなくした少年が路頭に迷っていると、尊敬している師匠に事情を話して、これからどうしようか悩んでいると「うちに来るか?」って手を差し出されるっていう二次創作でよくあるやつーー!! 芥田×安堂だーー!!

 ……って、さすがに今は妄想にしても自重しておくべきか。


「俺、結構混乱してたんやけど、まぁこうなってもおかしないわなって思ってて、どっか家借りなあかんから師匠に修行はしばらくお休みさせてもらおうと相談したらな『うちに来ぃや!』って言ってもろうてん」


 ほぼ妄想と一緒じゃん!! いやいや、そうじゃなくて、安堂さん即決だったの!?


「……あの、芥田くんの家族って書き置き残していなくなったってこと?」


 水泥くんが気になっていたことを芥田くんに尋ねる。まぁ、彼の話から察するにそうだと思うけど、芥田くんに視線を向けると、こくこくと頷いていた。


「せやな。まぁ、あれはいつか蒸発すると思っとったけどな。俺のこと邪魔そうにしとったし」


 ネグレクトじゃん……。君、ほんとにそんな家族とずっと一緒だったの? そりゃグレたり素行が悪かったりするよね。だからといって君のやったことが消えるわけじゃないけど。

 いや、しかし、なんと声をかけたらいいんだ? やはりというか重い。


「……」

「……」

「え……なんか空気重ないか?」

「そらそうやろ……。なぁ、絆奈も水泥くんもそこまで気に病むことないで? こいつショックとかやないし、むしろ安堂さん家に転がり込めて活き活きしとるくらいやからな」

「せやで。むしろあれと離れてせいせいしとるし! 別に自分らが暗い顔することないんやからな」


 芥田くんにフォローされてしまった。まぁ、本人がそう言うならこちらもあまり憂い顔をするのはやめておこう。


 ちょうどそのときだった。まだ電気のついていなかった電飾が灯り、イルミネーションが始まる。そこでようやく日が落ちていたことに気づいた。

 公園全体が光り輝き、辺りにいた人達からも歓声が上がった。

 木々や柵に絡めた電飾、動物に似せたイルミネーションなどが視界に入るが、その光景はとても美しい。


「おぉ……これは凄いね」

「せやろー?」


 恐らく数日前までのクリスマス時期ならそれらしい装飾を施していただろうし、ツリーらしきものもあったかもしれない。今度はぜひクリスマス時期に見てみたいものだ。

 しかし、それを抜きにしても今でもなかなかに幻想的な景色だ。


「あ、せや。ちょうど近くにホットチョコレートが売っとる売店あるんよ。飲まへん?」

「いいねー! 飲む飲む!」

「よっしゃ。じゃあ私とこいつで買って来るから絆奈と水泥くんはそのままベンチの場所取っといてや」


 言うや否やニーナは芥田くんの腕を掴むと、そのまま引っ張り出して行った。


「はあ? なんで俺も行かなあかんねん?」

「アホ、空気読めや! それに私一人で四人分持てると思っとんのかっ!」


 離れて行く二人の声を聞きながら仲がいいなぁと少しばかり微笑ましく見送る。ニーナ達がホットチョコレートを買ってくれるならば私は頼まれたベンチを死守しないと。


「なんだか芥田くんと一緒にいるのって不思議な感じだなぁ」

「そっか。私とニーナは高校上がってからちょくちょく一緒にいることが多くなったんだよね。和カフェオープンしてからなんて特にだけど」

「あと、橋本さんから聞いていて知ってはいたけど、実際に芥田くんの金髪を見るのは初めてだからちょっと驚いたし」

「あーそうだね。芥田くん高校デビューからずっとあの髪なんだよ」

「そのときの橋本さんと佐々木さんの顔も見てみたかったなぁ……やっぱり高校までは一緒にいたかったかも」


 おや? どこか寂しげだ。まぁ、確かに水泥くんは高校進学を東京に決めたから知り合いのいない場所で過ごしたんだもんね。


「僕、芥田くんや佐々木さんが羨ましいよ」

「? なんで?」

「だって、高校時代の橋本さんを知ってるから」


 そんなに羨ましいことだろうか。高校なんて中学と比べても大して変わりない日々を過ごしていたけど。……多分、寂しかったんだろうね。

 高校だって大事な時代だもの。知り合いと過ごした方がそりゃあ楽しいだろうし。でも、大きくなったとはいえまだまだ甘えたい年頃なのかな。よしよし、頭を撫でてあげよう。


「はっ、橋本さんっ!? な、何してっ……?」

「心細かったのかなーと思って撫でてみたよ」


 よしよしと水泥くんの頭を撫でると、想像通りというか、彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めた。まぁ、あまり撫で回しすぎるとさすがに可哀想なのですぐにやめる。

 ただでさえ水泥くんサラマンダー鑑賞会もやったばっかりだし、恥ずかし死しちゃうかもしれない。


「でもね、過去はそうだけど、今の私を知ってるのはニーナでもなく、芥田くんでもなく、水泥くんだよ」

「っ……そ、うだね」

「そうだよっ。それに高校時代みんなと一緒に遊べなかった分これから沢山埋めていこうねっ」

「うん、ありがとう」


 どうやら寂しげな表情はどこかへ消えていったようだ。照れくさそうに微笑む水泥くんはなんだか儚げな感じがして庇護したくなる。

 しかし、これはファンの子が見たら胸を押さえて卒倒するような破壊力を秘めているのでは?


「あの、ずっと聞きたかったことがあるんだけど……」

「ん? なになに?」

「橋本さん、まだ付き合ってる人はいないんだよね?」

「うん、そうだね」

「好きな人は?」

「いないなぁ……」

「……作らないの?」


 ……って、何っ!? なんなのこの質問!? なんでいきなり修学旅行の夜に始まる恋バナみたいなこと聞かれてるの!?

 ま、まさかっ「僕は格好良くなってモテ始めたからいつでも彼女は作れるけど、橋本さんはまだ彼氏の一人や二人作ってないの?」って遠回しに言われてる!?

 ……いやいや、水泥くんそんな子じゃないから。むしろ恋人どころか恋愛すらしてない私を心配しているのでは? 大いに有り得そう!


「あー……いや、あの……私は今が楽しいからそういうのはいいかなーって……というか、推しに人生を捧げたいって言うか……」

「……つまり、寧山さんのことが?」

「いやいやいや! そんなんじゃないからね!? 私そんなリアコな目で推しを見てないから! 推しの応援に時間を使いたいってだけで!」


 ほんとその勘違いだけはしないでっ! 私、推しをそんな目で見てないし、リアコじゃないから! 本当だから役者相手にマジになってんの? とか思わないでっ! ていうか、推しと恋愛とか私の中ではご法度だから! 地雷ですっ!!


「そっか……うん、わかった……頑張らなきゃ」


 最後の言葉、ぼそっと言ったつもりだろうけど聞こえましたよ。あえて聞き返さないけど。ていうか、何を頑張るの!? 私の恋人斡旋でもするつもり!? 知らないうちにお母さんから頼まれたのっ? 「思春期の頃だって恋のひとつやふたつもしないんだから」とか随分前にぼやいてたことを思い出してしまった。


「絆奈ー水泥くんー。ただいまー」

「買うて来たで~」


 そこへホットチョコレートを買いに行った二人が戻って来た。

 待ってました! そう口にしてニーナからカップを頂く。湯気と共に鼻をかすめる甘い匂いは嗅いでるだけで幸せをもたらしてくれそうだ。

 一口飲むが、熱くて一気には飲めないので少しずつ頂いた。うん、甘くて美味しいし、少し温まってきた。


「美味しいー」

「……自分、楽しい話をしただけなんか。もっとなんか出来たやろ」

「……」


 なぜかニーナが水泥くんに冷たい視線を向ける。水泥くんは返す言葉がないというような表情で彼女から目を逸らした。……まさか、二人ともグル? そんなに私の恋人斡旋したいのっ!? わ、話題を変えなきゃ!


「そ、そうだ、明日は何する?」

「ん? せやなぁ、ちょっと考えみたんやけど水族館行かへん?」

「いいね! 水族館なんて小学校以来かも」

「絆奈らは明日の夕方くらいに帰るねんやろ? せやったら昼前に集まろ」

「うんっ」

「っちゅーわけやからメンズもええかー?」

「おー。えぇよ」

「うん、わかった。待ち合わせは駅前?」

「せやね。駅前集合で頼むわ」


 こうして明日の予定も決まったわけだし、しばらくイルミネーションを楽しんだ。

 フォトスポットのひとつである、天使の羽を模した電飾の前で写真を撮ったり、いかにも恋人用と思われるハートの形をしたイルミネーションの前で四人で写真を撮ったりと思った以上にフォトスポットも充実していて面白かった。

 時刻は間もなく十九時になる。そろそろ帰ってお父さんにも顔を見せなきゃだなと思い、この日は解散することにした。


「じゃあ、また明日ね」

「みんな寝坊したらあかんで」

「任せとき。早起きは師匠との修行で慣れとるからなっ」

「早朝に行くわけちゃうんやで……」

「橋本さんも佐々木さんも気をつけて帰ってね」


 互いにおやすみーと言い合ってそれぞれのお家へと帰っていく。水泥くんと芥田くんが同じ方向に帰るのを見て、そうだ芥田くんと水泥くんは同じ家になるんだよね。と、思い出しながら帰宅した。


 久々の我が家に帰宅すると、騒動はすぐに起こった。帰って来て早々、父に力いっぱい抱き締められたのだ。


「絆奈~~!! 会いたかったぞーー!!」

「お、お父さん……泣きすぎ……」


 若干引いてしまうくらいに大号泣である。少し離れただけなのに私の父はなぜこうも寂しがり屋なのだろうか。

 お母さんからの制止があるまで父の熱い抱擁をとりあえず受け止め、久しぶりに家族で夕飯を取る。

 二年半以上ぶりに母や父の話を聞いては楽しい時間を過ごした。しかし、明日で東京に戻るという話になると、父は明日も仕事なので朝しか会えないとしょんぼりしていた。うん、ごめんね、お父さん。


「……絆奈、今度はいつ帰って来るんだ?」

「あなた、気が早いわよ」

「うん……私もわからないかなぁ……」


 そう伝えると父はずーんと肩を落とした。今度は二泊するように日程組むから! と、なんとか説得したのだけど、二泊でも少ないと言われてしまう。えぇー……。


 そんなことがありつつ、お風呂に入ったりしたら自身の部屋に辿り着いたのは二十二時頃。

 懐かしい私の部屋。ベッドや本棚などは引越しの際に持って行ったので少し殺風景ではあるけど、学生時代に使っていた勉強机はそのままだ。

 ベッドがないので本日は母が用意してくれた布団で床に就く。

 そして明日は昼前には駅に集合と約束をしたからあまり遅くまで起きないようにしようと、早々に布団の中へと潜り込んだ。


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